貴方の両手に一輪ずつの花を





「もし私達が死んで天国に行ったら、そうしたら私はひとりきりになるんでしょう」

 今、虎徹が私を愛してくれていても、心の中には彼女がいる。虎徹の中から彼女がいなくなることは絶対に許せないことなのに、その事実が私ととてつもなく悲しくさせるのだ。私をひとりきりに、させるのだ。
 今、虎徹が私を腕に抱いてくれていても、虎徹の腕の中にいた彼女は消えない。再び彼女と出会えたときに、虎徹の腕の中には再び彼女が抱かれるのだ。私はそれを許せるのに、その事実がたまらなく苦しい。

 私は虎徹を愛しているのに。
 虎徹は私を愛してくれているのに。

 それがとてつもなく苦しくて、不安で、どうしていいのか分からなくなるのだ。

 私の目をしっかりと見つめる虎徹の瞳には、寂しそうで苦しそうで、今にも泣き出してしまいそうな私の顔がしっかりと映されていた。全てを堪えようと必死な私の顔は、虎徹の瞳の中で揺れている。そんな私を、虎徹はしっかりと瞳に映してくれる。虎徹はそんな私を、そのままを受け止めてくれる。
 それでも。今、虎徹が私を愛してくれていても。

 最後にはひとりきりになってしまう自分が不安で、可哀相で仕方がないのだ。

「天国に、行ったら?」
「虎徹は彼女と出会える。私は…ひとりきりになる」

 虎徹の、声が揺れる。口にしてはいけないことを、私は口にしている。問いかけてはいけないことを、私は問いかけている。
 こんなことを口にしても、私も、虎徹も、苦しいだけなのに。悲しいだけなのに。
 それでも私にはもう耐えられなかったのだ。こんなにも、こんなにも、
 ────────虎徹を愛していることを。

「ははっ!」

 嬉しそうな声が、静かな部屋に響いた。

「そうしたら俺は、両手に花だなぁ」

 私の目を見て、笑顔を向ける虎徹は、それはとても嬉しそうで、とても寂しそうな顔をしていた。

「両手に、花」
「あぁ、本当に天国だな、こりゃ」

 目を細める虎徹に、私は顔を伏せた。堪えていたものがもう、押さえ切れなかった。ぐっ、ともう一度堪えなおして、顔を上げる。
 涙が落ちていても、声だけちゃんと出ればいい。想いだけ、ちゃんと伝わればいい。

「絶対に、“両手に花”なんでしょう、ね!」
「…も、俺の花だ」

 私はその言葉を聞いて、虎徹の首に抱きついた。ぼたぼたと涙を落として、堪えるのはもうやめた。
 堪えることなど、もう何もないのだから。

「俺は…天国には行けねぇかもな」

 両手に花を持とうとしてるなんてカミサマに知られたら、と漏らす虎徹の顔は、きっととても寂しそうな顔をしているのだろう。
 もしかしたら虎徹が、一番苦しいのかもしれない。ひとりきりではない自分に、幸せと自責を感じているのかもしれない。

 私は虎徹を愛している。
 虎徹は私を愛してくれている。

 私がひとりきりの寂しさを感じれば感じるほど、虎徹も苦しいのだ。涙を落としているのは私だけじゃない。虎徹も、なのだ。天国にいる彼女も、きっとたくさんの涙を落としている。
 それでも。

「大丈夫、”私達”が引き上げてあげるから」

 私も虎徹も、そして彼女も。たくさんの涙を落としてきた。だけどそれも、もういいの。もういい、のだと思う。
 虎徹は彼女を忘れられない。私はそんな虎徹だからこそ愛している、けれど寂しい。そんな私に、虎徹は苦しんでしまう。それでも、それでも。私は虎徹を愛しているし、虎徹は私も、彼女も愛している。そして彼女は虎徹を愛している。私達は愛することを止めることが出来ない。ずっと、ずっと、ずっと。

 だからもう、涙を落とすことなんて何もないのだ。
 虎徹が両手に花だ、と言ってくれたから。両手に花を持ってくれるから。

 私も彼女も、虎徹を愛している。虎徹をひとりきりにはさせたくないのだ。だから、これが私達の天国になる。虎徹が両手に花を持つとき、私も彼女も虎徹も、天国に行ける。

 私は震えそうな虎徹の唇に、震えている自分の唇を重ねた。私の気持ちを、ぜんぶぜんぶ込めて。

「…ありがとな」

 そう呟く虎徹に、私は笑顔を向ける。伝わってる、私の気持ちは虎徹にきちんと伝わっている。私も、虎徹も、彼女も。同じ気持ちでいるのだ。

 虎徹を愛している。
 私と彼女を愛している。
 虎徹を愛している。

 だから────────貴方の両手に一輪ずつの花を










 それが私達の天国なのだ。






20110930
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