今の時代はサンタもセルフサービスで







 クリスマスイブの夜。は自室で山崎に頼まれていた裁縫をしていた。次の潜入捜査に必要だと言われ、期日は3日後。何もクリスマスイブである今晩やらなくても、と思いつつも恋人がいるわけでもなく、早く寝なければサンタさんが来ないと慌てる子供でもないは眠くなるまでは作業を続けようと考えていた。
 しかし、眠気よりも寒気の方が勝るのがこの時期。手先が冷え針を持つのがつらくなってきたためは諦め、大人しく眠ることにした。きっと明日は局長である近藤がサンタに扮して何かプレゼントをくれるであろう、と期待して。
 裁縫道具をしまっていると、誰かが廊下を歩く音がした。だんだんと近付いてくる足音は、の部屋の前で止まる。振り返れば障子が開き、そこには大きな赤い布を抱えた沖田の姿があった。何を持っているのかと驚くを気にもせず、沖田はずかずかと部屋に足を踏み入れた。

「総悟、なにそれ?」

 潜入操作に使うから、と山崎が布を持ってきて頼むことはあっても沖田がそんなことを言うことは今まで一度もなかった。不思議に思い首をかしげるに、沖田は口をにんまりと引き上げて布を広げた。意地の悪い、何か悪だくみを考えている笑顔だ。
 広げられた布は、よく見ると大きな赤い靴下だった。靴下の上部には白があしらわれ、そのデザインを見れば誰もが一目瞭然だった。

「サンタさんの靴下?」
「サンタがプレゼントを入れてくれる靴下、でさァ」

 広げられたそれは人ひとり入ってしまうほど大きな靴下だった。それを自慢しに来たのだろうか?サンタなんて信じていないくせに、欲張りに何をそんな大きなものを強請ろうとしているのだろう、とは呆れた。

「サンタさんはね、良い子のところにしか来てくれないんだよ」
「じゃあ俺の所にしか来ねェってか」
「今日の夜が楽しみだね」

 沖田が“良い子”だと言うのなら、と含みをもたせては返事をした。しかし沖田には一切響いていないようだった。楽しそうに、袋を広げている。

「きっと寝られねェ夜になりまさァ」
「寝なきゃ来ないからねサンタさんは。夜更かしする悪い子のとこには来ないの」
「寝てちゃプレゼントはもらえねーだろィ」
「なんで?普通は寝てなきゃ来ないんだけど。どんなサンタさんにプレゼント頼んでるの」
「どんなサンタ?まァ、イケメンサンタ」
「いけめん……?」

 イケメンサンタ。そんなものは聞いたこともなかった。サンタクロースと言えば白いふかふかの髭を生やしたおじぃちゃんを想像するのが普通だ。沖田にもプレゼントをくれるサンタ、と聞いてが思い浮かんだのは近藤の顔だったがイケメンだと聞いて想像する人物の顔が変わった。しかしそのイケメン、つまり土方が沖田にプレゼントをくれるとは微塵も思えなかった。

「なにをお願いしたの?」

 問いかけるに、沖田は不適な笑みを浮かべるだけ。

「え、まさか土方さんの首?」

 日頃、土方暗殺計画をたてている沖田ならありえないことではない。首を入れるにしては大きすぎる靴下だが、首をとった体ごと入れるのならば調度良さそうだった。は靴下に入れられている土方の姿を想像して小さく身震いをした。沖田が願ったプレゼントが土方の首であるならば、“良い子”どころの話ではない。クリスマスに靴下を用意して可愛い所もあるのだと内心では思っていたものの、実際は少しも可愛いくなどなかった。否定の言葉を口にしない総悟に、肯定の意を感じたは呆れて溜息を吐いた。
 しかし、ふと思う。沖田が土方の首を願ったとして、プレゼントをくれる“イケメンサンタ”とは誰のことなのかと。よくよく考えてみれば、沖田が土方のことを“イケメン”などと称するわけがなかった。

「総っ、ぷ」

 考え込んでいた顔を上げたの視界は突然真っ暗になり、顔に布がかかった感覚がした。すぐに顔だけではなく全身が包まれ、そのことに驚いている暇もなく次いで肩を押されたせいでの体は後ろへと倒れた。
 まさか、と思った時には既に遅く、足元から漏れていた光も遮られるように何かで結ぶ音がした。

「総悟!」

 自分があの大きな靴下に入れられるとは微塵も考えていなかったは、狭くて暗い袋の中で唖然とした。声を上げても返事はなく、いくら大きくとも人間が入るには狭い靴下の中で袋の端を探そうと起き上がれば急に体が浮いた。驚いた声を上げても、沖田の返事はない。
 靴下の中でがどんな体勢になっているのか沖田には分からないせいで、もしくは気にも留めていないせいでは不格好なまま持ち上げられていた。膝を抱えるような状態で体は斜め下を向いており、沖田の腕はの右肩から胸にかけて、そして腰と脛を支えるような状態になっている。
 どこに向かっているのか、何をされるのか、そして突然落とされはしないかとは暗闇の中で不安いっぱいだった。

「そ、総悟!」
「うるせーな、今何時だと思ってんでさァ。でけー声だすなよ」
「だって、何してんのこれ!?」
「だから、イケメンサンタがプレゼント調達してんだろィ」
「イケメンって自分のこと!?ていうかなんで私がプレゼントなの!」

 やはり、沖田が土方のことを“イケメン”と呼ぶわけがなかった。合点がいきスッキリしたものの、新たな疑問がを襲った。自分がプレゼントになった所で、誰の元へ届けられるのかということだ。それこそ沖田が誰かにプレゼントをあげるという行為は想像がつかなかった。

「ねぇ、誰にプレゼントあげに行くの?」
「サンタは俺の所にしか来ねェってさっき言っただろ」
「えっ……」

 早くここから出して欲しいと思っていただったが、沖田のこの言葉にしばらくは靴下を開けないでいて欲しいと切に願った。


 狭い袋の中が息苦しいせいだという言い訳は通用しないほど、靴下とお揃いの真っ赤な顔がそこには隠れていることを沖田はまだ知らない。









20131224
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