すきだよ





「光くぅーん」
「きしょい呼び方勘弁してください」
「きしょいって……!これあげないよ!」

 ベンチに座り靴ひもを結んでいる財前の隣に座ってタオルを置き、ポケットに入れていたリストバンドを出した。部室のテーブルの上に忘れていたのだ。せっかく私が持ってきてあげたのに、それを見て財前は何故か更に嫌な顔をした。

「警察に電話しますわ」
「えっ、なんで」
「ストーカーは立派な犯罪やで」
「私のどこがストーカーなの!」
「私物収集もストーカー行為のひとつに入るんで」
「収集したんじゃなくて届けに来てあげたんだってば!」

 私は軽蔑の眼差しを向けてくる財前の腕をとり、急いでリストバンドを腕にはめてあげた。どうだ、これで文句はないでしょう!
 罪が晴れた、と清々しい顔で財前を見れば、彼は片手で頭を抱えている。

「はぁ……ストーカーの次はパワハラやなんて」
「ちょっとぉ!もうドリンクやタオル届けたりしないからね!」
「マネージャー業ほっぽりだすなんて信じられへんわ」

 む・か・つ・く!ストーカーだパワハラだって言ったのは財前でしょうが!

「やだやだ難しいお年頃の子は!おねーさん手に終えないです」

 隣に座ってるだけでもセクハラって言われそうだ、と思った私はタオルを抱えて立ち上がった。素直に可愛いく「おーきに!」って笑ってくれる金ちゃんの所にタオルを届けに行かなくちゃ。そう思ったのに、Tシャツが引かれる感覚がして、振り向けば財前が私のTシャツの裾を掴んでいた。というか、私のお腹見えてる!これこそセクハラって言われる!いや、これは私じゃなくて財前がセクハラ!

「ちょっ」
「ええんすか」
「えっ?」
「冤罪のままでええんすか」
「良くない、っていうか財前が冤罪って分かってるなら別に、」
「晴らす方法があるんすけど」
「いや、そもそも私無罪だし、今は財前の方がセクハラだから手離してよ」
「大丈夫っす、今セクハラやなくなるんで」
「はぁ?」

 やだもう、ほんっと分かんない。たったひとつ年齢が違うだけでこんなに理解出来ないもの?
 Tシャツの裾を掴んだ手は、一向に手を離れる気配がない。恥ずかしくなってきた私は少しでもお腹が見えないようTシャツの裾を緩めるために財前に近付いた。これで少しはマシだろう、と思いながら財前を見れば、なんだか自信に満ちた顔をしている。
 何なんだろう、私のことストーカーやパワハラって無実の罪をでっち上げておいて冤罪だと言ってみたり、自分から私に罪を突きつけておいて晴らす方法を教えようとしたり。私と検察ごっこでもしたいのかな。

「罪晴らしたいやろ?」
「晴らしたい、です」

 ここは乗っておけばいいんだろうか。どうすればいいのか分からないまま、私は頷いた。
 すると財前は悪巧みが成功した子供のような、そんな笑みを漏らしたのだ。

「先輩、今から俺の彼女な」
「……え!?」
「せやったら俺のもん持っとってもストーカーやないし、触ってもパワハラにならんで」
「えっ、待って、何言っ……っちょ!」
「腹ぷよぷよやな」
「どこ触ってんの!?」

 財前の突然の言葉の意味がまったく分からなくて、会話について行けなかった。それなのに財前はひとりでぺらぺらと喋り、完結し、そして平然とTシャツを掴んでいない方の手で私のお腹を撫でた。びっくりして財前との距離をとれば、再びTシャツが伸びてお腹が見えてしまったけれど触られるよりはマシだ。
 騒ぐ私とは反対に、財前は相変わらずしれっとしている。

「彼氏なんやから問題ないやろ」
「だからその彼氏って……あのね、付き合うっていうのは好きな人同士がするも、の」

 そう言いかけて、私は口を噤んだ。
 それまで自信満々に、意地悪く笑っていた財前の顔から笑みが消えて、不機嫌そうに眉間に皺が寄ったのだ。そしてその瞳は、不安げに揺れている。

「先輩、俺のこと好きやないんすか」

 私のTシャツの裾を強く握って、捨てられた子犬のような瞳で見つめられたら、

 ──────私の返事はひとつしかないじゃない。






20120426
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