可愛いキミは





「ね、私くさい?ほこりっぽい?」

 昼食も食べ終え、俺は教室で自分の席に座りメールの返信をしていた。すると突然現れたかと思えば、神妙な顔をしてわけのわからないことを聞いてくるに俺は思わず「はあ?」と返事をした。

「なんや突然」
「いいから、私くさい?ほこりっぽい?」
ちゃんはええ香りやで。シャンプーの香りと、飴ちゃんの香りや」

 口を開きかけた俺の横で、すらすらと言葉が発せられた。俺もも思わず声のした方へ顔を向ければ、爽やかな笑顔を浮かべた白石が立っていた。さすが匂いフェチ、と言いたいところだがなんだか変態くさいと思うのは俺だけか。の顔をチラリと見れば、頬を赤くしているが何処か微妙そうな顔をしている。
 変態くさいと思ったのは俺だけやなかったみたいやな。

「し、らいしくん」
「誰かにくさいて言われたん?甘くて、ええ香りやで」

 にっこりと笑う白石に、の顔から微妙さが消え、ただただ照れている、という顔になった。
 これだからイケメンは嫌なんや、言うた言葉すべて格好つくんかい。

「変態か白石」
「なんでや、ちゃんの質問に答えたっただけやろ」
「いやいやシャンプーと飴ちゃんて細かく言うんは変態くさいわ。の顔見てみ、微妙な顔しとんで」
「ええーそうなん」
「い、え、そんなこと思ってないです」
「嘘つけ!微妙な顔しとったやろ、変態くさい思っとった顔や!」
「白石くんなら変態くさくない!」
「差別や!」

 つか、お前イケメン好きやったもんな!お前ん中でイケメンが正義か!
 慣れた展開に俺はわざとらしく机に突っ伏した。頭上では「ああまた謙也がひがんでる」「可愛いやっちゃ」なんて冷静な会話が聞こえる。
 なんや、俺をイジメに来たんかいこいつら。

「でも白石くん、“ええ香り”で止めといた方がいいよ、詳しく嗅ぎ分けられるとびっくりするから」
「なんや、やっぱり変態て思てたんやな?ショックや…」
「ど、毒手はかんべん…!」

 いじけた俺は無視かい!
 机に突っ伏しても何も反応が返ってこないので、俺は仕方なく頭を上げた──と思えば、すぐに逆もどり、つまり頭を思いきり押さえられ机にどつくことになった。

「痛゛っ…!」

 なんやねん突然!!
 頭に乗せられた手はデカく、のものではないことがすぐに分かる。白石の仕業か!頭を押さえ、涙目になりながら見上げれば、包帯が少しほどけかかった白石の左手にの手が重ねられ、二人は震えるようにして笑っている。俺の頭を押さえたのは白石の手だったが、それを上から押してたのはのようだった。

「俺をイジメに来たんかい!」
「ちがっ…だ、だって白石くんが毒手だそうとするから」
ちゃんが俺のこと変態や言うから」
「それでなんで俺が机にどつかなあかんねん!」
「謙也に助けてもらおうと思って」
「俺を毒手の餌食にしてか!」

 震えながら笑うなや!
 なんやねん、とボソリと口にしながら俺は机に頬杖をついた。

「ごめん、拗ねないでよ関西お得意のツッコミでしょ?」
「ボケとらんっちゅうねん」
「いやあ、ちゃんも関西に馴染んできたなあ」
「キレがあったでしょ?」
「ボケとらんっちゅうねん!」
「ていうかそんなことより」

 声を張る俺をスルーするようには前の席に座り、俺の方を向いた。突然話を切るやっちゃな、と思ったけれどそういえばさっきも突然「ね、私くさい?」と言い出したのはこいつだ。そして再びは俺に同じ質問を投げかけた。

「私ほんとにくさくない?ほこりっぽくもない?」
「あれ、俺の言うこと信用してくれへんの」
「白石くんは嘘言わなそうだけど、なんか本当のことも言わなそうなんだもん」
「なんやそれ、微妙やなあ」
「フェミニストってことだよ。で、謙也どう?」
「お前なんかむっちゃくっさいわ」
「なんでやねん!」
「痛た!」

 さっきから俺に質問したくて来たくせになんで白石ばっかりよいしょしてんねん、と腹のたった俺はそんなこと思ったこともないが「むっちゃくさい」と吐き捨てた。するとすぐさまの平手が机にどついて赤くなっているであろう俺のデコに飛んだ。

「ええツッコミや!」
「お前ツッコミ間違うてるからな!今つっこむとこちゃうやろ!」
「ええーボケてるんかと思たわ」
「きしょい関西弁つかうなや」
「くさいうえにきしょいって言ったー!」
「あかんな謙也、もう一度毒手の…」
「ええっちゅうねん!くさいなんて思ってへんわ」
「ほんとに?ほこりっぽくもない?」
「ほこりっぽいってなんや、倉庫でも行ったんか」
「行ってないんだけど…ほんとにくさくもほこりっぽくもないの?」

 本当に突然何を言い出すんだろうか。くさいともほこりっぽいとも思ったことなど一度もない。そもそもほこりっぽいって何だ。ほこりっぽい人間がいるのか。質問の意図が掴めずの顔をうかがうも、どこか浮かない顔をしている。

ちゃん、なんで突然そないなこと聞くん?」
「……さっき千歳くんに“むぞらしかね”って言われて」
「「はい?」」
「方言だと思うんだけど…鼻がむずむずするとか、そんな感じでしょ?だからティッシュ渡したんだけど、なんか私にまた“むぞらしか”って言うから、私が鼻むずむずさせてるのかと思って」

 花粉の季節じゃないと思うんだけど、千歳くんって花粉症?それともやっぱ私くさいの?ほこりっぽい?と真剣にたずねてくるを見て俺も白石も固まった。鼻むずむずって……

「え、なんで二人とも黙るの?もしかして本当に私くさいの!?」
「……ちゃんはほんまむぞらしか、っぷ」
「白石くんさっきええ匂いって言ってくれたのに、うそ!?てかなんで笑うの!?」

 白石にまで「むぞらしか」と言われてテンパるを見て、俺は完全につっこむタイミングを失っていた。
 どこでつっこめば良かったんや…。

「謙也ももしかして私のこと“むぞらしか”って思ってる…?」
「おま…」

 恐る恐る聞いてくるに、ついに白石は噴出し、腹を抱えて笑い出した。

「白石くん笑いすぎじゃない!?」
「いや…すまん、謙也も思とるやろ?ちゃん“むぞらしか”って」
「やっぱそうなの?」

 自分がくさいと思われてるとでも思っているのか、少し椅子を引き距離をとりながらは眉尻を下げて俺を見つめた。

「いや…俺は、別に」
「おー?思てへんの?」
「白石…!」

 にやにやと意味ありげに見てくる白石を俺は睨んだ。

ちゃん、残念やなあ、謙也はちゃんのこと“むぞらしか”って思てへんのやって」
「残念?え、むずむずしない方が嬉しいんだけど」
「ちゃうで、むぞらしかっちゅーんはな」
「しーらーいーしー」
「なんや、謙也もやっぱりちゃん“むぞらしか”?」
「う…」
「え?なに、なんなの?私くさいのくさくないのどっちなの?」
「思ってへんのやな?」
「い、や…」
「謙也?はっきり言ってくれていいんだよ?」
「思ってへんのやて。さてちゃん、“むぞらしか”っちゅうんは──
「むぞらしか!」
「え?」
「お、俺ものことむぞらしかって思ってるっちゅーねん!」
「え、ええ〜…そんなはっきり」

 そのまま顔を再び机に突っ伏させる俺の顔が赤いことなんては気づきもしないで、ショックそうな声をあげた。白石は楽しそうに笑って、に“むぞらしか”の意味を教えようとしていた。止めたくて仕方がなかったが、今止めたところではすぐに“むぞらしか”の意味を知るだろう。そもそも、俺が今白石を止められるとは思えない、悔しいが。だから俺は大人しく机に顔をへばりつけておくしかないのだ。

「あんな、鼻むずむずちゃうて“かわいい”って意味やで」
「え、“むぞらしか”が?」
「せや。ちゃんかわいい、や」
「…え、千歳くんも、白石くんも?」
「謙也もな」
「………あ、あんな言い渋らなくても!」

 事実を知ったは軽く動揺して、声を上ずらせていた。顔を上げられずにいる俺に、チョップをかまして「千歳くんに勘違いしてティッシュ渡しちゃったって言ってくる」とは教室を出て行った。俺は騒がしい教室の音の中に混ざるの足音を、ただ聞いていた。

「ほんまむぞらしかね、ちゃん」

 机から顔をはがして、俺はにやにやと笑う白石を睨んだ。
 

 こっちは本気やっちゅうのに、んな簡単に言えるかボケ!






20100522
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