エノコログサ





 昼休み、自販機に飲み物を買いに行こうと廊下を歩いていると、ふと窓から覗いた中庭に見知った後ろ姿が。ちらっと見ただけで、しかも後ろ姿だけで、誰だか分かっちまうなんて。恋してんなーオレ!
 飲み物を買いに行く時間すら惜しく、俺は中庭へと向かった。

「セーンパイ!って、え!?泣いてんスか!?」
「あ、かや」
「ど、どーしたんスか!」
「す、杉山くんが」
「…すぎやま?」
「彼女できちゃったの」
「え!?それで泣いてんスか!?」

 声をかけて振り向いた先輩は涙目で、それだけでも驚いたと言うのに先輩の口からこぼれた言葉にオレは更に驚かされた。スギヤマ?スギヤマって誰だよ!

「うぅー」

 べそをかく先輩にオレは驚きだけでなく怒りもこみ上げてくる。
 スギヤマに彼女が出来たから泣いてる?先輩が?マジかよ!

「先輩そいつのこと好きだったんスか!?」
「っ、うん」
「んな、オレのこともて遊んだんスか!!」
「う…え?」
「オレ、先輩とイイカンジだと思ってたのに」
「……あか」
「オレが先輩のこと好きなの知ってて、そんなのヒドいっスよ!」

 オレは先輩と学年違うから、同じ校舎通ってても先輩と話せる時間は短ぇし、先輩が普段どんな友達といるかとか、スギヤマだって知らねぇけど。でも、それでも先輩はオレが話しかければ楽しそうにしてくれるし、先輩からだってオレによく話かけてくれて……全部オレの勘違いだったのかよ!

「泣きたいのはオレの方っス!」

 そりゃ先輩だって、そのスギヤマに彼女が出来て振られたという状況なんだろーけど、イイカンジだと勘違いしたあげく振られたオレの方がよっぽど泣きたい。オレと先輩とのあの日々は何だったんだ!そんな思いで先輩を睨むように見れば、そこにはほんのり顔を赤くした先輩の姿が。なんなんスか、ほんとにオレの気持ちに気付いてなかったとでも言うワケ?

「…そいつ彼女出来たんでしょ?先輩、オレにしときなよ」

 マジ泣きてぇけど、泣いてる暇なんかない。オレも今一回振られたけど、先輩が振られたってことは逆にオレのチャンスってことっしょ!簡単に諦めてなんかいられねーんだよ!
 意気込むオレに反して先輩は顔を赤くしたままモゴモゴと話し出した。

「えーと…そいつ、というか」
「なんスか。オレのこともてあそんだんだから覚悟してくださいよ!」
「も、もてあそんでなんか」
「今更遅いっスよ!オレ諦めませんから!」
「あ、赤也…杉山くんって、近所のオス猫ちゃんの名前なんだけど」
「………ハ!?猫!?」

 その後、先輩から“スギヤマというオス猫が彼女のメス猫の家にもらわれて行くからもう会えなくなる”という話を聞かされ、恥ずかしさで泣きたいのも顔を赤くするのも、やっぱり先輩よりもオレの方だった。

 オレのこともてあそんだ責任とってくださいよ!






20090717
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