おやすみを隣で おまけ





 ピチチチチと鳥の鳴く音が聞こえて日の光の眩しさに目が覚めた。目を開くと目の前には近藤さんの寝顔。私の体に回る重い近藤さんの腕をよかそうとしてフとあることに気が付いた。近藤さんは隊服を着ている。首を後ろに回して机の上を見てみると昨晩と同じように書類が積みあがったまま。仕事を終わらせて、着替えないで寝てしまったのだろうか?まさか私とあのまま一緒に寝てしまったというわけじゃ…ないよね?まさか、と思っている私の耳に廊下を歩く人の足音が聞こえた。その足音はちょうどこの部屋の前で止まった。

「開けたら大変なことになりやすぜ」
「ハァ?なんだ総悟、こんな早くに起きてるなんざ珍しいな」
「そんなことよりも、そこ開けるんですかィ?」
「んだよ、開けちゃ悪ィか。早朝山崎が持っていく書類任せてあんだよ」

 そんな二人の声が部屋の外で聞こえたかと思ったらガラリと襖が開いた。思わず私は目を瞑り、眠ったフリをしてしまった。総悟くん、なんで開けちゃ大変なことになるとか…言ってたんだろう。やっぱり私ここにいたら土方さんに怒られるってこと、かな。ドキドキとする心臓を押さえながら目をつむっていたけれど、予想に反して土方さんは寝ている私を見つけてもたいして怒ったそぶりは見せなかった。

「ったく、なんでコイツがここで寝てんだよ」
「土方さん、そんなこと聞くなんてヤボってもんでさァ」
「ああ?」
「昨晩二人であんあんスカトロプレイを…」
「してなィィィィィイイイイイイ!!!!」
「どわっ!ビビらせんな、寝てたんじゃねーのかよ!」

 朝からなんてことを…!まったく見に覚えのないひどいことを言われて私は寝たフリをしていたのにもかかわらず思わず飛び起きてしまった。総悟くんを見ればニヤリと悪そうな笑みで私の髪を見ている。

「髪がウンコ臭ェ」
「臭くないからァ!変なこと言わないで!」
「オイ総悟、お前朝からなんつーこと言ってんだよ…」

 なんて総悟くんに言いつつもどこか疑いの眼差しで土方さんも私の髪を見ていた。臭くなんてないから!ウンコ臭くなんてないからァ!!どうやら昨晩近藤さんに濡れた髪を拭いてもらっていた時の大騒ぎを総悟くんには聞かれてしまっていたのだと、ウンコという単語で思い出した。だとしても朝からなんてこと言い出すんだこの人は…!!

「総悟くんも土方さんもセクハラで訴えてやるゥゥゥウウウ!」
「なんで俺も入ってんだよ!」
「だって変な目で私のこと見てるんだもんんんん!」
「土方さんもブッかけてェみたいでさァ」
「テメ、総悟!」
「強姦罪ィィィィィィィィイイイイイ!」
「まだ何もしてねーだろッ!」
「“まだ”!?」
「しねぇっつの!!」

 大声で騒いでいると隣で寝ていた近藤さんがモゾリと起き上がった。

「お前ら…うるさい。夜中になに騒いでるんだ」
「え?もう朝だよ」
「…え?朝?な、何時…?」
「何時だろ…土方さん今何時?」
「さっき七時回ったとこだ。オイ近藤さん、八時に山崎出発だぜ書類出来」
「おやすみ!」
「は?」
「まだ夜だから!もう一度ねるぞ!」
「え?…っわ」

 近藤さんは上半身を起き上がらせていた私をまた布団へと押し倒した。布団を思い切りかぶった近藤さんの顔は何やら焦っている。どうしたの?と小声で問いかけると同じように小さな声で近藤さんは「どうしよう」と答えた。どうしよう?どうしようってまさか…。

「おお、朝から第二ラウンドですかィ。それとも第三?第四?」
「近藤さん…何プレイしようがかまわねーが書類を先に」
「だから違うってば!」

 布団を蹴り上げて顔を出して私は叫んだ。なんだって朝からこんな会話!バカですかあんたらは!もういい加減にして!なんて思いつつも私にも原因があることは分かってた。というか原因は私だ。昨日あれほど邪魔をしないようにと思っていたのに、私のバカ…。

 私は布団から出て土方さんの目の前で正座をして頭を下げた。いきなりそんな行動をとった私に、土方さんはもちろん、近藤さんも総悟くんも驚いている。

「書類は出来ていません。すみません、私が無理矢理寝かせたからです」
「ち、違う違うトシ!俺がうっかり寝ちゃって…今から急いでやるから!も顔をあげろ!」
「罰なら私が受けます」
「…よォし顔をあげろ」
「トトトトシやめてー!罰なら俺が」
「近藤さんはさっさと書類完成させろ!」
「はいっ!!」

 土方さんに怒鳴られて、近藤さんは机に向かって山崎くんに渡さなければならない書類を書き始めた。私は睨む土方さんに内心怯えつつも負けないようにと目を合わせていた。口を開いた土方さんに何を言われるのかとかまえていると、とんでもない言葉が。

「俺にもヤらせろ」
「………えっ」
「トシィィィィイイイ!?」
「なっ、俺じゃねぇよ、今の総悟の声だっただろーが!!」
「嫌だな土方さん、人のせいにしないでくだせェよ」
「こっちのセリフだァァァァァアアア!」
「び、びっくりした…ドン引きしちゃったよ。総悟くん声マネうまくなったね」
「マジですかィ?これで恥ずかしい言葉言いまくって街中で流してこよーかな」
「やめろ!!」
「トシィィィィイイイイ!俺書類ちゃんと時間までに終わらせるからを強姦しないでェェェエエ!」
「しねぇよ!だから俺が言ったんじゃねぇって言ってんだろ!さっさと書類やれ!!」

 冗談はさておき、土方さんは何を言おうとしていたのかと私はもう一度土方さんの顔を見た。土方さんは朝から総悟くんとのやりとりに疲れたのか、どこかわずらわしそうにタバコに火をつけながら私を見た。

「お前は書類がちゃんと書きあがるように近藤さんを見張ってろ」
「え、それだけ…ですか?」
「書類があがるまで朝飯は抜きだ。近藤さんもな」
「書類が出来たら?」
「飯食いに行くなり、好きにしろ。いいか、ちゃんと見張ってろよ!」
「は、はい!」

 そう言って土方さんは出て行ってしまった。土方さんが私に言ったことは、全然罰でもなんでもない。山崎くんが八時に出発するなら近藤さんはあと一時間で書類を完成させなければならないということだし、八時には朝ご飯を食べることが出来る。いつも通りの時間。けれどちゃんと罰は受けなければ。私は正座をして、焦って書類を書く近藤さんの背中を見ていた。それを見て総悟くんはつまらなそうに溜息をついた。

「土方さんは二人に甘いですねィ」
「え?」
「俺からの罰は今すぐここでスカトロぷれいを」
「しないからァァァァアア!ていうかしてないからね!?完全なる誤解だから!!」
「なんでィ、ごまかそうとも髪がウンコ臭ェのが証拠でさァ」
「臭くないってばァァアアアアア!」

 書類を書いている近藤さんの後ろで総悟くんと言い合っていると、どこからかこちらへ走ってくる音が聞こえてきて、総悟くんの頭に鉄拳が落ちた。いわずもがな、土方さんの。

「邪魔してねーで見回り行け!お前今日朝番だろ!!」
「ひでぇや土方さん、なんで俺だけ」
「お前も殴られてーか」

 不公平を訴える総悟くんに、土方さんはギロリと私を睨み拳を掲げた。私は焦って姿勢を正し、近藤さんの背中だけを見ていた。総悟くんは土方さんに追いやられるように出て行き、土方さんのこの場を後にした。二人が出て行ってしまってからも、私はただただ近藤さんの背中を見ていた。昨日隊服のまま寝てしまったから近藤さんの上着もズボンも皺くちゃになってしまっている。せめて上着は脱いで寝れば良かったのに…と思いつつ、そういえば近藤さんは寝る気がなかったことを思い出した。私を寝かせてるうちにいつの間にか一緒に寝てしまったに違いない。上着を着たまま寝たから、肩も凝ってるんだろうなァ。まずは近藤さんの隊服をクリーニングに出して、今日はお天気が良いからたまってるお洗濯全部してお布団も干して、床も磨こうかな。昨晩甘えてしまった分、私に出来るお仕事はいつも以上にやらなければ。


 だけどまずは近藤さんが書類出来るの見守って、その後一緒に朝ご飯を食べに行ってもいいよね。

「ほら近藤さん、あと三十分で山崎くん来ちゃうよ」






20081103
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