あの子になりたい





 私は千歳の部屋でトトロの映画を一緒に見ていた。もう何度一緒に見たか分からないトトロは、何度見ても面白かった。さつきとめいがトトロに飛びつく姿を見て、私はいいなぁ、と声を漏らした。

「私もトトロにぎゅってしたい」

 あの大きなもふもふに思い切り抱きついたら、どんなに気持ち良いんだろう。きっと離れられなくなっちゃうだろうなぁ。

「俺もトトロになりたかね」
「ね、千歳もトトロに……え?なりたいの?抱きつきたいんじゃなくて?」
「トトロになりたか」

 トトロに抱きつきたい、と同意を得たのかと思えば、まさかの“トトロになりたい”の発言だった。トトロ大好きな千歳だから、特別驚いたりはしないけど“トトロになりたい”って言うとは思わなかった。

「なんでトトロになりたいの?」
「そしたら抱きついてもらえるたい」
「…サツキとメイに?」

 トトロ大好き、まではいいとして、サツキとメイに抱きつかれたいってのはちょっと危ない思考なんじゃないの…?と思わず難色を隠せず千歳に問えば、千歳はちょっぴり拗ねた顔で私を指差した。

「え、私?」
「トトロになったらぎゅってしてもらえると?」
「トトロ…にならなくても、してるじゃん」
「いつも抱きしめてるのは俺っちゃね」

 確かに、いつも ぎゅっ てしてくれるのは千歳の方だ。私は抱きしめられるのが嬉しくて、そしていつも心臓の音が恥ずかしくて、そっと千歳の体に腕を回すくらいだった。だけどまさか、トトロになりたいだなんて言うくらいに思われていただなんて思いもしなかった。トトロと夜の空中散歩をする大好きなシーンなのに、画面どころか音楽すらまともに耳に入らない。

「トトロにならなくたって、してあげるよ」
「じゃあ今」
「え、今?トトロ見ないの?」
「俺がトトロたい」

 えぇ、そんな。いざ今やってって言われると恥ずかしいのに。でも、大きく腕を広げられると私の体は自然と引き寄せられてしまって、鼓動が早くなりながらも私は千歳の体にくっついた。ゆっくりと腕を回せば、千歳の腕も私の体に巻きついた。そのままいつものようにぎゅってして欲しい、と思うのに千歳の腕はいつも私がするようにそっと体を包むだけだった。なんだかすごくもどかしい。いつも千歳はこんな想いをしてたのかな。

「早よう」
「う、ん」
「足りんばい」

 もっと、と言う千歳に私は全身の力を込めて抱きしめた。それでも足りないと言う千歳に、私は必死に力を込めて、抱きしめるというより本当に締め上げるっていうくらい力を込めた。苦しくないのかな、と思ったけれどそれはいらない心配のようだった。頭上で嬉しそうな千歳の笑い声が漏れた。

「幸せたい、トトロに勝ったった」

 トトロみたいに大きな体をしているくせに、千歳はたまにまるでメイのようなことを言う。そんな所が私は大好きだ。

 私こそ、トトロにまで嫉妬してもらえるなんて幸せたい。






20120108
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