NO!NO!NO?





 ことの始まりはブン太の部屋で見ていたとあるドラマの再放送だった。ついこの間までやっていた、話題のイケメンが出てるやつ。特にテレビを見ようと思ってつけていたわけじゃなくて、BGM的な感覚でつけてたんだけど意外に面白くて夢中になってしまった私は、ブン太が話しかけているにもかかわらずドラマを見入ってしまったのだ。すると突然、テレビがブツッと音をたてて消えた。

「えっ、ちょ、今いいとこだったのに」
「お前もうテレビ禁止!」
「ええ!?」
「俺とテレビの中のあいつ、どっちがいーんだよ!」
「あいつ?」
「お前が夢中になって見てたドラマの男だよ!」
「どっちがっていうか夢中になってたわけじゃないし、私はドラマを見てただけで」
「俺が話しかけてんのに無視しただろ!」
「ごめん、意外と面白くって」
「ぜってー禁止!」

 そうしてその日、再びテレビがつくことはなかった。ああもう、面白かったのに、あの後どうなったのかすごい気になるじゃん。不満に感じながらもブン太のこと無視というか話しかけられてたのに返事しなかったのは私が悪いし、仕方なく文句を言うことはやめた。それに私はただドラマに夢中になっちゃっただけなのに、ドラマに出てた男の子に夢中になってるって勘違いして怒ってたブン太の嫉妬心がちょっぴり可愛いくて、嬉しかったからいっか。

 なんて、その時は思っていたのです。




「漫画禁止!!」
「…え?」

 なんだか前にも聞いたことのあるセリフだな、と思ったのは昼休みのことでした。

 私は友達とお弁当も食べ終わって、委員会の用事があるからと教室を出て行く友達を見送った後、自分の席で借りた漫画を読んでいた。少女漫画にありきたりではある美少年があんまりにも女の子のツボを押さえてるもんだから、ちょっと心をトキメかせていたら「よぉ!」というブン太の声と共に目の前の椅子がガタンと音を立てた。

「お前ひとり?もしかして今日飯もひとりで食ったの?」
「ううん、友達と食べたよ。委員会だって言ってさっき出てったの」
「ならいいけど…なに読んでんの?」
「さっき借りた漫画。この美少年ね、女の子のツボをすっごい押さえててヤバイよ」
「ふうん」
「後2ページだから読んじゃっていい?次に待ってる子いるんだ」

 そう言ってブン太の返事も待たずに私は漫画に目をうつした。残りはたった2ページだし、数分と言わず数秒で読み終わるだろうから何の問題もないと思ったのだ。けれど、そんな私の予想はページをめくる前に早くも打ち砕かれた。その上、私の手から美少年が、もとい漫画が消えた。驚いて顔を上げると険しい顔をしたブン太がいて、その手には私が読んでいた漫画が握られていた。

「あ、それ借り物なんだから乱暴にし」
「漫画禁止!!」
「…え?」

 そして冒頭に戻る、というわけ。ブン太が何を怒っているのかさっぱりわからなくて呆けている私に、ブン太はそのまま言葉を続けた。

「んなアホみたいな美少年、漫画の中だけなんだよ、夢見てねーで俺を見てろぃ」
「え、ゆめ」

 夢って?私は夢、を見ていたわけじゃなくてただ漫画を読んでいただけなのに、この間のドラマのイケメンといい、またブン太は勘違いしてるのかな?前回に続き、なんだか私の考えを勘違いされているようだったけれど、前回同様そもそもブン太がいたのに漫画を読み続けようとしていた私が悪い、と思って素直に私は謝った。残りのページは授業始まる前に急いで読んで、次の子に回してあげよう。

 この時もまだ、そんなことに嫉妬しちゃうブン太が可愛いなあ、とか私は思っていたのです。




 思っていたのです…………が

「小説も禁止ー!」

 三度目の禁止命令に、流石の私も今度こそ唖然とするしかなかった。
 この日はテニス部が休みで、ブン太と一緒にケーキバイキングに行こうと言っていた日。一緒に軽くお昼を済ませて、バイキングには夕方から行く計画で街をぶらぶらしていたらブン太の携帯が震えた。仁王からメールが着たらしく「ストリートテニスコートで仁王達がテニスしてっからケーキ食う前に腹空かしに行かねえ?」とブン太に言われて一緒にテニスコートへと向かったはいいけれど、私はテニス出来ないし、黙ってただベンチでテニスをしている皆を眺めているだけだった。それでも少しふざけながら楽しそうにテニスをしている皆を見ているのも楽しかったんだけど、柳くんが退屈だろうからって文庫を貸してくれたのだ。柳くんが読んでる文庫だなんて小難しくて分かんないんだろうなあって思いながら読み始めてみれば、以外にも恋愛小説だったりして面白くてついつい夢中になって私はページを捲っていた。
 そんな時だった、ブン太の禁止命令が私の耳に届いたのは。今度は話しかけられてなかったはずだし、何で?ブン太に奪われた小説を見ながら、私は小さく溜息をついた。眉間に皺を寄せて私を見ているブン太だけれど、皺を寄せたいのは私の方だ。またいいところだったのに…

「これにはイケメンも美少年も出てこないよ」

 文字だから、もしかしたら物語の中ではイケメンだったり美少年だったりするかもしれないけど、私の視界には入ってはいない。だから過去二回のようなブン太が嫉妬するようなこともないし、そもそも私ブン太のこと無視したりほっといたりしてないのに。

「どっぷりハマッてただろぃ」
「ハマッたっていいじゃん、面白いんだもん」
「ダメ!」
「なんでダメなの、もう…じゃあ何だったらいいの!?」

 テレビもダメ、漫画もダメ、小説もダメ。たしかにブン太と一緒にいるのにテレビに夢中になったり、漫画に夢中になったりするのはブン太に失礼かもしれないけど…でも今はブン太もテニスしてたじゃん!それに私といる時にブン太だって漫画読んでることあるし、ゲームしてることだってあるし、寝ちゃう時だってあるじゃん!
 なのにブン太の口から出る言葉は、まさかの

「何でもダメだ!」

 自分のこと棚に上げてなにそれ、そう言おうとしたのにすぐにブン太に遮られて私は何も言えなかった。

はずーっと俺のこと見てろぃ!俺以外は全部ダメ!」

 思わず、開きかけていた私の口は開いたまま静止した。今…なんて言ったの?

 俺 以 外 は 全 部 ダ メ … ?

「バ…カじゃないの!自分はテニスとか漫画とかゲームとか!好きなことするくせに、なんで私はダメなの!」
「俺は何してる時でものこと考えてんだろぃ」

 再びすぐに抗議の言葉を言おうとしたのに、それ以上何も言う気になれなくて開いたまま固まった口は何も発することなくパクリと閉じた。
 だろぃ、とか言われても…。そんなの知らないし、何してる時でも私のこと考えてるって…そんな。
 呆れてものも言えない、のに、そんな私の頬はほんのり熱くなった。ほんとにバカじゃないの、わがまま、自己中、色々言ってやりたいのに何故か私の口からはどの言葉も出てきてくれない。

 何を言えば良いのかと、ふと視線をそらすとブン太の背後にいる仁王と目が合って、助けを求めるように私は口を開いた。

「…これは、喜ぶところ?」
「早めに別れた方が身のためじゃなか?ストーカーになるぜよ」
「いやストーカーの前に監禁とかされちゃうんじゃないっスか」

 仁王につられて赤也くんまでも呆れた口調で口を開いた。今度こそ盛大に溜息をつく私をよそに、ブン太は抗議しにコートにいる仁王と赤也くんの所へ行ってしまった。

「なんだかんだで別れられない確立97%」
「…にしてもなぁ。も俺と一緒で苦労してんだな」

 柳くんもジャッカルも、呆れながら私の両隣に腰掛けた。二人とも、ごもっともです。
 私が可愛いと思っていた小さな嫉妬心はどうやら嫉妬心というよりもワガママな独占欲だったのだと気付いて私は肩を落とした。なにちょっぴり喜んで可愛いとか思ってたりしてたんだろ、ただのジャイアンだったんじゃん。ホント相変わらず…

「テメ、ジャッカル!俺の席に座んな!」

 仁王と赤也くんとギャアギャア言い合ってたのに、今度はジャッカルが私の隣に座ったのが気に入らなかったらしく近付いてくるブン太を見ていると、柳くんが私の耳にこっそり一言囁いた。私はその言葉を聞いてほんのり熱かっただけの頬を真っ赤にしてしまって、ブン太はそれを見てジャッカルと私の間に割り込もうとしていたのに、反対側の柳君を押しやって私の隣に座った。何で顔を赤くしてんだよとブン太に問い詰められても、私はただ黙って顔を赤くして口を開かなかった。

 “あんなブン太が可愛いと思ってしまう確立100%、だろう?”

 本当、ごもっともです。






20091025
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