喉に転がった飴玉





 縁側の柱にもたれかかりながら庭をぼぉっと眺めていると、いきなり誰かから後頭部を殴られた。誰か、なんて言わずもがな殴った相手は分かりきっているのだけれど。

「痛っ…たァ!何すんの!?」
「頭にハエが止まってたんでさァ」
「嘘をつくな!」
「嘘なんかじゃねーよ。お前のくっさい頭に」
「くさくなんかないわ!」

 涙目になりながら殴られた部分をさすっていると、総悟は私の隣に腰を降ろした。睨みつけてやると、逆に私が睨み返されてしまった。何だか機嫌が悪いようだ。まさか機嫌が悪くて私の頭を殴ったわけじゃないですよね?

「なんか機嫌悪いね」
「別に。つーかお前ここで何してんだ」
「なんもしてないけど…」

 標準語になってますけど沖田サン。機嫌悪い証拠じゃないですか。私は今日総悟に危害を加えた覚えはない。こうやって縁側でぼーっとして、さっき退くんと話したくらいでその時だって総悟の悪口なんか言ってないし、退くんが総悟に告げ口したって困ることなんて何一言ってない。となると、こりゃいつもの通り土方さんかな。殴られる以上の八つ当たりをされたらどうしよう…なんて思っていると更に空気が重くなるのを感じた。

「お前ここで何してんだ」
「え?だから何もしてないってば。こうやってぼーっとしてただけ」
「なんで」
「なんで?なんでって…」

 意味がわからない。総悟は私から一体何を聞きたいのだろうか。でもここで逆らってもまた殴られたりしちゃたまんないので私は素直に答えておくことにした。

「なんか体がダルくって、んぐっ!」
「食え」
「んむ、ゆ、ゆふぃ!」

 指!指まで口に入ってる!ていうか押し込んでる!?ぐいぐいと押し込んでくる指と一緒に私の口の中に入ってきたのは甘い飴玉だった。そんなに押し込まれたら丸のみしちゃうよ…!慌てて私は舌で飴を右の頬へ押しやった。その時に総悟の指に舌が触れれば、総悟はニヤリと笑って「誘ってんのかィ?」なんて言い出した。誘ってるも何も、指を口に突っ込んでるのは総悟の方だし、触れない方が無理ってもんだ。総悟は一体何をしたいの。睨みながら総悟の指を口から出すと、私も睨み返された。しまった、また機嫌悪いの戻っちゃってるじゃん。さっきちょっと笑ってて機嫌良くなったと思ったのに。

「な、なんで急に飴」
「ダリィんなら隠してねーでさっさと言え」
「え?」
「山崎から聞いた」
「…でもそんな言うほどじゃ」
「………」
「ほ、ほんとちょっと疲れただけで」

 私が話しかけても、そのまま総悟は顔だけそっぽを向けて黙ってしまった。何でそんなに機嫌が悪いんだろう?私がここでサボっていたから?まさか、サボっていることで総悟に文句を言われるわけがない。サボリ常習犯なんだから。じゃあサボりに誘わなかったから怒ってる?でもそれじゃあ普通に「俺も誘いなせェよ」って言えば良いこと。あれよこれよと考えてみても総悟の不機嫌な理由が分からなかった。コロコロと口の中で転がしていた飴玉ももう溶けてなくなってしまった。飴玉がなくなるほど私は考えていて、総悟との間には重い沈黙が流れていた。やっぱり私は関係なくて、土方さんに怒られたとか、そういうことだろうか。口から消えてしまった飴玉を名残惜しく感じながらそう思っていると、私の目の前にずいっと総悟のパンチが飛んできた。

「っ、わ」
「疲れてる時は甘いモン」

 総悟が私にしたのはパンチなんかじゃなくて、握られた手のひらが開くと、ボロボロと飴玉が零れ落ちてきた。先ほど口に押し込まれた飴玉だろうか?私の膝に落ちた飴玉はビー玉のように色とりどりの可愛らしいものだった。

「くれるの?」
「好きだろ、そーいうの」
「うん、ありがと。可愛いね」

 まだ総悟は不機嫌そうだったけれど、重い沈黙はどこかへ消え去り、私は自然と微笑んだ。膝に乗っている飴玉の袋をひとつ開けて口に放り込むと、先ほどとは違う甘い味。なんだか飴玉が私の口の中から溶けてなくなる度に、私の疲れも溶けてなくなるような気がした。甘い味をコロコロと口の中で転がしながら元気になっていく私をよそに、総悟はどうして不機嫌なままなのだろうか?飴玉をくれたお礼に、と私が総悟の機嫌を良くしてあげられないものか。考えてみても機嫌の悪い理由がわからなければ解決の仕様がなかった。

「総悟、土方さんに怒られた?」
「なんで俺が土方さんに怒られなきゃなんねーんでィ」
「だって…なんか機嫌悪いから」
「別に…機嫌悪くないって言ってんだろ」

 そう言って総悟はそのまま後ろに倒れて寝転がってしまった。なんで機嫌悪いの隠すのかなァ。言いたくないってことだろうか?それなら、と話題を変えるように私は先ほど退くんと話していたことを総悟に話した。

「さっき退くんに聞いたんだけどね」
「また山崎かィ」
「……またっ、て」

 今初めて話したのだけれど。退くんの話をして更に機嫌が悪くなった総悟に、原因はこれかと察した。ただ、退くんの何で機嫌が悪いのかは分からないけれど。まさか退くんと話していたから妬きもちをやいていた…なんてことはないよね、そんな今更。じゃあ、何なのだろう。三つ目の飴玉を口に入れながら私は再び考えた。ねぇ総悟、と口を開きかけたとき、急に襟足の部分を引っ張られ私は後ろへと倒れた。驚いてヒュッと息を吸い、床に頭をぶつける、と衝撃に瞳をぎゅうと閉じた。けれど頭には硬い床の感触なんかじゃなくて、少し骨ばった、けれどしっかりと筋肉のついた総悟の腕の感触。閉じていた瞳を開ければそこには私を覗き込む総悟の不機嫌そうな顔。

「一番に俺に言いなせェ」

 何のことか、言わずともそれはきっと私の体調のことで。総悟は私の体調のことを退くんから聞いたのが気に食わなかったらしい。そんな、本当たいしたことじゃなかったんだけどな。ちょっぴり疲れていただけ。たったそれだけのことなのに、一番に知りたがってくれるだなんて。
 驚いて息を吸い込んだときに飲み込んでしまい喉に転がった甘い飴玉は、少しばかり私を苦しめて甘く溶けながら広がった。

 まるでそれは総悟が私にくれた想いのように。






20081111
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