未来の誓いをこの手に





「ねぇ、何年先まで愛を誓ってくれる?」

 景吾の部屋でソファに座って、少し古い洋画を見ていた夕暮れ時。突然の私の言葉に、景吾はバカにしたように笑った。

「アーン?プロポーズか?」
「ち、ちがうけどっ!何年先までの愛を誓ってくれるのかな、と思って」
「お前…俺が一年とか言ったらどうすんだよ」
「えっ、一年!?そ、そん、そんな…いちねん…?」
「バァカ、“言ったら”っつってんだろ」

 私の突然の言葉は、やけに芝居がかった台詞だったけれど、映画の題材でも台詞でもなんでもない。ただ、どんな映画の中にも愛はあって、芽生えたり散ったりするもの。それは映画の中だけでなくて現実も同じ。永遠、だなんてないのは分かるけど、でも永遠なんてなくても、いつかは散ってしまうものだとしても、景吾は何年先までなら私に愛を誓ってくれるのだろうと思ったの。
 でも景吾の返事を聞いて、自分がとんでもないことを聞いてしまったことに気付いた。まさか一年、だなんて。冗談にしろ、もし三年とか妙にリアルな年数を言われたらどうしよう…。せめて、永遠なんて言わなくても。私達がこの世を去るまで、五十年とか六十年とか、それくらいの年月を誓ってほしかった。なんて、結局私は永遠なんてない、と言いながら景吾にこの世での永遠を誓ってほしかったんだ。

「じゃあ、実際は?」
「さァな」
「さァなって…」
「あいにく俺は未来のことを軽々しく誓うような口を持ち合わせてねェんだよ」
「……自信ないだけじゃないの」

 思わず私は顔を逸らした。とんでもないことを聞いてしまった、と自覚しながらどうして質問を続けたのだろう。三年とか言われるよりも、何も誓ってもらえない方がよっぽど悲しい。まさか誓ってもらえないなんて思ってもいなくて、景吾が何て答えてくれるのかと少し浮かれていた心が一気に沈んだ。なんであんなこと聞いたんだろうって、…今さら思っても仕方ないけど。
 次々と進んでいってしまう映画の字幕のように、私達を取り巻く時間も進んでいってしまう。そうやって常に変化し、過ぎ去ってしまう未来を。私の言う通り、景吾は誓う自信がないのだろうか。
 嘘を言われるのは嫌いだけれど、こんな想いをするなら…冗談でいいから答えて欲しかった。

「別に、ちょっと冗談で聞いただけだから軽く答えてくれれば良かったのに」
「ったく分かってねェな」
「なにがよ…」

 冗談で、なんて言いながら全然冗談じゃなさそうな私の声。きっと私の気持ちや考えてることなんて、景吾にはいつものように全てお見通しなんでしょう?ばかみたい、なさけない、かっこわるい。
 私の考えてることがお見通しなら、本当に冗談になるように、うまく会話持っていってよ。

「んな冗談みたく軽く誓いたくねぇってことだろ?」
「意味わかんない、冗談なんだってば」
「冗談でお前を彼女にしてるわけじゃねェ」

 徐々に景吾から逸らしていた顔を振り向かされ、私の瞳に不敵な笑顔を浮かべる景吾の顔が映った。

「自信ねぇなんて俺にほざいたその口が塞がらねぇほど驚かせてやるよ」
「…え?驚かせる?…何で驚くの」
「さァな、顎がはずれないように気をつけとけよ」
「えっ、嬉し驚き!?悲し驚き!?ど、どっちの」
「なんだ嬉し驚きって。ンな言葉ねぇよ」
「だって!どういうこと?それは誓いなんじゃないの?」
「バァーカ、誓いなわけねーだろ。仕返しだ」
「仕返し!?なんで!?」
「二度も言わせんじゃねェ」

 ぐっと顔を近づけられて、こんなときにキスをされるのかと思わず目を瞑った。けれど唇に触れるものは何もなくて、耳元で景吾の意地悪な声が聞こえた。

「この可愛い口が、俺に自信がないなんてほざいたんだろ?」

 落とし前つけてもらうぜ、そう言う景吾に言い返そうと口を開きかければ、予想外のタイミングで唇が塞がれた。後頭部に回された景吾の手を感じながら私は閉じられた景吾の瞼を見つめる。
 ねぇそれって、やっぱり誓いなんじゃないの?自信がないなんて言った私に、そうじゃないって言いたいんでしょう?
 そんな風に言われたら私、自分に都合良く考えちゃうよ。さっきまで沈んでた心だって、一気に上昇してドキドキしてる。勝手に、きらきらした未来を想像してるよ。閉じられた景吾の瞳には、こんな私も全部お見通し?

 未来の私が…


 ねぇ、映ってるの?






20090717
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