選べる文字は三つだけ





「なあ、聞けって!」
「……」

 私の視界に入ろうと、私に声を届けようと、必死になる赤也を私は無視した。いくら顔を背けようと、いくら聞こえないフリをしようと、赤也の姿は私に映っているし声だって届いているけれど、私は無視をし続けた。赤也なんて見えないし、声だって聞こえない。
 いつもいつもいつも!赤也はこうして私を怒らせる。

「だからァ」
「聞こえないし」
「聞こえてンだろ!」

 どっちが悪いと思ってんの?強気に出る赤也を私はジロリと睨んだ。すると赤也は流石に悪いと思ったのか小さな声で「悪ぃ」と呟く。いつもいつもいつも、赤也は私を怒らせるけれど、いつもいつもいつも、別に対したことではないのも事実。いや、私が短気という意味ではなくて確実に赤也が悪いんだけど。だからまぁ、赤也の反省した様子が見られたら私はそれで良いんだよね。しょうがない、謝らせてあげるか。

「三文字だけ」
「え?」
「今から三文字だけなら聞いてあげる」
「マジで!?」
「ふぅん、“マジで”の三文字ね」
「え、ちが、今から!今から三文字!」
「はいはい、どうぞ」

 赤也の口から“ごめん”の三文字を聞けたらこの話はもう終わり。はい、三文字をどうぞ赤也クン?

「好きだ!」
「……は」
「なんだよその反応。ちゃんと聞いてんかよ」
「なに言っ」
「好きだ!」
「ち、違うっつーの!ごめん、でしょ!ごめんの三文字!」
「あ、そっちか」

 まったくもって予想外すぎる赤也の三文字に私の時間は一瞬止まった。コイツいきなり何言い出すんだろう!こんな時にす、好きだなんて!

「何言ってんの!?私は怒ってるんだからフツーあやま」
「まぁまぁ、いーじゃん。顔真っ赤だぜ?」
「う、うるさい!聞こえない!」
「だからァ、聞こえてっから返事し」
「バカ死ね!」
「俺が死んだらお前泣いちゃうだろ」
「泣かないから!」
「素直になれって」
「それよりちゃんと謝れ!」

 不覚にも顔を赤くしてしまった自分が情けない。たった三文字にこんなに動揺させられるなんて。

「なァんだよ、まだ言わせたいワケ?」
「は?まだ一回も言ってな」
「好・き・だ!」

 ほんと、バカじゃないの!?人が怒ってる時になんでその三文字!?


 赤也から受け取るこの三文字は私にとって“たった”じゃないということを、自分の顔の熱さで嫌と言うほど自覚させられた私は恥ずかしさと共に先ほどの怒りまでがふつふつと湧き上がるのを感じていた。
 悔しいからもう謝ってきたって許さないからね!








20090717
2style.net