おバカな騎士





 昼休み、飯も食い終わり何か飲み物でも買ってこよーかと廊下をぶらついていると、パックジュースとお菓子を持って教室に入る先輩を発見し、俺は追いかけた。先輩はやさしーし、丸井先輩の彼女だけど俺大好きなんスよねえ、丸井先輩の彼女にしておくのが惜しいったらありゃしない!そんな先輩の教室に足を踏み入れた瞬間、教室から引き戻されるように誰かに腕を引かれた。何かと思い振り向くと、そこには仁王先輩。

「あ、仁王先輩、」
「しーっ」
「え?」
「いいから黙ってここから見ておりんしゃい」

 教室に入りかけていた俺を廊下へと引き戻し、教室の外から視線だけを教室に向ける仁王先輩。覗き見っスか?と聞くと、俺の口を塞ぐようにチュッパチャップスを俺の口に突っ込んできた。痛っ…前歯に当たったんスけど!

「お子様はうるさいのう」
「んむ、お子ひゃまじゃにゃいっしゅ!」
「おお、お子様言葉でちゅか?」
「ちが、むぐ!」

 チュッパチャップスを口からはずして否定しようとした俺の手をつかみ、仁王先輩はチュッパチャップスを俺の口に押し込め「いいから見んしゃい」と言って俺の顔を無理矢理教室の方へ向けた。昼休みなので教室も廊下もがやがやとしていて、俺達がドアから顔だけ出していても窓際にいる先輩はまったく気づいていないようだった。なんでわざわざ先輩のことを覗き見る必要が?俺はただちょっと声かけようと思っただけなのに。あわよくば遊んでもらって楽しい時間の共有を。と、そこで仁王先輩が言っていた「見て」る相手は先輩だけじゃないということに俺は気づいた。むしろ先輩よりもこっちを見ろってことか。

「まる先輩?」
「そ」

 俺は仁王先輩のくれたコーラ味のチュッパチャップスを舐めながら、先輩と、自分の教室でもないのに我が物顔で先輩の前に座っている丸井先輩を見た。丸井先輩は先輩の持っていたおやつを勝手に開けて食べていた。まぁこれは先輩相手じゃなくても、いつものことだ。自分の目の前にある食べ物は全て俺のものだと言い張るのが丸井先輩だから。にしても、なんでわざわざこっから見てる必要が?

「仁王先輩、」
「ほら、がジュースにストロー刺したぜよ」
「はあ?」

 何を俺に見せたいんスか、と聞く前に仁王先輩は先輩がジュースにストローを刺したと言い出した。だからなんだと言うのだ。飲みたいから買ったわけであって、ストローを刺すという行為に何ら不思議な点はないんじゃないのか。でもまた何か言えば仁王先輩がうるさいと言うだろうから(お子様じゃねーし!)俺はまた黙って先輩と丸井先輩を見た。丸井先輩は先輩が持ってきたお菓子を食べながら先輩に何か話しかけているようだったが、先輩はジュースを一口飲んで、そのあとはプリ帳に目を通していた。話かけても返事はするものの、プリ帳から顔をあげない先輩に多少不貞腐れつつ、丸井先輩は先輩のジュースに口をつけた。ようやく先輩が顔を上げたかと思えば、またジュースに口をつけてすぐにプリ帳に顔を戻すだけ。そんな先輩を見て、丸井先輩はジュースを一口飲んでまた先輩にちょっかいをかけていた。…なんスか、別にいつもと同じじゃないっスか。

「仁王センパーイ、ただの悪趣味っスか?」
「気がつかんかのう?」
「何にっスか?まる先輩のアホさ?」
「外れてはいないの」
「??」
「ジュースぜよ」
「ジュース?だって、まる先輩は目の前にあるものは自分の物でしょ?」
「飲むタイミングがアホじゃ」
「タイミング?」

 飲むタイミングにアホとかあるんだろーか。バレないように飲めってことか?でもそれなら先輩はプリ帳を見てるし、バレてはいないんじゃないか?というか、バレるバレないは丸井先輩に関係ないんじゃ…?なんて考えつつ先輩と丸井先輩を見ていたら、さっきから先輩がジュースに口をつけるたびに丸井先輩もジュースを飲むもんだから、どうやらジュースがあっという間になくなってしまったようで、ズズズ、と音を立てるストローに先輩は怪訝な顔をしていた。その怪訝な顔をジュースから丸井先輩に向けて、先輩は何かを言っている。するとポン、と仁王先輩に肩を叩かれた。

「行くぜよ」
「えっ?」

 くわえていたチュッパチャップスを落としそうになりながら、俺は面白そうな顔をしている仁王先輩を追って教室に入った。二人に近づいてみれば、先輩が丸井先輩に何やら怒っているようだった。

「お二人さん、喧嘩かの?」
「あ、におーちゃん!あれ、赤也くんも!」
「ちっス!」
「何だよお前ら、勝手に教室入ってくんなよ」
「まる先輩だってクラス違うじゃないっスか!」
「俺はいーんだよ。つか、まる先輩って呼ぶのやめろっつったろ!」
「ブン太なんてまる先輩で十分!もう、まるまる先輩になっちゃえ!」
「なんだよそれ!」
「まぁまぁ、落ち着きんしゃい」
「だってブン太がまたあたしのジュース飲んだんだもん!」
「いいじゃねーかよジュースくらい!お菓子だっていっつもくれんじゃん!」

 たしかに。お菓子だって勝手に食べてたし、むしろ丸井先輩が人の物とるのなんていつものことじゃないのか?と思っていた俺に、その考えを見透かしたのか先輩が軽く睨んだ。

「赤也くんもあたしのことケチだと思ってるでしょ」
「えっ、いやそーじゃないっスけど、いつものことじゃないかなぁ、と」
「だよなぁ、赤也ー」
「いや別に味方してるワケじゃないっス。むしろ先輩の味方」
「なんだよ可愛いくねー後輩だな!」
「たしかにいつものことだけど、飲み物のときだけおかしいんだもん!」
「と言うと?」
「今日はあたしの分しかなかったけど、ブン太の分も買ってきたときだって、ブン太は自分のがあるのにあたしの飲むの!」
「まる先輩のことだから、違う味飲みたいとかってのじゃないんスか?」
「同じ味でもだもん。ケチとかじゃなくて、飲み物のときだけなんか変なの!」
「別に変じゃねーって!買ってきてやっから、な?」
「確かに変じゃったのう、赤也?」
「へ?俺?」
「見てたじゃろ?」
「え、見てたって…」

 変だった、見てた、という言葉に不思議がる先輩と、それで察したのか今度は丸井先輩が怪訝そうな顔をした。見てたというのは、今さっき見てた先輩と丸井先輩のことだろ?んで、変だったってのは?そういえば仁王先輩が「飲むタイミングがアホじゃ」と言ってたけど、変だっつうのは…

「あ!」
「ホラ、言ってやりんしゃい」
「なに?二人とも見てたって、何が?」
「教室に入る前に、見たんス!」
「なんだよ、何見たっつーんだよ」
先輩がジュースに口つけたら、まる先輩もすぐジュース飲んでた」
「ゲ、」

 俺の言う意味がわからないのかキョトンとする先輩に、それとは反対にバレたとでも言うように「ゲ」と声を出した丸井先輩。そうだ、これだ!別にいつもの丸井先輩と変わらないと思っていたけど、なんだか変だったんだ。丸井先輩は、先輩がジュースに口をつけるとすぐさま自分も飲んでいた。それは無意識と言うには無理があるほど、確実に。(って、なんか俺探偵みたいでカッケくね?)ん?でも待てよ?別に変でもなくねぇ?確かに飲むタイミングは意識的で必ず先輩の飲んだ後だけど、ただ飲みたいだけなんじゃ?未だキョトンと俺を見る先輩だったが、今度は俺が仁王先輩の顔を見た。結局どーいうことなんスか?

「なんじゃ赤也。わからんの?」
「・・・まる先輩はいつものど渇いてる?」
「ちと違うのう」
「あーもーいいから帰れよ!仁王も赤也に変なこと教えんな!」
「仁王ちゃん、どういうことー?」
も聞くな!買ってやるから!」
「ひどい彼氏やのう。これじゃいつかがのどの渇きで死んでしまうかもしれん」
「ひどいブン太!それが狙いだったの!?」
「んなワケねーだろ!」
「ひどすぎるっスまる先輩!」
「テメ、殴るぞ!」
「痛ッ!もう殴ってるじゃないっスかー!!」

 ふざけた先輩(というか仁王先輩?)に便乗してふざけたら俺だけ頭を殴られた。くっそ先輩ってのを利用しやがって!と思ったけど先輩が頭を撫でてくれたから良しとする。丸井先輩は悔しそうに俺を見てすぐさま先輩の手を俺の頭から離した。

「ワカメがクッションになってっからへーきなんだよ!」
「ワカメじゃないっス!」
「ワ、ワカメ…!」
「ちょ、先輩笑うなんてヒドイっスー!!」
「ご、ごめ、えーと、で、結局どういうことなの仁王ちゃん?」

 あ、そうだった。うっかり丸井先輩の「飲むタイミングがアホ」という謎を流してしまうところだった。丸井先輩はうまく話しが流れてたのに、と嫌そうな顔をした。俺と先輩は未だわからず仁王先輩を見る。仁王先輩ひとりだけが面白そうに微笑んでいた。

「もーどうでもいーだろ!」
「どーでもいいなら教えてよブン太!なにかあるんでしょ?」
「マジでなんでもねーって」
「えー隠し事?隠し事なのね!?」
「ちっげーよ!」
「ブン太はが飲んだらすーぐ飲むのう?」
「それさっき赤也くんも言ってたね?なにそれ?なんで?それが理由?」
「わかった!」
「え、なになに赤也くん!教えてっ」
「間接ちゅーっス!まる先輩は先輩と間接ちゅーがしたいから!」
「え…間接、」
「ちげーよざけんな!んなガキみたいなことするか!」
「えー?んじゃ何スかー」
の他の男との間接ちゅー防止策だ!」
「 「 えっ? 」 」

 思わず俺と先輩はハモッてしまった。え、今なんて?

「いつ誰がの飲みモンくれって言ってくるかわかんねーだろぃ!」
「 「 ……… 」 」
「クク、良かったのう、唇だけじゃなくストローまでも守ってもらえて」

 俺は自身満々で「間接ちゅーしたいから」と言ったのだけれど、丸井先輩は「そんなガキみたいなことするか!」と全力否定。じゃあどんな理由が?と先輩も俺も丸井先輩に視線を向ければ、他の男との間接ちゅー防止策!?い、今自分でガキみたいなことするかって、言っ、

「アハハハハ!バカじゃないっスか!!」
「なんだと赤也!」

 俺は一瞬呆気にとられたものの、次の瞬間には腹をかかえて笑った。だって、マジで、マジで……バカ!んなことのためにジュース飲んで先輩を困らせてるんっスか!ありえねえ!腹をかかえながら横目で先輩を見てみると、唖然とした顔をしていた。でもほっぺ真っ赤っスよ。ちぇー、結局は両思いっつーやつっスか。ラブラブってやつっスかー?なんて思っていたら丸井先輩は笑いこける俺を睨み先輩の手を引いて教室を出て行ってしまった。どうやらジュースを買いにいくらしい。






「仁王先輩、俺面白かったけど面白くなかったっス」
「俺は最初から最後まで面白かったぜよ」
「まさか“面白い”の中に俺まで含まれてませんよね?」
「プリッ」
「俺も彼女欲しいっス」
「頑張りんしゃ〜い」

 まんまと仁王先輩の暇つぶしに俺まで加えられていたようで、ダブルで悔しい思いもしながらも手をひらひらと振り教室を出て行く仁王先輩を追った。こんなとこで一人にされても困るし!てーかここ三年の教室だし!

「アレ、そういえば俺のチュッパチャップスどこ行った?」
「ブン太のズボンじゃ」

 おお、いつの間にか手から落ちて丸井先輩のズボンにくっついてたんだな。ナイス俺!






20080207
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