暴走遅刻特急





 いつもより少し早めに朝練を終えて、今日も千石は来なかったなと溜め息をついた時。俺の携帯がブルブルと震えた。

『南!助けて!!』
「え?なっ、ど、どうしたんだよ!?」
『お願い、今すぐ来て!』

 好きな女の子からの電話でそう泣きつかれてしまっては、男として焦らずにいられるわけがなかった。俺は学ランを羽織る暇もなく彼女の家へと自転車を飛ばした。




「っなん、どういう、っことだ、よ…!」

 人にぶつかれば殺してしまっていたであろうほどの勢いで自転車を飛ばし彼女の家に到着してみれば、なんともまあ優雅な笑みを浮かべて彼女は玄関に立っていた。
 …さっきの泣き声はなんだよ?助けてとは何がだ!

「おはよう南!」
「あ、いさつはいいから!何事だよ!」
「寝坊しちゃった☆」
「はぁ!?」
「歩いてたら完全に遅刻だから、南にチャリで送って頂こうと思って」
「おま、俺がどれほど心配したと…!」
「てーか、立ち話してる時間ないからGO!」

 汗だくで呆れる俺をよそに彼女は自分の鞄を籠に乗せ、俺の後ろに跨った。

「無理」
「え?」
「もうそんな体力残ってねーよ」
「テニス部でしょー!?」
「朝練してきて今ここに来るまでにどんだけ体力使ったと思ってるんだよ!しかも俺一人ならともかく、おま」
「私が重いとでも?ん?」
「イエ、チガイマス」
「じゃあ早く!今週もう四度目なの!」
「ハァ!?月曜から毎日!?」
「そうです!今日遅刻したら罰則だから早くう!」
「でも判じぃのクラスだろ?多目に見て」
「くれないんだってば!今日遅刻したら強制的にテニス部のマネージャーやらされる!」
「え!」

 マジかよ!?判じぃそんなこと言ったわけ?
 進もうとしない俺を急かすように、彼女が俺の背中を叩いた。

「それだけは絶対に嫌なのー!だから南はやく!お願いっ!」
「わかった、ちゃんと掴まれよ」
「ありがとみな…っえ!?ちょ、逆!学校反対だよ!」

 彼女が掴まったのを確認してから、俺は来た道とは反対の方向へとハンドルを回した。

「違うってば!そっちじゃないー!マジで遅刻しちゃう!」
「いいんだよ、遅刻するんだから」
「はっ!?なんで!?」

 んなの、お前をマネージャーにするために決まってるだろ!と、叫びたいのをこらえて、俺は自転車のスピードをあげた。

「やだもう自分で走るから下ろして、止まって!」
「たまには遅刻もいいだろ」
「たまにじゃなくて四度目なんだってば!南ひとりで遅刻してよ!」
「じゃあ走って学校行くのか?」
「南がひとりで遅刻する気ならね!だから降ろして!」
「どうぞ?」
「どうぞって、こんなスピード出てんのに降りれるわけないでしょー!?」

 バカ南ー!と叫ぶ彼女の声を背中で受け止めながら、俺は満面の笑み。悪いけど、遅刻が確定するまで絶対止まんねーからな!







20090717
2style.net