Hug you? Hold you!





のこと好きなん?」

 コート脇の木陰で金ちゃんと千歳と三人で休憩中、金ちゃんが真っ直ぐな瞳で千歳を見つめてそう言うた。突然のことに千歳は目を丸くし、俺やなくて自分を見とることを確認してからゆっくりと口を開いた。

「……俺ね?」
「せや!友達としてちゃうで、女としてや」

 金ちゃんから“女として”やなんて予想外な言葉がでたことに、千歳も俺も目が丸くなった。確かにそれは俺も思っとったことやけど、まさかそれを金ちゃんが一番に言うなんて驚くやろ。
 千歳を見れば、恥ずかしそうに苦笑いを浮かべとる。

「気付かれとっと?」
「千歳、ずーっとのこと見てんねんもん」

 歯を見せて笑う金ちゃんに千歳は笑い、そして俺を見た。デカい図体を丸め、上目遣いで俺を見る千歳は、今やったら年相応に見えよる。

「謙也も気付いとったと」

 金ちゃんすら気付いていたなら、という内心を互いに口にせんと感じながら、俺は頷いた。

「せやけど、千歳そないにに近づかへんやろ」
「せやねん!」

 俺が言うたことに、金ちゃんは興奮したように声を上げた。それに千歳は苦笑いを通り越し、眉を下げて困った顔をした。

「なんでなん?俺やったら好きな女のそばにおりたい!」
「き、金ちゃん男前やなほんま」

 金ちゃんから恋バナっちゅーもんを聞けるとは思わんかった上に、まさかこないに堂々と『好きな女のそばにおりたい』宣言されるやなんて、金ちゃんらしいっちゃらしいけど、男として尊敬するわ。
 そないな金ちゃんの男前な所はさておいて、金ちゃんの言う通り千歳はのことを誰もが気付くほどに見とんのに、自分からはまったく近付かん。見た目通りモテるし、同世代の男より大人っぽい千歳が恋に戸惑う姿は想像つかへんのやけどなぁ。のことを見とる割に近付いて行かへんから、千歳の気持ちを確信しづらかったんやけど、やっぱのこと好きやねんな。

「なぁ、なんでなん?見とるだけじゃ誰かにとられてまうで」
「んー…」

 ずいずいと詰め寄る金ちゃんに千歳は言葉を濁して視線をずらした。千歳の視線の先を追えば、そこには白石と何か話しとるがおった。

「白石にとられたらどうすんねん!」
「金ちゃん、千歳の肩ばっか持っとったらオカンが泣くで」
「白石はのこと好きちゃうやろ、せやけど俺の気持ちは分からへんもん。が白石のこと好きやったらどうなるか分からんで」
「金ちゃん……いつの間にそんな大人になったん?」

 テニスとたこ焼きのことしか頭にあれへんと思っとったのに、金ちゃんからでてくる的確すぎる言葉に千歳だけやなく俺までもがたじろいでしもた。

「俺ものそばにおりたいけんね。ばってん」
「うじうじしとるのは男らしくないで!」
んそばにおったら手ば出しそうで怖か」
「えっ!?」

 ────違うた!
 千歳が予想外のウブや思っとったのに!全然ちゃう!予想以上やんか!大人っぽい思っとったけど、まさか“を押し倒して襲いそうになる”から近付けなかったやなんて!
 驚いて動揺する俺とは違て、金ちゃんは不機嫌そうな顔で千歳を見た。
 嫌や、なんやその反応!動揺しとる俺のがお子様やん!なんで金ちゃん冷静なん!

「千歳、女に手出すなんて最低やで。なんでを殴りそうになるん」
「ははっ!そん手じゃなかちゃ」

 そっちかい金ちゃん!
 金ちゃんの考えとった“手を出す”の意味にほっとしつつも、これから千歳が言う“手を出す”の本当の意味をハラハラする気持ちで俺は待った。

はほんなこつむぞらしか、やけんぎゅーっちしたくならんとね?」
「ぎゅー?」
「そうね、こぎゃん風に」

 そう言って、千歳は金ちゃんの体をぎゅーっと抱きしめた。
 それを見て俺の手が動いたのは関西人やとか関係あれへんと思う。関東人でも東北人でも、誰でも絶対につっこんだやろ!

「そっちかい!」

 ビビらすなや!ほんま、なんなん!?ウブなんかウブやないんかはっきりせぇっちゅーねん!
 そばにおったら手を出しそうでコワイっちゅうて、アダルティーな感じやと思えば、その“手を出す”っちゅーんが抱きしめたいって意味やなんて、はぬいぐるみとちゃうねんぞ。お前は少女か千歳!

「なんね、謙也まで俺が暴力ふるうと思っとっと?そげなことする男に見えとるとはショックばい」
「いや、ちゃうわ」
「ギブギブー!」

 千歳は笑っとるけど、がっつりと腕を締めとるみたいで笑っていた金ちゃんの顔が歪んどった。
 叫びながら千歳の腕から逃げ出した金ちゃんはと千歳を見比べて、ふーんと笑った。

「そんならぎゅーってしたらええやん」
「嫌がられるかもしれんけんね」
「えーはそないなことで嫌がったりせえへんよな?なぁ、謙也」
「それは流石に……分からへん」
「なんでや!俺らみんな仲良しやろ?」
「金ちゃん、それとこれとはすこーしちゃうねん」

 やっぱり金ちゃんはまだまだお子様やった。子供同士や親子でするハグと、男と女がするハグでは意味が違てくるっちゅうことを金ちゃんは分かっとらん。は嫌な顔をせえへんかもしれんけど、それが千歳の求めとる反応だという保証はあれへんのや。

は絶対に嫌がったりせえへん!」

 否定されたことが納得いかへんのか、金ちゃんは唇を尖らせて立ち上がり、白石と話しているの方へと走って行った。
 まさか、と思えばそのまさかや。金ちゃんは勢いのままに抱きつきよった。抱きつかれたは驚いた顔をした後、金ちゃんの言うように嫌な顔せんと、声を上げて笑った。
 ちゃうねん金ちゃん、そら金ちゃんが抱きつけばは笑うで、嫌がったりもせえへんやろ。せやけど、そういうことちゃうねん。なぁ千歳、と千歳を見れば、笑顔が引きつっとる。

「ち、千歳?」
「金ちゃん、ええ度胸ばい」

 千歳はぐっと拳を握りしめて、立ち上がった。そしてずんずんと三人の所に行ってまった。
 なんや、もしや千歳もに抱きつくんか!?
 どないするんや、と握りしめた千歳の拳を思い出して怯えつつも次の展開にわくわくしとったら、千歳は何も言わんとの体を抱き上げて金ちゃんから引っぺがしおった。きょとん、とする金ちゃんを千歳はただ見下ろして、の体をさっと下ろしてそのままコートから出て行ってしもうた。
 握りしめたままの拳に、千歳がを抱きしめるのを我慢しとったのが分かるけど……千歳アホやなぁ。

 いつものこと見とるのに、なぁんで今のを見逃すんや。






20120416
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