かれのひみつ





中学一年の夏、席替えをしてわたしは跡部くんの隣になりました。



 それは暑くて茹でダコになりそうな夏の日。わたしは机にだらぁ〜と体を投げ出し、先生の話も聞かずにノートに落書きをしていました。本当にもう、茹でダコになっちゃうんじゃないかという気温にうんざりして、わたしはノートにタコの絵を描きました。






 すると横からイキナリ手が伸びてきて、シャーペンを握るわたしの手を掴みました。わたしはビックリして机に頭をもたげたまま顔だけ横にすると、跡部くんが

「バァーカ、タコの目はここだ」

 と、勝ち誇った顔でわたしの手ごとシャーペンを動かし、わたしの描いたタコに目をつけたのです。






「だから口の位置も間違ってるぜ」
「なんか…おっぱいみたい」
「なっ…タコが!」

 だって本当におっぱいみたいなんだもん、とわたしが言えば跡部くんはなんだか少し顔を赤くして怒りました。「タコが!」だって。少しして気づいたのだけれど、もしかしたら「タコが!」っていうのは跡部くんなりのギャグだったのかもしれない。わたしは怒らなくてもいいのに、としょんぼりしてしまったので気づいて笑ってあげることが出来なかったことを後ですこし後悔しました。跡部くんのギャグ、スルーしちゃってごめんね?

 なんだかちょっぴり面白い跡部くん、わたしだけのひみつ
 本当は手を握られて心臓がドキドキしていたこと、わたしだけのひみつ






 お昼の前に少しお腹が空いちゃって、今朝買ったHARIBOのグミをもぐもぐとしていたわたし。すっぱくて、でもおいしくて、すっぱーい顔をしながらも食べるわたし。そんなわたしが変だったのか、跡部くんはじーっとわたしを見つめていました。

「食べる?すっぱいけど」

 でもおいしいんだよ、とわたしは跡部くんの手のひらにグミをひとつ落とす。跡部くんのすっぱい顔はどんなんだろうと思って、今度はわたしがじーっと跡部くんを見た。

「全然、すっぱくねぇな」

 跡部くんはすごくすっぱそうな顔をしてそう言った。すごくすっぱそうな顔。なれたらそこまですっぱくないけれど、なれない人が食べたらすごーくすっぱい。すっぱいものを食べてすっぱくないほうがおかしいのに、跡部くんは何で強がってるんだろう?跡部くんはグミを食べた後にわたしの机の上にあったペットボトルのお茶を飲んで「俺の口にはあわねぇ」と言いました。

 変なとこ我慢してる跡部くん、わたしだけのひみつ
 間接キスにドキドキしちゃった、わたしだけのひみつ








 授業の終わりに始まった数学の小テストの時間、わたしは全然わかんなくて頭がばくはつしそうだった。「終わったら休み時間にしていいぞー」という先生の声が聞こえたけれど、わたしには休みじかんなんて来そうにもなかった。でも何とか頑張って頑張って、ようやく一問目がとけたとき、あんまりにも嬉しくてわたしは思わず叫んでしまった。

「できた!」
「な、なに!お前そんなに数学得意だったのか!?」
「えっ?」
「クソ、俺もあと一問で終わる!」

 跡部くんは悔しがりながらプリントにガリガリと書き込んで、その残りの一問をたったの15秒で終わらせてしまった。え、終わっちゃったの?わたしは今ようやく一問とけたばかりなのに、跡部くんはすごいなぁ。テストが終わったら、跡部くんはわたしの目の前に立って、

「今日はたまたまだ!今後一切負けることはねぇ!」

 と、かっこよく言って去って行っていしまった。跡部くん、勘違いしてる。わたしようやく一問解けたばかりなのに。それにわたしは全部で十問ある小テスト、結局三問しかとけなかった。

 負けず嫌いな跡部くん、わたしだけのひみつ








 お昼ごはんを食べた後の授業はとーっても眠くなる。うるさい先生の授業だということを忘れていて、わたしは寝てしまっていた。数分後、寝ていたわたしは先生にバレて、授業中だと言うのに皆の前に立たされて先生にネチネチと怒られた。わざわざみんなの前に立たせて怒らなくてもいいのに。わたしは恥ずかしくて悔しくて、涙目になったのを隠すように俯いて席についた。するとわたしの頭にポン、と優しく手が乗った。

「起こしてやらなくて悪かった」
「跡部くんのせいじゃ、ないよ」

 跡部くんはわたしの頭を数回なでなでして、わたしの背中をバチン、と叩いた。

「オラ、いつまでも俯いてたらまた寝てると思われるぜ!」
「いたい」
「ア?怒られて泣いてんのか?」
「ちがうもん!跡部くんが背中叩いたから!」

 思わず声が大きくなってしまったわたしを、先生がまたジロリと睨んだ。わたしと跡部くんはコッソリ顔を見合わせて、クスクスと笑った。

 跡部くんに触れられて、わたし今気がついた。わたし、跡部くんに恋しています。






20070724
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