回り道のラブコール





 零時をすぎた深夜。俺達真選組はとある屋敷を囲むように東西南北と別れ、久しぶりに大きな見張りをしていた。大々的に見張ってはいるものの、たいしたことが起こる確率は低かった。予想通り何かが起こる気配もなく、煙草に火をつけようとしていたその時。隊服のポケットに入れていた携帯が震えた。気配も、隊士の騒ぐ声も聞こえないが何かが起きたのだろうか。緩んでいた気を少し張りながら携帯を取り出せば、ディスプレイに映る名前は隊士のものではなかった。

「もしもし」
『…ひ、じかたさ、ん?』

 電話の相手は屯所にいるはずの女中、のものだった。

「こんな時間にどうした、屯所で何かあったのか」
『すみません…な、っ、にもないです、けど』
「泣いてんのか?」

 こんな時間に電話をよこすという事にも驚いたが、電話越しの声が泣いていることに更に俺は驚いていた。なんでわざわざ俺に電話を?近藤さんはどうした。視線を左にずらせば、山崎と何やら話している近藤さんの姿が目に入る。

「近藤さん、つながんねぇのか?」
『こ、近藤さん、そばに…いる?』
「あァ、いるけど、山崎と喋ってて気付いてねーのかもな。かわるか?」
『あっ、かわらないで!近藤さんの声聞ければそれでいいです』
「なンだそりゃ。お前なんで泣いてんだよ」
『なんか…怖い夢見て…今日の屯所、人の気配なくて怖くなっちゃって』
「あー、今日はだいたい出っぱらってっからな」
『で、近藤さんの声聞き……』
「…?なに急に黙ってんだ」
『今私、ものすごく恥ずかしいこと口走りそうになりましたよね』
「ンなの今更だろーが」
『う…そ、それで!電話かけよーと思ったんですけど!涙声でかけたら近藤さん心配するだろうし、こんなことで勤務中に電話かけたの土方さんにバレたら怒鳴られるだろうし!』
「オイ、バレてんぞ、俺が土方ですけど?」
『でも近藤さんの声聞かないと怖くて眠れなさそうだったから、土方さんに電話してみたの』
「お前…なんかおかしーだろ、それ」
『さすがに土方さんも泣いてる女に怒鳴らないかなぁ、なんて』
「アホか。俺も勤務中に変わりねーんだよ」

 俺と話してるこの数分を、近藤さんとの会話にすれば良いものを。俺にバレる前に切ってしまえばいい話だろーが。なのにわざわざ俺に電話して、電話越しに近藤さんの声が聞ければ良い?意味がわかんねぇ。俺が怒るからか、二人が不器用だからか。いつもは勤務の邪魔をしないように、と変なところを我慢している。こんくれぇのこと、別にかまやしねぇのに。勤務に支障をきたすような時は相手にしてらんねぇんだし。
──なんてことを言えば、隊士に示しがつかねぇ。
 そう思って俺もある程度は近藤さんにもにも怒るが、がそんなにビビるほど俺は怒鳴ってるつもりはねぇんだがな。

「近藤さんの声が聞けりゃ満足なんだな?」
『うん。勤務中すみません…聞いたらすぐ寝ます』
「オイ、近藤さん」

 数メートル先で山崎と何やら話ししている近藤さんに声をかける。俺の声に普通に顔を向けた近藤さんと、ビビって伺うように顔を向けた山崎。山崎のあの顔からして仕事の話じゃなかったな…後でシメる。

「どうしたー?トシ」
がよ」
「え、?」

 俺は携帯を振って、から電話がかかってきていることを近藤さんに告げる。それを見て少し驚いたような反応を示す近藤さんに、更に一言。

「怖ェ夢見たっつって俺に電話かけてきたんだが、こりゃ浮気ってやつか?」
『えっ!?』
「ぇぇええええ!?」
『ちょっ、土方さん!なに言ってんの!?』
「五分だけ許してやるよ」
『え?』
「五分過ぎたら女中でも切腹」
『そっ、そんなの無理!』
「じゃあ過ぎるなよ」

 それだけ言って、慌てて走ってきた近藤さんに携帯を投げる。「浮気って、嘘でしょぉぉぉおおおお!?」と泣きながら携帯を耳に当てる近藤さんを尻目に、俺は煙草に火を点けた。

「オイ、山崎ちょっと来い」

 青ざめる山崎の顔とは反対に、近藤さんとの電話越しのの顔が明るくなってりゃいいと思いながら、俺は紫煙を燻らせた。







20090401
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