君の幸せおすそわけ





「はぁ…」
「何回目じゃ、それ」
「…なにが?」

 溜め息、と答えて俺は空を見上げた。屋上でこんな晴れた空を見上げて憂鬱な授業をサボっている時に溜め息なんか、似合っちょらん。当の彼女は溜め息をついていたことに気付いていたのかいないのか、無表情で曖昧な返事をよこした。

「溜め息ね…」

 そう言ってまたひとつ、溜め息を落とした。言っちょるそばからこれじゃ。

「俺と一緒におるのがつまらんみたいで傷つくのう」
「違うよー。一緒におるのがつまるから溜め息ついちゃうの」
「なんじゃそれ」
「雲はずーっと流れてるね」

 視線を下に落としていた彼女が俺と同じように空を見上げてそう言った。何が言いたいのだろうか。

「ピヨ」
「でたーその意味の分からない発言!」
「お前さんに言われたかなかよ」
「意味わかるよ、時がたつのは早いねぇってこと」

 雲はずーっと流れてるね、がどうしてそういう意味になるのだろうか。最初から時がたつのは早いねと言えば良いものを。よく分からないが、彼女の溜め息の理由はそこにあるのだろうか。だとすれば…

「いっぱい息を吸いんしゃい」
「なんで?」
「いっぱい溜め息ついたじゃろ。溜め息つくと幸せが逃げるぜよ」
「吸ったらどうにかなるの?」
「戻ってくるんじゃなか?幸せを逃がさなきゃ、時がゆっくりすぎるかもしれん」
「そうかなあ…」
「そうぜよ、それがお前さんの幸せならな」
「ふーん」

 あまり信じてはいなさそうだったが、彼女は素直に呼吸とは違う、少し不自然に息を吸い始めた。深呼吸のようにゆっくりと、晴れた空の空気をたっぷり吸い込むように、空を見上げながら。満足したのか空を見上げるのを止め、俺に顔を向けた。その顔は相変わらず無表情。

「マサハル」
「ん?」
「手繋いでよ」

 そう言って差し出してきた彼女の手のひらに手を重ねるようにして、俺は手を握った。そして俺が口を開く前に彼女は満足そうに

「ほんとだ、幸せ戻ってきた」

 そう嬉しそうに言い、ようやっと笑った。俺は頬が緩むのを感じながらも気にせずに彼女と視線を絡めた。お前さんの目に俺はどう映っちょる?

 彼女が逃した幸せを、俺まで吸い込んでしまったようじゃ。






20090717
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