憩いの時間に





 それは、私が縁側で横になって休憩していた時のこと。のんびりとした空気が心地良くて、眠る気はなかったのだけれどつい目を閉じてぼんやりしてしまったのが運の尽き…突然腰に重みと痛みがはしった。

「痛っ」
「あり?」

 驚いて目を開けると、そこには私の腰に足をかけ、意地悪な笑顔を隠そうともしない総悟がいた。ぼんやりしていたせいで足音が聞こえなかった、というよりもぼんやりしてなくったって今のはまったくと言って良いほど足音はおろか気配すらなかった…!
 また総悟のいたずらを回避出来なかった自分に落ち込んでみるものの気配すらしないなんて、不可抗力だ。いくら真選組に勤めているからってただの女中の私が気配を察知出来るわけもないし、そもそも悪戯なんかのためにわざわざ気配消すとかやめてほしいんだけど。悪戯に入れ込む気持ちを仕事に向ければ良いのに…ほんと、土方さんの心中お察しするわ。

「とりあえず、足よけて」
「なんでィ、か」
「私以外何に見えるっつーの!」
「岩かと思ったんでさァ」

 岩…って!なんで縁側に岩が乗ってんのよ!ていうか岩ってェェエ!このドS王子は私の腰に乗せた足を、どうやらよかす気はないらしい。そして紅色の着物を着ている私が、灰色の岩に見えたらしいね!

「もぉー…岩でいいから足よけてよ」
「岩なら踏んでってかまわねーってことかィ、よいしょっ」
「痛だだだだだだっ!」

 総悟は横向きに寝ていた私の背を蹴り、うつ伏せにさせた後、私の背に足を乗せ先ほど以上に力を入れて踏み出した。ちょっ、待ってなんでなんでェ!?

「折、れるっ折れる!!」
「岩はそう簡単に折れないもんでさァ」
「岩じゃない岩じゃないィィィイ!」
「うるせー岩だな」
「だから岩じゃないって!私ですです!」

 ていうかツボ?ツボ押してんの?なんなの?なにこの痛さ!足の重さだけではない痛みに涙目でこらえていると、背筋がぞくりとした。えっちょ、なんか嫌な予感がするんだけど…

「もっと、って言いなせェ」
「………はい?」
「“ご主人様もっと強く踏んでください、もっと強く”って言えばよけてやりまさァ」
「はあああ!?なにそ痛だだだだ!」
「さァて岩を踏み越えて仕事にでも」
「言います!言いますからァ!」

 なんなのこれ、なんで!?あまりの理不尽さにうなだれるどころか涙が溢れる。だって私、ちょっと休憩にって横になってただけだよね?そりゃ縁側に寝ころんでちゃ通行の邪魔だったかもしれないけど、跨いで通れる幅だよね?お仕事だって放棄したわけじゃないし、むしろさっき総悟を探している土方さんに会ったんだから放棄してるのは総悟だよね!なのになんで私が踏まれて、なおかつ恥ずかしいセリフ言わされる感じになってるの!

「ご、ごしゅ」
「感情こもってねェーなァー」
「ご主人様っ!」

 なんで!?なんでこんなこと言わなきゃいけないの!?でもこのまま逃げたら跳び蹴りくらわされてまた踏みつぶされたり、それ以上の仕打ちが待ってそうで怖くて出来ない…ていうかなんで!?私何もしてないのに、なんでこんな展開!?
 色んな意味で頭に血が上るけれど、ふぅ、と一息ついて私は「なんで」と問うのをやめた。そもそも総悟のする悪戯に理由を問うことが間違っているのだ。総悟が楽しければそれで全てが成立する。とりあえず感情こめて「もっと」って言えばいんでしょ…そしたら背中にある足をよかしてくれて痛みもなくなる。恥ずかしさで今度は心が痛くなるけどね…。だけど背骨折られちゃたまんないし、このまま踏まれ続けてずっと背中が痛いよりも一瞬の心の痛みに耐えるのよ、私。

 ねぇ沖田くん、でも心の傷の方が治りにくいって キ ミ シ ッ テ ル ?

 私は涙を飲んで口を開いた。

「ご、ご主人様…もっ、とつよく踏ん…でください、もっと強くっ!」
「おー山崎じゃねーですかィ」
「ぇえっ!?」
「あ、あの…副長がちゃん呼んでたんだけど。沖田隊長、も」
「い、今すぐ行きますっ!」
「なんでィ、もっと強く踏んで欲しいんじゃねーんですかィ」
「アンタが言わせたんでしょォ!?早く足よけてよ!」
「つれねーなァ」

 渋々足を上げた総悟を見て私はすぐさま立ち上がった。退ちゃんを見てみれば気まずそうに視線をそらしていて、その頬は若干赤らんでいる。顔赤くしたいのは私の方なんだけど…!

「なんで退ちゃんが顔赤くしてんの!?」
「え、いや…邪魔してごめん!」
「だからあれは総悟に言わされただけで」
「空気読めや山崎」
「違ァーう!ちょっ、本気にしないでね!?顔赤らめるのやめてー!」
「顔赤ェのは発情したなまえに欲情したからでさァ。な?山崎」
「ちちちち違いますよ!」
「発情なんてしてなァーい!」

 あのセリフは本心じゃないし総悟に言わされただけ、それを分かって欲しいのに退ちゃんは勘違いしたままで顔を赤らめている。顔から火が出そうなのは私の方なんだってば!今すぐ逃げ出したいけれど、退ちゃんの勘違いを訂正しなきゃここを離れられない。いくら感情を込めて言っていたからって、あれが私の本心だと思われちゃ困る!

 私は再び口を開こうとした、のだけれど総悟の手によって口を塞がれてしまい、言葉を発することは出来なかった。今度は何なんだと総悟を見やれば、そこには真剣な総悟の顔があった。突然、不自然なほどに真剣な顔の総悟に何を言われるのかと思わず心臓をドキン、ドキンと震わせながら身構えていると、総悟から発せられた言葉は…

「俺は欲情しやした」
「「………」」

 まさかの発言に私と退ちゃんは呆気にとられるしかなかった。口を塞がれていた総悟の手を振り払い私は思わず叫んだ。

「格好良い顔して言うセリフじゃないから!」

 馬鹿なんじゃないの、ほんとに!顔とやることが全っ然一致しない!今に始まったことじゃないけど、少しは一致させてよ、顔の方に!

「いつもの顔と変わらねーはずなんだけどねィ…てことはあれか、は俺のことをいつも格好良いと思ってると」
「そーじゃなくって!」
「あらら?顔が赤くなってやすぜ?図星ですかィ」
「さ、っき総悟が変なこと言わせたからでしょ!」

 これでもかと言うほど嬉しそうに意地悪な笑顔を向ける総悟に、先ほどよりも顔を赤らめる私、そんな私たちの背後を見て真っ青になる退ちゃん。土方さんの怒声が響くのはそれから一秒後。






20090828
2style.net