KING and ME ? 1





 あたしだって高級な車で毎日送り迎えしてもらって、家は広くてお庭だってあって、毎日ご飯もシェフの作ってくれるフルコースを食べて、部屋もすーっごく広くてひとりで寝るのにダブルベッドでさ、朝起きたら執事さんが優しく起こしてくれたりして、綺麗なお洋服を着て背筋だってピンと伸ばしてさ、気品とか漂わせたかったよ。

 あたしがそれだけ一気に喋ると、少し離れた場所にいた跡部くんは苦い顔をした。あたしが跡部くんに苦い顔をさせるのはこれで何回目かな。



 ひとりでお弁当を食べたくて、ひとりになれる場所を探して辿り着いたのがここ、生徒会室だった。誰もいないと思っていたのにそこには跡部くんがいて、あまりに予想外の人物の存在に驚いたけれどこれ以上ひとりでいられる場所を探すのも面倒くさくて、あたしは入り口付近の椅子に座ってお弁当を広げた。生徒会役員以外が生徒会室に入るのは好ましくないんだろう、というかこんな風にふてぶてしく入ってくる生徒は普通いないよね。跡部くんも当然そう思ったようで、生徒会室に入るなりお弁当を広げたあたしに「何の用だ」と声をかけた。あたしは「ひとりでお弁当食べる場所探して来たの」と言いながらお弁当を食べ始める。賢い跡部くんじゃなくても、今の言葉に「ここにも人がいたけど」と続くのに気が付くよね。けれどあたしが嫌みで言ったわけでないということに、それこそ賢い跡部くんは気付いたのかそれ以上何も言ってこなかった。
 そういえば跡部くんと話をしたのは初めてだ。あたしはかの有名な“跡部サマ”をもちろん知っているけれど“跡部サマ”は同じクラスにも同じ委員会にもなったことのないあたしのことなんて絶対に知らないだろう。それにしても、あたしの知るその“跡部サマ”が、突然生徒会室に入ってきた部外者のあたしを追い出さないなんて、とても意外だった。
 そんな風に“跡部サマ”のことを考えていると、あたしがひとりでお弁当を食べたいと思った理由が再びふつふつとわいてきた。跡部くんはなにも関係ないけれど、“跡部サマ”がそれを思い出させるのだ。
 そして冒頭に至る。あたしは突然跡部くんに話しかける、というよりは吐き出すように喋りだした。

 跡部くんは見ていた書類から顔を上げて、苦い顔であたしを見ている。あたしは気にせずフォークで玉子焼きを刺して、言葉を続けた。

「なんでお弁当食べてるだけで笑われなきゃいけないの」
「笑われたのかよ」
「そう。毎日お弁当なのねーってね」
「なら学食行けばいいだろ」
「高いじゃん。それにお母さんのお弁当あたし好きだし」

 次にあたしはコロッケを刺した。口に入れた後に跡部くんは「お前パンも食うのかよ」と、どうでもよさそうに言った。

「これは朝の残り」
「あ、そう」
「跡部くんもコンビニの菓子パンまずいって思うんでしょ」
「ア?」
「あたしは10円のチョコだって美味しいし、100円のアイスも大好きだよ」
「……」
「でも跡部くんにとっては、どれも美味しくはないんでしょ?」
「…あぁ、そうだな」

 当たり前だろって、偉そうに鼻で笑われるかと思ったのに。跡部くんの返事には微妙な間があって、あたしはお茶を飲みながら跡部くんを見た。けれど跡部くんは何でもなさそうに書類に目を通していて、あたしの言った軽い嫌味に気を落としたのかと思ったけれど、やっぱりあたしの勘違いのようだ。
 別にお弁当を食べているのがあたしひとりなわけじゃない。大半の生徒はお弁当を持ってきていたり、コンビニや購買のパンを食べている。けれど、それ以外の金持ち集団が高飛車すぎるのだ、特に女子。今日はいつも一緒にお弁当を食べている友達がたまたま休みで、たまたま高飛車女子軍団に嫌味を言われただけ。金持ち女子が高飛車なのは今に始まったことじゃないし、嫌味を言われたくらいで泣いちゃうような性格を持ち合わせているわけでもない。だけど今日は虫の居所が悪かったのか、なんかムカついて嫌な気分になってしまった。
 “跡部サマ”は別に何も悪くないのに、金持ちのキングというだけで八つ当たりに嫌みなんて言ったりしてゴメンナサイ。心の中で、小さく謝ってみる。もっと“跡部サマ”は嫌な感じだと思ったのだ。高飛車女子に賛同して、私を鼻で笑い「庶民の考えなんざ知らねぇよ」みたいな。ちょっと悪くイメージしすぎてたみたい。それとドラマと漫画の見過ぎかな。
 いろんな意味で跡部くんに心の中で謝罪をしながらプチトマトを口に放り込むと、カタンと跡部くんが立ち上がった音がした。こちらに向かってくる跡部くんを目で追っていると、跡部くんは立ち止まらずに私の横を通り過ぎ、そのままドアに手をかけた。

「俺もお袋の味ってもんを食ってみたかったぜ」

 それだけ言って跡部くんは生徒会室を出て行ってしまった。あたしはあまりにも意外すぎる跡部くんの発言に目を丸くした。“跡部サマ”の本性は“跡部サマ”じゃない?しばらくそんなことを考えながらぼぉっとしていたら、昼休み終了のチャイムが鳴り響いた。あたしは慌てて残りのおかずを口に詰め、お弁当を片付けた。すると机の隅に、先ほどはなかったはずの小さな銀色のまあるい包みがひとつ。何かと思って手にとると、外国のチョコレートのようだった。あたしが入って来た時にはなかった、っていうことは…跡部くんがあたしにくれた?

「この一粒が100円だったりして」


 跡部くんの苦い顔からは想像出来ないほどの甘い匂いを漂わせたチョコが一粒、あたしの手の中で転がった。






20091015
2style.net