遠吠えの響く夜に





 深夜、廊下を歩いていると灯りの漏れている部屋があった。かすかにテレビの音も聞こえてくる。こんな時間まで誰だと思って部屋を覗けば、枕を抱えてテレビの前に座り込んでいるの姿がそこにはあった。

「なにしてんだお前」
「………」
「寝てんのか?」

 声をかけても返事をしないに近寄り顔をのぞき込んでみると、目が閉じられていた。テレビを見ている途中で寝てしまったのだろうか。ほおっておいたら朝までここにこのまま寝ているのではないかと思った俺は、を部屋へ運ぶべく抱き抱えようと肩へ手をかけた。するとの目がうっすらと開いた。

「ん…あれ、土方さ、ん?」
「お前こんな時間まで何やってんだよ。風邪引くぞ。部屋戻って寝ろ」
「ダメです、ダメ…まだ寝ない、の」
「はぁ?なんでだよ」
「テレビ…ネウロ見るの」
「つったってお前、今寝てただろ」
「ダメなんです、見るの、見るのっ」
「ったく何時からだよ」
「二時三十分から…」

 寝ぼけているのかよっぽど見たいのか、見るのだの起きてただのと目をこすりながら頭をふる。二時三十分からつったら、後三十分もあるじゃねーか。しかもそっからネウロを見てから寝るっつったら何時になんだ。そもそもこんな時間にやっているネウロとやらはどんな番組なんだ。そんなことを考えているうちに、はまたうつらうつらと寝そうになっていた。

「わかった、時間になったら起こしてやっから寝てろ」
「ん…ありがと、ございます」

 何を言っても聞きそうにないに、仕方なく俺は少しでも寝るようにと言う。きっと俺が言わなくても寝ていただろうが、そんな今でさえも半分夢の中にいたのであろうはすぐに目を閉じて枕を抱えたまま、俺の膝に頭をのせた。

 ………なッ!?

 ちょ、ま、待て…!寝てもいいっつったが、俺の膝で寝ていいとは一言も言ってなッ!いや、ダメじゃねぇ、それこそダメじゃねぇ。しかしこの体制で俺に30分耐えろと?黙って寝顔を眺めてろと?いやいやいやいや、よく考えろ、俺!良いだろ、美味しいじゃねぇか。ガッツく歳でもあるめーし、好きな女が自分の膝に頭のっけて寝てるくれーで狼になんかならねーぜ俺ァ。全然余裕、余裕すぎて笑える…ぜ



 * * * 




 ピチチチチ、と外で鳥が鳴いている。

 狼になりかけたものの、襲うことはなく己を抑え俺はを部屋まで運んで寝かせた。その後も俺はなかなか寝付くことが出来ず、つい先程眠りについたというのに、ドタバタと走る音が廊下に響いて眠りを妨げる。そして襖が思い切り開かれた。

「土方さァん!!」
「…あんだよ、朝からうるせ」
「ひどいひどいひどいっ!土方さんが起こしてくれるって言うから、だから」

 誰のせいでこんな寝不足だと思ってるんだ、と思いながらも大声で騒ぐに俺は頭を押さえながら起きて目を向けた。

「なッ、お前!!自分の格好見てから来い!」
「ひどいです、信じてたのに、楽しみにしてたのに」
「つうか肩!!はだけてんのなお」
「ネウロ楽しみにしてたのにィー!」

 俺が何を言おうと、は肩をはだけさせたまま枕を抱えて涙目で叫んでいた。そんなことはいいから、はだけてんの直せッ!!昨日からなんだってんだ、枕もかかえたままだしよ。すると突然の横から手がのび、すっとのはだけた襟元を直した。叫んでいたも驚いたように顔を向けると、そこには

「総悟くん」
「朝から土方になにされたんでさァ、さん」

 総悟か…またややこしいことになる。「襲われやしたか?」なんて言う総悟に溜息をつき、俺は煙草に火をつけた。は総悟に昨晩のこと、そしてネウロとやらを見ることが出来ずにいつの間にか布団にいたことなどを総悟に力説していた。総悟は意味あり気に笑いながら俺を見ていた。そんな総悟を無視しながら俺はフゥ、と紫煙を吐いて部屋を出た。

「おい、ついて来い」
「え?どこに?」

 何も言わない俺に不審がりながらもは黙ってついて来た。俺はテレビの前で歯を磨きながら占いを見ていた近藤さんからリモコンを奪ってチャンネルを変えた。

「ちょいと借りるぜ近藤さん」
「え?トシ?なに?俺今占い見」
「録画しといてくれたんですか!?」

 俺のしようとしていたことを察したのかは嬉しそうに叫んだ。近藤さんはワケがわからないというように俺との顔を交互に見ていた。俺が再生ボタンを押すと、ウィーンという音と共に、昨晩2時半から放送されていたネウロが再生される。しっかしなんだっては、こんなもんが見たかったんだ。

「……」
「トシ、なにこれ?」
「ネウロだとよ」

 喜びのあまり声も出ねーのか、は黙って画面を見ていた。

「早送りしてください」
「早送り?なんでだよ。せっかく録ってやったんだからとばさねーで見ろよ」
「あたしはネウロが見たいんです!」
「だから録ってやったじゃねーか」

 なんだ、ネウロってタレントが出てるとこだけ見たいっつーのか?しっかしネウロだなんて変わった芸名だ。我慢して見ろよな、などと思う俺には信じられないとでも言うような顔をした。

「録画してくれたのって…これ?」
「あぁ」
「…ネウロじゃない!」
「ア?だからそいつが出るまで」
「これネウロじゃないィィイイ!」
「は!?お前が見たいっつった時間に入ってたのはコレだろ!?」

 ネウロォォオオオー!と枕を抱えて泣き叫ぶに、腹を抱えて笑っている総悟。そしてわけがわからずもを慰めている近藤さんが俺を見た。なんだ、どうなってやがる!

「なにこれ、どうなってんの?トシィ、ちゃんを泣かせるのはダメだよー」
「ハハッ、こりゃ傑作でィ」
「土方さんの嘘つきっ、裏切り者っ、うわぁぁあん!」
「なっ、なにが」
「土方さん、さんが見たかったのはアニメですぜ」
「アニメ!?」

 の見てたチャンネルここだったろーが!だからの言われた時間に録画したっつーのに、違うチャンネルだったのかよ!クソ、恥かかせやがって…!

 苦い顔をする俺に、拍車をかけるようには泣いた。

「土方さんのバカァー!うわぁぁあん!」
「土方死ねコノヤロー!うわぁぁあん!」
「うるせ、総悟テメ、今なんつったァ!泣き真似してんじゃねぇ!」
「…チッ。さん、あんな変態狼ヤローはほっといて行きやしょーぜ」
「へ?変態狼?」
「土方さんは寝てるさんを見て襲っちまいそうになったんで起こすことも出来ずにさっさと部屋に運んじまったってワケでさァ」
「総悟ォォオオオ!変なこと言ってんじゃねぇ!」
「まぁ、どっちにしろ抱きかかえて運んだんだ、下心が見え見えですねィ」
「人聞きの悪いこと言ってんじゃねぇぞ!!」
「さささん、狼なんざほっといて行きますよ」
「おおかみ?」
「違、」

 おおかみ?と俺に聞くに違うと否定したかったが、あながち違うとも言い切れず、俺は言葉につまって最後まで否定することが出来なかった。くっそ、総悟の野郎!なんで知ってやがる、俺の心の中の葛藤を!

「山崎に録画させてたんでさァ。朝飯の前に見ましょーぜ、ネウロ」
「えっ、録画してあるの!?」
「バッチリでさァ」
「本当!?やったぁ総悟くん大好きっ!」

 言葉につまっていた俺をよそに、ネウロが見れる、と喜んでいるの手を引いて総悟が部屋から出て行った。つうか今「総悟くん大好きっ!」って言った!?え、言った?もしかして言ったの?「総悟くん大好きっ!」って?俺も頑張って録画とかしたんですけどォォォォオオオオ!ていうか録画したの総悟じゃなくて山崎だろ!チッ、あの野郎余計なことしやがって!いやでもに無事ネウロを見せてやることが出来たわけだしな…いやいやいや待て、は「総悟くん大好きっ!」て言ったんだぞ!?覚えてやがれよ山崎ィ!

「さよーならー変態狼コノヤロー」
「おおかみさんバイバーイ。あ、近藤さんちゃんと口ゆすがないとダメですよ?」

 そう言い残して総悟とは部屋から消えた。なんとも言えない空気をどうにも出来ないでいた俺に、近藤さんが声をかけた。

「なんか昨日狼の遠吠えが聞こえたなぁって思ったんだけど、あれトシだったんだな」
「………」

 冬眠してぇー。あれ、狼って冬眠するっけ?






20071005
2style.net