最後に望むモノ





 おれが1歩進むと、時間も1歩進む。
 が1歩進むと、時間も1歩進む。

 がんばっても がんばっても がんばっても どんなに がんばっても

 おれは勝手に進む。時間は勝手に進む。は勝手に進む。
 進まなきゃいけない。進むしかない。進むことしか出来ない。

 おれたちには、どうすることもできない。




「夕陽きれーい!」
「海すげーキラキラしてる!」
「ねーっ!」
「魚とかいねーかな〜!」

 久しぶりに遠出をして海まで来た。前にここに来たのは半年前。

 海に向かって走るおれに後ろからは「ジロー!転ばないでよー!気をつけてね!」と叫んだ。そのすぐ後に転んだのは、もちろん。おれは振り返ってに「おやくそくだねー!」と笑った。は涙声で「砂食べた…」と言って起き上がらないから、おれはのところへ走った。

わざと転んだ?」
「そんなワケないでしょ!」
「だっておやくそくすぎるCー」
「だってジローが走るから」
「え、なになにおれを追っかけてくれてたの!?うっれC!」

 おれがかけつけて、起き上がらせたのに座ったままでいるにおれは抱きついて、そのまま後ろに押し倒した。からは驚いた変な声が聞こえて、おれはまた笑った。すぐににゲンコツされたけど、そんなの痛くもかゆくもない。

「ジロー!あたし砂だらけになっちゃう!」
「おれもだからいいじゃん」
「ジローはあたしの上に乗ってんだから平気でしょ!」
「じゃあおれも砂まみれになってあげっから。ね?」
「だから、そういう問題じゃないの!」
「じゃあどういう問題?あ、じゃあシャワー浴びて帰れば問題ない?」
「シャワーって、どういう意味!」
「えーまたまたーとぼけちゃってー!」
「も、もう早くどけてよ!誰か来たらどうするの!」

 誰も来ないよ、たぶんね。海には誰もいない。ちらほらいるんだろうけど、おれたちの近くには見当たらなかった。それをも知ってるくせにそんなこと言うなんて、照れちゃってかわいーね。ほっぺたをぴんくに染めたは、とっても可愛い。

「ねーねーほっぺかじっていー?」
「はあ?」
「かじりますよー」
「え、待ってダメダメ…ぎゃ!」
「もっと可愛い声だしてよー」
「もっと可愛いことをしてよ!マジで噛んだでしょ!」
「おー歯型ついた!」
「え!?もー本気で噛みす、…今度は何ですか」
「ちゅーですよ」

 ほっぺをさすりながら抗議するの口が「す」と発音したときに、おれには“ちゅーしてください”と聞こえた。おれはすかさず「す」の口をしているの可愛い唇にキスをした。はもう諦めたように何も言わなくなって、おれの髪をいっかい撫でた。
 寝転がったままはおれを見つめた。

「ね、ジローさ、覚えてる?」
「なにを?」
「半年くらい前にここに来たときのこと」
「覚えてるよー」
「ほんとに?」
「うん、ほんとほんと。あのときもちゅーしたよね」
「…うん。本当に全部ちゃんと覚えてる?」
「えー?覚えてるよー。ちゅーして、手つないでー貝拾って帰ったっしょ?」
「ジロー、それは全部じゃないよ」

 のほっぺのぴんくが瞳に移った。はふるえるぴんくの瞳でおれを見つめた。

 どうしてはいきなり悲しくなっちゃったの。おれちゃんと覚えてるはずなんだけどな。半年前にここに手をつないで来て、足を海につけて遊んで、ぴんくの色の貝を探して2つ見つけて、そんでそろそろおれが帰ろうって言っても、もう少しってが海を見つめるからおれがの顔をのぞきこんでちゅーして、そんでまた手をつないで帰った。あのときのこと、ちゃんと覚えてるはずなのに

 どうしての瞳はぴんく色になっちゃったんだ。

、どうしたの?」
「…全部覚えていられないの」
「え?」
「あの時の会話、ジローは全部覚えてる?この間のデートの会話とか天気とか、そういうの全部覚えてる?」
「えー、と(覚えていないと言ったら怒るのかな)」
「あたしは全部覚えていられないの。ところどころしか、覚えてない」
「それが普通じゃない?だいじなトコだけじゃないの?」
「でも、あのときの気持ちももう思い出せないよ。あのときはこう感じた、って覚えてるだけで、あのときの気持ちごと思い出せるわけじゃないの」
「それが普通だよー。おれもそうだよ。みんなそうでしょ?」
「あたし、忘れたくない」

 そう言ったのぴんくのふるえる瞳からツ、と涙が流れた。


 時間は勝手に流れる。
 気持ちも流れる。

 前よりどう好き、とか 前よりどこが嫌、だけど好き、とか 前と違って好きじゃない、とか。

 記憶も流れる。

 がんばっても がんばっても がんばっても どんなに がんばっても

 気持ちは思うように流れない。


「いつかジローと別れちゃったときに」
「別れない」
「例え話だよ」
「そんな例え話はおれヤだ」
「でもそれじゃあ話できないよ」
「……じゃあ、どうぞ」
「もし…別れちゃったときにね、あたしジローのこと忘れたくない」
「別れないからそんな心配はいらないよ」
「忘れてもなんとも思わなくなっちゃうのもヤだ」
「だから、そんな心配はいらないってば」
「どこにそんな保障があるの?」

 は真剣な瞳でおれに聞いた。「半年前にこの海に来たときの気持ちをちゃんと思い出せないのと同じように、好きって気持ちも思い出せなくなるかもしれないんだよ。好きって気持ちも消えちゃうかもしれないんだよ」そう言ったの瞳から涙が流れた

それはおれの瞳から落ちた涙だった。


 だいすきでも だいすきでも だいすきでも だいすきでも あいしていても

 時間は流れる 気持ちは変わる 勝手に流れる 勝手に変わる

 気持ちが変わるからといっていつか終わりが来ると決まっているわけじゃない。だけど終わりが来ない保障もない。おれたちは、好きじゃなくなってしまったら、と考えて抱き合う、涙を流す。おれたちは弱い。どうして好きなのに好きなのにと考えれば考えるほど時間が流れるのが怖い。

 時間を止めてください 記憶を消さないでください ずっと、と一緒にいさせてください

 ずっとがおれを好きでいてくれますように ずっとおれがを好きでいれますように

 いったい誰が叶えてくれるの?


、泣かないで」
「ジローも、泣かないでよ…」


 それでも涙は流れるんだ。 おれたちには、どうすることもできない。





 た だ こ ん な に も ボ ク は キ ミ を 







20070722
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