僕のわがまま、君への優しさ





 深夜、俺は隣で呻く彼女の声でふと目を覚ました。

「ん…どした」

 半分眠ったままの体で片腕を伸ばして隣に寝ているであろう彼女を探ってみても、予想した場所に彼女はいなかった。彼女の呻き声で目が覚めたはずなのに、今耳に聞こえるのは彼女の声ではなくボリュームは下げているのだろうけど、寝起きの耳にはよく響くテレビの音だった。重い瞼を開くと薄暗い部屋に光るテレビの明かりと、それに照らされた彼女の姿が映る。隣で寝ていると思っていた彼女は俺に背を向けてベッドに座り、どうやらテレビを見ているらしい。

…?なにしてんの」
「24時間テレビ見てるの」
「んあ…?」

 だんだんと覚醒する頭で、そういえば彼女は隣で寝ていなかったことを思い出す。夕飯を一緒に食った後24時間テレビを見ていたんだっけか。電気の消えた部屋と俺にかけられた布団は、いつの間にか寝てしまった俺に彼女が気を使ってくれたのだろう。

「あー…のど乾いた」
「ん」
「いま何時?」
「3時すぎ」

 3時って…俺何時から寝てたっけ、なんかドラマ見てた記憶はあんだけど。渡されたペットボトルに口をつけながら考えてみても、俺が寝たのはあきらかに0時前なはずだ。3時間以上もコイツはひとりでテレビを見てたのかよ。

「つかお前なんか呻いてただろぃ」
「うん、ねむくて」
「…なんでそれで呻くんだよ?」
「睡魔と戦ってたの」

 呻いた理由が分かっても、なんで睡魔と戦わなきゃなんねーのかが分からない。眠いなら寝りゃいーだろぃ。俺はデカい欠伸をひとつして、寝ころんだままもぞりと動いた。ペットボトルを床に置いて、俺に背を向ける彼女に近付く。彼女はテレビから目を離さない、けれどその目は今にも閉じそうだった。そんな彼女を見上げるように、俺は彼女の膝に頭を載せた。

「寝よ」
「やだ」
「眠いんだろぃ?」
「んん…でも見たいんだもん」
「録画しといてやっから」

 確かデッキにテープ入れっぱだったはず、とリモコンに手を伸ばせば、慌てたようにリモコンを奪われた。

「録画したの見ても意味ないもん!」
「はあ?」
「生で見るから良いのっ」

 なんでこんな24時間テレビに入れ込んでんの…?彼女の夢中さに驚いて、半分寝たままで対応していた俺が逆に軽く目が覚めた。

「ブン太離れて」
「やあだ」
「眠くなっちゃうう」
「なっちゃうんじゃなくてもう眠いんだろぃ」
「テレビ見たいのー」
「そんなんじゃ面白いもんも面白くねーって」
「でも…」

 何がそんなに夢中にさせるのか分からなかったが、俺は彼女の手から離れたリモコンをこっそりと手にして録画ボタンを押した。リモコンを持ったまま彼女の腰に両手を回して抱きつけば、頭上から困ったような声が聞こえる。俺は更に抱きつく力を強めた。

が隣で寝てねーと落ち着いて寝らんねぇよ」
「……ん」
「なぁ、眠ぃ」
「…うん」

 彼女の顔を伺うように見上げれば困ったように微笑んでいて、俺の頭を撫でてから「寝よっか」と、ようやく24時間テレビを諦めたようだった。俺は彼女の返事を聞いて、手にしていたリモコンの電源ボタンを押してテレビを消した。急にテレビが消えたことも気にならないくらい、本当は眠気の限界だったらしい彼女はベッドに倒れ込むように寝転がった。今度は俺が彼女の髪を撫でて、すぐに寝息を立てる彼女の唇にひとつキスを落とした。呻くほど頑張って起きていようとしていた彼女はどこへやら、ぱたりと眠ってしまった彼女を見て微笑み、俺は再び瞳を閉じた。


 俺をほっぽいて24時間テレビに夢中になるなんて許さねーっつの。やっぱ俺が寝てる時はも隣で寝ててくんないとダメだろぃ。

 そうして俺も、ようやく落ち着いて眠りについた。






20090830
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