乙女な逆チョコぷれぜんと





「ねーねーブン太」

 ニコニコと近寄ってきた彼女に俺は声だけで返事をした。俺は今、もらったバレンタインチョコのチェックで忙しい。次はどれ食おーかな…っと。

「私という彼女がいながらも、すごい量ですね、そのバレンタインのチョコ」
「彼女がいてもチョコを渡したいくらい俺が色男ってことだろぃ」
「…デブん太のクセに」
「はぁ?デブじゃねーっつの!」
「テニス部で一番体脂肪あるクセに。蓮二に聞いて知ってんだからねメタボ予備軍!」
「失礼なこと言ってんじゃねーよ!」

 俺は次に食うチョコを決め、箱を開けた。その箱で失礼極まりないことを言う彼女の頭を軽く殴った。わざとらしく痛がってみせる彼女を横目にチョコを口に放り込む。なんだよコレ、ビターじゃんか。ビターはあんまし好きくねえっつのに。ていうか、

「ヤキモチはいーから、俺の彼女からのチョコは?」
「ヤキモチなんて妬いてないですー」
「はいはい、で、チョコは?」
「ねーねーブン太、そのことだけど」
「まさか用意してねぇワケじゃねーよな?」
「逆チョコって知ってる?」
「…ア?」

 ビターのチョコを食べるのを止めて、いかにも甘いですと言わんばかりのブリブリの包装が施される包みを開けながら質問する俺に、質問で返された。

「まさか用意し」
「逆チョコって知ってる?」
「…知ってるけど」

 もう一度問い直す俺を遮るように質問を繰り返される。逆チョコ?そんなんテレビを見てれば誰でも知ってんだろ、CMでやってた。そんなことを当日に言ってくるなんて、どういう意味だ?俺から逆チョコが欲しいなら、もっと前に言わないとダメだろぃ。

「私、逆チョコ欲しーなーって」
「お前…それ当日に言うか?」
「なんで?今からでも遅くないじゃん、まだお昼だし」
「ていうか催促してもらって嬉しいのかよ」
「ブン太だって私に催促してんじゃん」
「それは、去年お前が…」
「え?」
「いや、なんでもねー」

 俺は包みをといたチョコを口に一口入れた。ん、見た目どおり甘い。やっぱチョコは甘くなきゃだめだろぃ。俺は言いかけた言葉を飲み込むようにチョコを喉に流した。去年はチョコを大量にもらう俺にコイツが怒って「そんなにあるなら、いらないでしょ」と3階の窓から手作りのチョコを捨てたんだ。また同じようなことが起きても困る、思い出させないようにと俺は言うのをやめた。ま、俺が言わずとも覚えてるに決まってんだろーけど。今年もこりずに俺は女子からチョコを大量にもらってるけどコイツが怒んねーのは、去年一年で俺がお菓子をもらってもお菓子しか見えてないっつーことが分かったからだろ。良かったぜぃ、タダでこんなにチョコがもらえる一大イベント、逃しちゃらんねーし。

「ねぇブン太」
「分ーかったって。逆チョコが欲しいんだろぃ?」
「うんっ!くれるの?」
「まかせろ」

 そう言って俺は鞄の中からひとつの箱を取り出した。ほれ逆チョコ、と手に乗せてやると、笑顔が返ってくるかと思いきや信じられないとでも言うような、驚いた顔が返って来た。

「な…にこれ」
「だから、お前が欲しがってた逆チョコ。なんでそんな驚いてんの」
「…信じられない」
「え、そんなに嬉しい?」

 にしては、声に喜びを感じねーんだけど。そんなことを思いながら次の箱を開けようとする俺の目には星が見えた。バチンッという音と共に。

「痛って、…ハ!?」
「最っ低!チョコもらってるのも本当は嫌だったけど、でもそれは本当にチョコが食べたいだけなんだろうから我慢してたのに!まさかそのもらったチョコを私にくれるなんて!」
「ハァ!?欲しいっつーから逆チョコやったんだろぃ!」
「他の女の子からもらったチョコもらって誰が喜ぶの!?」
「…他の?ちょ、待てって!」

 俺に強烈なビンタをお見舞いしてくれた彼女はそれだけ言うと俺が渡したチョコも机に置き去りにして、涙目で教室を出て行ってしまった。痛む頬に手をやれば、だいぶ熱を帯びていた。これぜってー赤くなってる。あいつ真田にでもビンタの仕方教わったのかよ…。追いかけようと席を立とうとしたとき、憎たらしいほど陽気な声が俺を呼んだ。

「まーる先輩!今年はチョコいくつもらいました!?」
「うるせえ殺すぞ」
「なっ…なんスかイキナリ!あ、さては全然もらえなかったっていう」
「うるせえ殺すぞ」
「会話になってないっス!ていうか、その頬どーしたんスか?」
「…ビンタされたんだよ」
「あ、もしや彼女に?なんで、ヤキモチっスか?」
「うっせーな、逆チョコくれっつーからやったらビンタされたんだよ」

 そうして俺は彼女にやった箱を指差しながら答えた。つうか赤也と喋ってる暇なんてねーんだよ、これ持って追わねーと。

「うーわ、そりゃビンタされますよ」
「ア?」
「他の女からもらったチョコもらって喜ぶ彼女なんていませんって。しかもよりによってこんな手の込んだ包装の本命っぽいの」
「…ハァ」

 俺は溜息ひとつついて、うっぷんを晴らすように赤也のケツに一発ケリを入れた。

「痛っ!ちょっと何すんスか!」
「これはな、俺が作った、て・づ・く・りなわけ」
「…は?まる先輩が作ったの?」
「そーだよ、手の込んだ包装の本命っぽい、じゃなくて本命なんだよ」

 その手の込んだ包装の本命チョコを手にして俺は教室を出た。鞄から出したっつーのに、なんで他の女からもらったチョコだって勘違いすんだよ。せっかくこの俺が、天才的にチョコを作ってラッピングまでしたっつーのに。ビンタの代償はデカいぜ、最高のバレンタインチョコをもらってやるからな。彼女を追うため教室を出た俺に、ふざけた声が聞こえた。

「まる先輩、乙女ー!」






20090214
2style.net