笑顔をあげる





「…どうぞ」
「え?」
「あげますよ」
「…ぇえ!?」

 くれるの!?私に!?そう驚く彼女に俺は舌打ちをしそうになり、慌てて顔をそらした。

「いるんですか、いらないんですか」
「いっ、いります!」

 たかが紙パックジュース一本、俺があげたことがそんなに驚くことだろうか。やめとけば良かった…そんな考えが頭をよぎったが、彼女が嬉しそうに笑うのを見てその考えも消えた。

「ありがとう日吉!私がこれ好きだって知ってたの?」
「べつに…たまたまですよ」

 その質問に顔を背けるように、俺は彼女から顔をそらした。たまたまなんて、そんなのは嘘だった。


 それは教室移動の際に三年校舎を通った時のことだった。自販機の前に立つ跡部さんと、彼女。

「お前どれにすんだよ」
「え?」
「俺様が奢ってやるって言ってんだ」
「やった!えっとね、これ!」
「最近そればっか飲んでんな。ハマってんのか?」
「イエス!イッツマイブーム!」

 そう言って嬉しそうに笑った彼女。


 その笑顔を、俺も見たかったと言えば彼女は笑うだろうか。跡部さんに向けた笑顔より、俺に向けた笑顔の方が良かったと俺が感じていると知ったら…彼女は呆れるのだろうか。

「ひよしー?どしたの?」
「…なんでもないです」

 変なところでまた跡部さんに対抗心を燃やしてしまった自分に、自分で呆れた。何をやっているんだ俺は。

「そんなに美味しいんですか、それ」

 あまりにもニコニコしながら俺があげたジュースを飲む彼女にそう聞いた。

「美味しいよー今ハマってるの。けど、」

 そう言って言葉を切った彼女に続きを促せば、彼女は照れたように笑った。

「日吉がくれたのが嬉しーの」


 今度は俺が笑う番だった。跡部さん、下剋上果たしましたよ!






20090717
2style.net