019.昼寝
休日の午後。開け放たれた窓から吹き込んでくる微風が雲雀の前髪を揺らす。鍵もかけずに、ましてや全開にして寝るなんて、泥棒にどうぞ入ってきてくださいと言っているようなものじゃないか、と眼下の山本の寝顔を見ながら思う。もっとも、僕は泥棒なんかじゃないけれど。
山本の部屋には、時折そよぐ風と彼の規則正しい寝息しか音がしない。起こさないようにそっと屈み、顔をその体に近付ける。夏の寝衣なのだろうか、上半身は少し大きめの白いTシャツだった。顔の方に目を向けると、日に焼けて色の違う首元がある。元々の白さとのコントラストに雲雀は目を細める。
「起きないと、咬むよ」
咬み殺す、と言わなかったのはなぜだろう、と口にしてからふと思う。しかし僅かに反応した山本の瞼にその思いは隅に追いやられる。
「……こんな時だけは鋭いんだね」
「ん……あー、え、雲雀?」
眉をしかめつつ山本がうっすらと目を開ける。警戒心の欠片もない態度。いつ来たんだ、と問われ、来たら悪いのか、と返すと笑われた。会話にならない無茶苦茶な言葉でも受け入れてくれる。
「で、こんな時だけって、何」
「別に、僕の話。まぁ……お楽しみは取っておくものだよね」
「……? いつにもましてわけわかんないのな、今日のおまえ」
「うるさいな、咬み殺すよ? それより、せっかく客が来てるって言うのにいつまで放っておくわけ?」
今度はすんなりと言うことができた。やはりさっきのは何の意味もない、ただの偶然だったのだろう。
「あー、はいはい。寝起きの人間は労れっての」
「嫌」
ゆっくりと起き上がり欠伸をしながら部屋を出ていく山本の背に呟くが、返事はなくただ廊下が軽く軋む音だけが雲雀の耳に届く。開けっぱなしの扉からも爽やかな風が入ってくる。主のいない部屋で雲雀も一つ、小さな欠伸をした。