「うむ、皆良い様子だ」 シャモンは手に持った水晶球を眺めて頷く。見ると水晶球の中は、 インクを落とした様に何かが渦巻いている。案山子に付けられた魔石が取り込んだ魔力が 水晶球に注がれているのだ。 「これだけの魔力があれば十分だろう…ん?」 シャモンはある一組に目がいった。 「イーチィは攻撃魔法持ってんのん?」 「持ってないわよ」 「ずごっ…じゃあどないすんねん」 「アンタのその弱っちい魔力を強化してあげるわ」 イーチィは両手にはめたグローブの魔石から薄い布を呼び出した。 布はイーチィの右の指先から左の指先に広がった。 「アタシは攻撃魔法や回復魔法を持ってない。代わりに人の力を増幅させる踊りを踊るの」 イーチィはす、と右手を水平に上げた。 「アンタの本気の10倍の力を見せてあげる。ほら、何か技を出しなさいよ」 タン、とイーチィはタップを踏み始めた。揺らめく布はキラキラと輝く。それを見ていた ジュンイチは体に力が漲るのがわかった。 「ほら、早く!」 艶やかに踊るイーチィはジュンイチに催促をした。ジュンイチは急いで杖を取り出した。 「え〜っと…宇宙(そら)光りし星霊達よ!今此処に足を留めよ!メテオ!!」 ジュンイチは杖でカン、と地面を鳴らした。 メテオは天宙魔法の中でも難しい魔法だ。いつものジュンイチなら石ころを数つぶ 降らせるのが限界だったが、今回は違った。「皆下がれ!!」 シャモンがジュンイチの前にたちはだかった。 「先生!?」 「あれを見ろ!メテオが来る!!」 空を見ると、目にも見えるくらいの隕石が迫っていた。 「とめへんと地面がえぐれるで!!」 ジュンイチは人事の様に言う。 「止めてみせる!!」 シャモンは両手を隕石に向ける。するとシャモンの手の平から魔法陣が現れた。 隕石が魔法陣に衝突する。 「ぐっ…!!」 シャモンは魔法陣を回転させ、隕石を砕いていく。隕石の破片が辺りに散らばった。 「先生!」 シャモンは大分苦しそうだったが、なんとか隕石を消滅させた。 「こうなる事が判らなかったのか!!!」 手のひらを火傷させながらも、シャモンは怒鳴る。 「「…ごめんなさい…」」 ミチトに火傷を治してもらいながら、ふむ、とシャモンは言った。 「今のメテオでお前達の実力は判った。魔石を使わずともな。中々強力だったぞ」 珍しく褒めるシャモンに、イーチィとジュンイチは喜ぶ。 「だが、その力はこれから鍛えていく中では強すぎる。ジュンイチ・スターライト、 これ以降メテオは使うな」 シャモンに言われ、ジュンイチは渋々頷いた。 「今日の授業はこれで終わりとします」 アズミが魔式拡声器で言う。シスカは伸びをしてドウに張り付いた。 「なぁドウ〜。今日早めに終わったからどっか行かな〜い?」 「どっかって何処だよ」 シスカを引き離しドウが言う。 「商店街!俺がパートナーになった記念買ったげる!」 「別にいらねぇよ…」 ドウの小声に耳を貸さず、シスカはドウの手を取って誰よりも先に校門を出た。 「いいなぁ〜」 ジュンイチは溜め息をつく。 「あら?アタシじゃ不満?」 イーチィが腕を組んで言うと、ジュンイチはまさかまさかと両手をふった。 「イーチィより良いやつなんてあらへんよ!わいが言ったのはデートの事で…」 ジュンイチは言ってからはっと気がつく。そして赤面した。 「してあげても良いわよ」 「へ?」 「だから、デートしてあげても良いわよ。勿論ジュンイチ持ちでね」 「ほんまか!?」 ジュンイチは心の中で神に感謝した。 マヤ商店街。 食品ばかりでなく、宿屋や服屋、居酒屋などこの辺りでは一番賑わう場所だった。 「あっ!これ可愛い〜v」 イーチィは店で洋服を選んでいた。 「でもこっちも素敵v」 鏡で洋服を合わせている。ジュンイチはまるで女子の様に振る舞う姿を見て 溜息をついていた。 「ホンマなら嫁はんにしたいんやけどな〜」 「ん?どうしたの?ジュンイチ」 「いや…何でもあらへん」 ふうん、とイーチィは興味なさそうに言う。 「それより見て!」 イーチィは赤い洋服とモノクロの洋服をジュンイチに見せつける。 「どっちが似合うと思う?」 「どっちも可愛ええよ」 ジュンイチがそう言うと、イーチィはムカついた、という顔をした。 「もう!乙女心がわからないのね!」 イーチィは洋服を元に戻すと、つかつかとジュンイチに詰め寄る。 「もういい!お茶しましょ!」 イーチィが店を出ていくと、ジュンイチは慌ててその後を追った。 イーチィは喫茶店に入る。ジュンイチはイーチィのご機嫌を取り直そうと思い 自分の証明書で紅茶を買った。 魔法の国には金銭の秩序が無い。代わりに「証明書」がある。 証明書はグレードによって買える物が違う。 イーチィやジュンイチのグレードだと喫茶店に行っても紅茶とコーヒー、 それとサンドイッチくらいしか買えない。 証明書は魔法の字で書いてあり、使っていくとインクが薄くなる。 インクが無くなると何も買えなくなってしまう。一ヶ月ごとに更新すればまたグレード内の ものが買える。 「うわぁ…こんなに減りおった」 ジュンイチは返された証明書を見て涙をのんだ。 イーチィは知らん顔で二杯目のコーヒーに口を付けている。 「なあイーチィ。もう暗いし今日はそれ飲んだら帰らへん?」 ジュンイチは証明書をしまってイーチィの隣に座った。 「そうね…そうするわ」 温いコーヒーを飲み終えると、イーチィとジュンイチは店を後にした。 ジュンイチは正直疲れていた。肩を落とし、溜息をつくとイーチィがまたガラス越しに 洋服を見ているのを見た。 「はぁ…やっぱ学校出ないとダメか」 洋服にはグレード3の札が貼ってある。産まれて一年はグレード1、学生はグレード2だ。 ジュンイチはイーチィの肩に手を置いた。内心ガッツポーズをしている。 「わいがグレード3になったら買うたる」 「本当?」 イーチィが今日一番の笑顔を見せた。ジュンイチはその笑顔にクラクラしていたが、 しっかりと頷いた。 じゃあまた明日、と言い合い、二人は別れた。 ワイルは森の中を走っていた。 ガサガサ、と音を立て、散る葉を踏み締めながら獣の様なスピードで駆け抜けていく。 実際、彼は普通の人間ではなく、狼の血をひいた狼人だった。 「ヤバいヤバい遅刻だあー!!!」 ワイルの住んでいる家は森の中にあり、フィノス学園からはかなり遠い場所だ。 「こうなったらあいつを使うしかないな」 草原に出たワイルが呟くと口笛を吹くと、日光を遮断する何かが現れる。 それは背中に人が乗れそうなほど赤いとさかが印象的な巨大鳥だ。 「ナルア、今日も一飛び頼むぜ!」 ワイルは巨大鳥に乗ると、ナルアは青空へと飛び上がった。 緑の絨毯の上をナルアは突き進んでいく。暫くしてふ、と森が無くなった。 「ワイル!!!」 声がして、ワイルは左を向く。 「金田!!!」 ワイルを呼んだのは着流しに大きな獣色の翼を生やし、何故か目に布を巻いている、 金田ホウセイだった。 「お前また遅刻ギリギリか?」 「そういう金田だって」 アハハ、と二人は笑う。 「ていうかさ、パートナーになったんだから名前で呼べよ」 金田は言った。 「そうだな…ホウセイ!」 ワイルは大声でホウセイと名を呼んだ。 「馬鹿!声でけえよ!!」 「名前で呼べっつったのホウセイじゃん。何?照れてんの?」 「馬鹿!そんなんじゃねえよ!」 そう会話をしているうちにナートリアス学校の前に来ていた。ワイルはナルアから 飛び降り、金田も翼を畳んだ。 二人が校門をくぐった直後、門が閉まる。 「ギリギリセーフだな」 「だね」 二人は走って校内へ入った。