トライアングルな青い春





 そろそろ休み時間も終わる頃、後ろのドアから教室に戻ると入ってすぐの場所に置いてあるゴミ箱の前に紙を丸めたゴミが落ちていた。どうせ誰かが投げ捨てて失敗したのをそのままにしてるんだろう、と呆れながら丸められた紙を拾いゴミ箱の中に入れれば、いつの間にいたのか白石がにっこりと笑って私を見下ろしていた。

「おりこうさんやな」

 まるで子供を褒めるほうに私の頭を撫でる白石に、私はちょっと良い気分になりながらも白い目を向けた。

「これやったの白石?」
「ひどいなぁ、オレがゴミをほかすように見えるん?」
「まぁ、見えないけど」
「せやろ?オレもちょうど拾ったろ思ててん」
「そうなの?“おりこうさんやな”」

 自分に言われた言葉を同じように返せば、白石は私の頭から手を離し、屈んで私と目線を同じにした。

「オレの頭も撫でてくれてええで」
「なに言ってんの、ゴミ拾ったの私でしょ」

 撫でる代わりにチョップをすれば「あいた!」とわざとらしく痛がった白石は目を瞑った。

「そないな乱暴者に育てた覚えはありません!」
「育てられた覚えないもーん」
「帰って来たら躾し直しや」
「やだやめてよ、ていうかどこ行くの?もうチャイム鳴るでしょ」
「オサムちゃんから携帯に連絡来て呼ばれててん」
「生徒の携帯に電話するってダメでしょ」
「ほんまになぁ」
「電話来たならそれで用事済むんじゃないの?」
「資料があるねんて。休み時間終わる間際にダメな教師や」

 小走りで教室を出て行った白石にいってらっしゃいと手を振り、自分の席に戻ろうと回れ右をして私は声を上げた。
 目の前に、彼氏である謙也が立っていたのだ。
 テニス部は突然現れる練習でもしてるのだろうか。

「びっくりし────────っなに?」

 触れそうなほど近くに立っている謙也に驚いて一歩下がれば、謙也は何も言わず私の頭を少し乱暴に撫でまわした。撫でる、と言うよりは擦る、という表現の方が正しいような勢いに髪が焦げてしまいそうだった。

「謙也、どうしたの」

 焦げる前に止めなきゃ、と謙也の手を掴んで離せば眉間に皺を寄せ小難しい顔をしている。

「白石は格好ええから……」
「え?」
「頭なんて撫でられたら惚れるやろ」

 確かに、白石に頭を撫でられて何も思わない────────なんてことはなく、良い気分にはなっちゃったけど。かと言ってそれだけで惚れるなんてことはありえない。いやもちろん、それで惚れちゃう女の子も大勢いるだろうけど。そんなことされなくたって白石に惚れる女の子は多いんだから。
 だけどほら、私は惚れるわけがないでしょう?

「そんなんで惚れないよ」
「なんでや!白石むっちゃ格好ええやろ!」
「いや……え?」

 私が白石に惚れてしまう、という心配をされているのだと思っていたけれど、謙也の熱の入った言い方を聞いていると白石の格好良さを褒め、惚れないのはおかしいと説得されているように聞こえなくもない。
 というか、そういう風にしか聞こえてこない。

「白石と仲良うすんな言うてるのとちゃうぞ。オレは白石を信用しとるし」
「それじゃあ私を信用してないみたいに聞こえるんですけど」
「せや」
「私を信用してないの!?白石に惚れたりしないから!」
「なんでや!あいつむっちゃ格好ええやろ!テニス上手いし勉強出来るし、優しくてええ男やぞ!」

 熱弁する謙也に私はわけがわからなくなってきてしまった。
 謙也は私に何が言いたいのだろう。なんて言って欲しいのだろう。私が白石に惚れない、と言えば惚れないなんておかしいと白石の良さを語る。
 じゃあ、私が白石に惚れればいいわけ?

「白石は格好良いけど、私は絶対に惚れないよ」
「はぁ?お前、男のセンス悪いんちゃう」

 今のはカチンと来た。
 ていうか、自分の彼女に向って「男のセンス悪い」とか普通言う?私が謙也の彼女だってことも忘れちゃうくらい、謙也の中では白石の株が高いみたいで悔しい。謙也が私より白石のことが好きなわけじゃありませんように。
 そんなことを思いながら謙也に私が彼女だということを思い出してもらうべく、私は不機嫌になりながらも宣言をするように言い放った。

「うん、そうだね。私は謙也に惚れてるから」
「え──────は!?」
「そもそも白石に惚れてんの私じゃなくて謙也でしょ、やめてよね私の彼氏取るの」

 後半の言葉は、あっという間に教室に戻って来た白石に投げかけたものだった。
 実は浪速のスピードスターは白石なんじゃないかと思うほど戻って来るのが早い。それでも手にはしっかりプリントが握られているし、オサムちゃんにはちゃんと会って来たらしい。
 白石はニヤニヤとしながら謙也の肩を組んだ。

「オレは謙也を選んでもセンス悪うないと思うで」
「あったり前や!ちゅうかお前、きょっ教室で惚れてるとか言いなや!」

 自分から話をふっかけてきたくせに、私が“謙也に惚れてる”と言ったことに対して謙也は照れているらしい。顔を赤くして抗議する謙也に、私は笑えばいいのか呆れればいいのか分からない。
 なんで白石に頭を撫でられてる私に謙也がヤキモチを妬かなくて、白石に肩を組まれている謙也に私がヤキモチを妬かなきゃいけないんだろう。私のことは信用してなくて白石のことは信用してるだなんて。
 私のライバルは女の子ではなく白石らしい。

「白石より謙也の方が格好良いし!」
「アホ!デカい声で何言うてんねん!」
「だって謙也が白石格好良いとか言うから!」
「やめて〜ワタシのために争わんといて〜」
「お前のセリフちゃうやろ!」
「ポジション的にオレやん」

 裏声を出し両手で顔を覆った白石に謙也がツッコミを入れれば、教室にいたクラスメイトが笑った。私にとっては笑い事じゃないのに。
 謙也が私を信用してくれなかったのは、きっと私の謙也に対する愛がしっかり届いていなかったせいだ。だから私は、“私が白石に惚れることはない”と謙也に理解してもらえるまで、これからはもっとしっかりと謙也に対する愛を伝えて行こうと心に決めた。

 打倒、白石蔵ノ介!!!!






20140415
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