プレゼントはラッピングよりも中身





「…はぁ」
「あれ、どうしたの?なんか元気ない?」

 縁側で大きなダンボールに顎を乗せながらため息をつく女中がひとり。通りかかった山崎がそのため息に気づいて声をかけた。

「退ちゃん…聞いてよう」
「うん、どうしたの?」

 山崎が彼女の隣に座りこめば、ダンボールに顎を乗せたまま彼女は浮かない顔を山崎へと向けた。

「今日って土方さんの誕生日でしょ」
「うん」
「プレゼント用意しようと思ったんだけど…全然何も思い浮かばなくって」
ちゃんからもらったものならなんでも喜ぶと思うけど」
「どこにそんな根拠あるの!?」
「え、根拠って…いや、それは」

 急に大きな声を出す彼女に山崎は軽く肩を揺らした。根拠、など言わずもがな分かり切った根拠がある。山崎はそれを知っていたが彼女に告げて良いものかと迷い言葉をにごした。これは当人同士の問題だと、そう思ったからだ。余計なことをして土方に睨まれてはたまったものではない。そう思う山崎をよそに、彼女は再び声を落としぼそぼそと話出した。

「ちゃんとしたものあげたいと思っても、私が高価なものあげても重いって思われたらどうしようとか、女中の私が高価と思っても副長の土方さんにとっては安価かもしれないし。センス合わなかったらどうしようとか…でもたいしたものじゃない物あげるのもなんか…気持ちこもってないって思われても嫌だし」
「そんな考えすぎだよ、副長のことを思って用意したものなら本当に喜ぶと思うよ?」
「…でも」
「…それで何も用意できなかったの?」
「ううん、結局…マヨネーズ一箱用意した」
「ぶはっ!」
「っちょ、真面目な話してんのに何それ!?」
「い、いやだって」

 山崎は真剣に話を聞いていたし、真剣に返事をしていたのだが、彼女が用意したプレゼントの内容に吹き出すしかなかった。彼女ももちろん真剣に考えて導き出した答えなのだということも分かる。それにしたって誕生日にマヨネーズ一箱とは如何なものなのか。いや、彼女は何も悪くない。相手の、土方の嗜好のせいなのだ。しかしアンバランスなプレゼントに、やはり笑いが自然とこみ上げてしまう。

「間違ってないでしょ、一番はずれないでしょ!」
「そうだけど、でも…っぶふ、結局マヨネーズって」
「好きなものあげるのが一番かと思ったの!私も誕生日にこのチョイスどうかと思ったけど仕方ないでしょこれしか思い浮かばなかったんだから!」
「にしても仮にも恋慕抱いた相手だって言うのにそれじゃ色気なさすぎでさァ」
「総悟!」
「沖田隊長!」

 自分が思っていても、笑うことで言うのを抑えていた言葉をサラリと言うのは誰だ、と振り返ればそこにいたのはニヤリと笑みを浮かべた沖田で、この人しかいないよなぁと山崎は思ったのだった。

「もしや土方さんより俺が本命で?去年俺がもらったプレゼントの方が格上でしたねィ」
「総悟が試着したまま店出てくから私が払わざるを得なかったんでしょ!」
「…俺には気持ちがこもってないって言うんですかィ?」

 真剣勝負の時のような、紅い瞳をぎらつかせて問う沖田に彼女は姿勢を正し否定するしかなかった。

「こ、こもってる!こもってるよ!」
「今年は藍色の袴でよろしく」
「…あのねぇ」
「え゛、藍色のって」
「え、なに、なんで退ちゃんが青い顔してんの」

 去年の誕生日プレゼントのせびり方もひどかったが、今年も最早リクエストしてくるのかと彼女が呆れていれば、彼女以上に山崎が肩を震わせていた。不審に思いながら山崎の顔を覗き込めば、山崎は恐る恐る、と言うように沖田の顔を伺う。

「いや…沖田隊長それってこの間見たやつですか?」
「そうでィ、良い色で気に入ったんでさァ」
「………」
「だからなんで退ちゃんがビビってんのって。…え、まさか引くほど高」
「まぁまぁ、土方さんに金かけてねーんだからその分俺にかけたらいーんでさァ」
「そういう問題じゃないし!ちょっと、それいくら?退ちゃんっ!」
「な」
「山崎ィ」
「い、今“な”って言った!?まさか七万!?」

 嫌な予感しかしない状況に、肩を揺さぶるようにして彼女は山崎を問い詰めた。すると山崎の口からひとつぶ漏れた“な”という言葉。睨んで黙らせる沖田だったが彼女はその言葉を聞き漏らしてはおらず、的中した嫌な予感に顔を青くした。そんな状況すらも楽しみのひとつなのか、沖田はへらへらと笑って口を開く。

「七千円かもしれないですぜ?」
「なワケないじゃん去年三万だったんだから!」
「“なんだったかな”の“な”かも、なァ山崎ィ?」
「う…はい」
「絶対違ううう!いやだからね、七万とか無理!高給取りなんだから自分で買ってよ!女中の私に七万って…!」
「俺には愛がないんですねィ…」
「そっ、そんな顔してもだめだから!」

 寂しそうな、捨てられた子犬のような表情をする沖田に一瞬怯むも、演技なのは分かりきっている、と彼女は沖田をたしなめるように睨んだ。

「……」
「…そ、そんな…顔してもだめ、だから…!」

 しかし睨みで彼女が沖田に勝てるはずもなく、先ほどより恐ろしい紅い瞳を向けられては彼女も強くは出られなかった。それでも自分の意志を伝えようとなんとか言葉を絞り出せたのは、その瞳をよく向けられるほど沖田の面倒を見ているという、日々の努力の賜物だった。

「まァ、そんなこと言ってられるのも今のうちでさァ」
「…なんで」
「その色気のないプレゼントを土方さんが気に入るようにラッピングしてやるって言ってんでさァ」
「え、ラッピング?ラッピングなんかで土方さんごまかせな」
「いーやアホ土方なら大喜び間違いないね」
「…人の好きな人のことアホ呼ばわりしないでくんない」

 こうして、なんだかんだと協力してくれるらしい沖田に彼女は頼ることにしたのだった。日頃から、そして昔から土方のそばにいる沖田なら自分よりも土方が喜ぶ方法を知っているのであろうという考えであったが、彼女は肝心なことを忘れていた。日頃から、そして昔から沖田の趣味は土方へのいやがらせだということを。彼がサディスティック星の王子だと言うことを。




「い゛やぁぁああ!やだっ、総悟!」

 屯所中にの悲鳴が響き渡った。

「色気のない悲鳴しかだせねーんですかィ」

 沖田に耳打ちされ山崎がいなくなった縁側で、両手を背中で縛られた彼女を押さえ込む沖田の姿があった。手には彼女が土方の誕生日にと用意したマヨネーズが握られている。そして沖田に押さえ込まれている彼女は、マヨネーズだらけになっていた。

「やだやだやだっ、色気とかじゃな」
「ここにもこうすりゃ少しは色っぽくなんだろ」

 あまりにもぎゃあぎゃあと騒ぐ彼女に沖田は呆れていた。色気のない誕生日プレゼントに色気を足してやろうとこうしているのに、なかなか色気が足される気配がない。頭や頬、肩にマヨネーズがべっとりと付着する彼女を見て沖田は彼女の襟に手をかけた。そして勢い良く胸元を開き、そこにマヨネーズを絞り出した。

「っひゃ、や」
「お、出るんじゃねーですかィ」
「変態ィィィィイイ!」
「うるっせーな、なに騒いでやがる!」

 やっと色気が足された、と沖田が思ったところでタイミング良く土方が怒鳴り込んできた。

「あ、土方さんちょうど良いところに。はっぴーばーすで〜」
「…な、なにやって」

 はたから見れば強姦以外の何者でもない状況であるにも関わらず、たじろぐ土方をよそにいけしゃあしゃあと沖田は誕生日の歌を口ずさんだ。

「そこのダンボールに入ったマヨネーズ、誕生日プレゼントでさァ。で、これオマケ」
「私がオマケ!?」
「じゃあ後はごゆっくり〜山崎に風呂場は隊士が使えないように看板立てさせといたんで二人っきりであんあんできやすぜ」
「なっ、なにバカなこと、待て総悟ォォォオオ!」

 沖田に押さえ込まれ抵抗したせいで乱れた裾や合わせ目、そして無理やりひんむかれたせいで露わになっている肩や胸元が見える彼女を指差し沖田は「オマケ」だと笑った。あまりの扱いに恥じらうことも忘れ目を丸くする彼女と、さり気なく視線を逸らした土方を置いて沖田はその場を去ってしまった。

「……」

 足取り軽く去っていく沖田の背中を見ながら、今更ながら彼女は沖田に協力してもらったことを悔やんでいた。沖田が良い展開に運ぶわけがなかった。今まで散々経験しておいて何故自分は気付けなかったのだろう、と。

「お前も、なにやってんだ」

 土方のその言葉に、ごもっともだとしか返事をしようがなかったが、こうなってしまえばいきさつを素直に話す以外ないと彼女はうなだれながら口を開いた。

「土方さんに…誕生日プレゼントとしてマヨネーズ一箱用意したら色気がないって言われて、こんなことに…」
「……」
「そのダンボールに入ってるマヨネーズはささやかながら私からのお祝いの気持ち、です」
「…マヨネーズを粗末にすんなっていつも言ってんだろ」

 ただ、おめでとうを言いたかった。その気持ちを伝えたかった。喜んで欲しかった、笑ってほしかった。ただそれだけだったはずなのに、どうしてこんな展開になってしまったのか。呆れさせるつもりも、彼の大好きなマヨネーズを粗末にするつもりもなかった。彼の誕生日のこの日まで、必死に考えてきたはずなのに自分にはこんなことしか出来なかったのか、と泣きそうになるのを堪えながら彼女は謝罪の言葉を口にした。祝いのこの日に、自分が口にするのは祝いの言葉よりも謝罪の言葉なのか、と落ち込みながら。

「ごめんなさ、っん」

 しかし彼女が全てを紡ぐ前に、視界に土方の手が映った。彼女がそう認識する前に、その手によって顔を上げさせられ、彼女の瞳には目を閉じた土方の顔しか映らなかった。唇には柔らかい感触と、甘くてしょっぱいマヨネーズの味が広がった。

「言うことはそれだけか」

 唇が離れ、開かれた瞳を優しく細めそう問う土方に、彼女は途切れ途切れ絞り出すように、それでもしっかりと心を込めて伝えたかった言葉を紡いだ。

「お、誕生日、おめでとうございます」
「あァ、ありがとな」

 そう言って笑ってくれた土方に、彼女は瞳を潤ませた。土方が笑って、喜んでくれれば彼女はそれだけで満足なのだ。良かった、こんな形になってしまったけれど彼は喜んでくれた。それ以上に、重なった唇に、想いが重なったのだと彼女は幸せを感じていた。欲を言うなら、一言でいいから言葉が欲しい。自分の気持ちも言葉で伝えたい。そう思った彼女が口を開こうとすれば、土方は頬をほんのり染めながら目を泳がせた。確かに自分は乱れた格好をしているが、それは今更であるし、唇を重ねた時ですら冷静な顔をしていたのに今更どうしたのだと彼女は首を傾げた。そして、もしやと淡い期待が膨らむ。口が不器用な土方である。自分に想いを伝えようとして、そして照れているのではないか、と彼女は思ったのだ。自分から伝えるのも嫌ではない、けれど叶うなら彼の口から先に聞きたかった。高鳴る鼓動を抑えながら、彼女が土方の口が動くのを待っていると…

「ふ、風呂場行くか」
「……」

 泳いでいた視線が止まった先は彼女の胸元で、彼が紡いだのは愛の言葉ではなかった。いや、ある意味の愛の言葉ではあるが。期待を膨らませていた彼女はショックで目眩が起きそうだった。
 ――ゴツッ
 鈍い音が響く。目眩にまかせて頭を思い切り下げ、土方に頭突きをかましたのだった。沖田に手を後ろで縛られたせいで立ち上がれない、と思っていたがそんなのなんのその。彼女はさっと立ち上がって泣き叫びながら廊下を走った。

「土方さんに犯されるゥゥゥゥウ」

 嫌じゃない、好きな相手なのだからいずれそうなることに抵抗はなかった。しかし繊細な乙女心にこの展開はあんまりだった。彼女の泣き声の後に何故だかスピーカーで叫ぶ沖田の声までもが屯所内に響き渡った。

『強姦罪で土方逮捕ォォォォオオ!!』






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