芥川龍之介作品*は行

芥川龍之介作品 * は行


表に示される作名をクリックすると、その作品説明にあたる所に飛ぶことができる。

は 行 作 品 一 覧 表
(はな)
手巾(はんけち)
ひょっとこ
二つの手紙(ふたつのてがみ)


(1巻63〜73頁)
――人間の心には互いに矛盾した二つの感情がある。

禅智内供の鼻は有名なもので、五六寸の長さがある。内供は五〇歳になる今日まで、この鼻に悩まされてきた。しかし、その様子を外に漏らしたりはしない。自分が鼻のことを気にしていることを知られるのは嫌だった。ある時の秋、弟子が鼻を短くする方法を教わってきた。そこで内供は弟子がその方法を自分に試すように勧めてくるよう誘導して、その方法を試してみた。すると鼻は見事に短くなった。内供は満足した、しかし彼の周りの人々は何故か彼の顔を見ると笑うようになった。彼はその理由を考えてみて、傍観者の利己主義(困難から抜け出た人間をもう一度困難に遭わせてみたい)を見出す。そしてひょんなことから元に戻った自分の長い鼻に、もう笑う者はいないだろう・・・と満足する。
手巾(1巻159〜173頁)
――婦人は、顔でこそ笑っていたが、実はさっきから、全身で泣いていたのである。

東京帝国法科大学の教授・長谷川謹造先生には亜米利加人の奥さんがいる。そして先生の家のベランダには岐阜提灯がある。その提灯を見ていると先生は日本文化を感じる。日本は物質的には進歩したが、精神的には堕落している。それを救済するのは日本固有の武士道だと先生は考えている。先生は奥さん(西洋)と提灯(日本)を結ぶ橋梁になりたいと思っているのだ。そんな先生の所に一人の婦人が訪ねてきた。西山という学生の母だった。かねてより療養中だった西山が死んだという。それを話している間、先生は疑問を持った。婦人はそのことを悲しむ素振りを見せないばかりか、微笑んでさえいるからである。しかし婦人の手元を見れば、その手は震え、握られた手巾を引き裂かんばかりに握っている。婦人は実は全身で泣いていたのだ。先生はそれを女の武士道だ、と大変感動した。ストリントベルクの演出法を見ると、その穏やかな気持ちは消えてしまった。
ひょっとこ(1巻29〜40頁)
平吉の一生(人の知っている)から、これらの嘘を除いたら、あとには何も残らないのに相違ない。

ひょっとこの面をかぶった一人の酒飲みが、馬鹿踊を踊っていて、船の中に落ちて死んだ。名は山村平吉。彼は、酒を飲んでいると、素面の時には恥ずかしくてできないようなことができてしまう。そしてそれをきっちり覚えている。素面の時には平気で嘘をつく。それで平吉にはどちらが本当の自分かわからなくなることがあった。そんな平吉が倒れた。面の下から震える声で面を取ってくれるようせがむ。しかし、人々がそれを取った時にはもう、彼の顔はいつもの顔ではなくなっていた。
二つの手紙(1巻393〜412頁)
先ず何よりも先に、閣下は私の正気だと云う事を御信じ下さい。

警察署長の元にある男から手紙が届く。男の名は佐々木信一郎。彼はドッペルゲンガーに悩まされ、自分の妻のそれをも目撃してしまい、また他人には妻を不品行だといわれる。この状況を救えるのは貴方しかいない。どうか、嘘のようなこの話を信じて欲しいとの内容であった。
2style.net