敵の敵は味方か敵か? 中篇





 そうして、総悟協力のもと『打倒恋敵!副長の座を降ろせ!大作戦』が幕を開けたのだった。




「けど、具体的にどうすればいいんだろう…私暗殺まではする気ないんだけど」
「なんでィ、それが一番てっとり早いっつーのに」
「どこが!?嫌だよ殺る前に殺られるでしょ確実に!」
「ヤる前にヤられる?」
「じ、字が違うゥ!」
がヤられるよりヤりたい派だったとは、それはそれは」
「だから字がちがーう!!」

 こんなんで大丈夫なんだろうか。私、仲間にする相手間違えた?でも『打倒恋敵!副長の座を降ろせ!大作戦』に賛同して協力してくれる人物なんて総悟くらいしか思いつかない。さっそく先行きの不安を感じなくもないけれど、どうにか作戦を成功させるべく、まずは総悟が今まで土方さ、じゃなかった土方コノヤローにしてきたことを思い出してみた。きっとこれからの私の作戦の参考になるはず。ええと、総悟がよく土方さんにしてたことと言えば、そうだなまずは定番の爆破でしょ、他には斬りかかる、爆破、サボって仕事を押し付けるとか、爆破、悪態をつく、爆破、爆破、爆破………あれ、やっぱ仲間にする相手間違えたかも。

「眉間に皺よせて、土方さんみてーですぜ」
「…総悟の今までの素行を思い出してたの」
「ますます土方さんみたいなこと言って、土方さんが敵っつーよりも土方さんの仲間なんじゃねーですかィ」
「ちっがう、打倒土方コノヤロー!」
「今なんつったゴラァ!」
「ひっ」

 開けっ放しだった障子から飛んだ怒声。驚いて振り返れば鬼の形相の土方さんがそこにいた。やばい逃げよう、そう思ったのも束の間。ぐいっと総悟の手によって頭を下に押さえつけられ、畳におでこをぶつけた瞬間、ドォン!と爆音が響いた。
 う、うそ、まさか!

「テメ総悟ォォォオオ!所内でバズーカぶっ放すなって言ってんだろーがァァァア!」
「土方さんが死ねばぶっ放すこともなくなりまさァ」
「ふっざけんな!誰が死ぬか!」

 うそだ、信じたくない、まさか私の部屋からバズーカぶっ放したって、私の部屋どうなってんの?半壊しているであろう自分の部屋を見るのが恐くて顔を上げられずにいると、持ち上げられた猫のように襟首を掴まれ無理やり立たせられた。というか、どこにバズーカがあったわけ?立ち上がった視界の隅には、土方さんが顔を出していた障子近辺がもくもくと上がる煙で見えなくなっている。その中から土方さんの声だけが聞こえるということは、いつもの通りうまく避けたんだろう。そんなことよりも私の部屋はどうなっちゃったの?涙目になりながら総悟に訴えかけようとしても、襟首を掴まれたまま引っ張られている私は顔を上げられなかった。

「ちんたらしてないで今のうちに逃げやすぜ。ここじゃゆっくり作戦会議も出来やしねェ」

 ずるずると引っ張られるように歩く体勢はつらかったけれど、うなだれて首を下げている私には調度良いようにも思えた。…いや、ぜんぜん調度良くない。

「総悟のばかァ!」
「バカァ?誰に向かって言ってんでさァ」
「総悟だよ!私の部屋、どうしてくれんの!」
「障子の隙間にぶっ放したから、壊れてんのはの向かいの部屋だけでさァ。安心しなせェ」
「壊れてたら総悟が修理費だしてよ!」
「壊れてなかったらバカっつった償い覚悟しとけよ」
「……こ、壊れてなかったら…いいんだけど」

 強気で総悟をまくしたてていたのだけれど、顔を下げたままでも総悟の口元が嫌に歪んだのが想像出来てしまって、仲間のはずなのに敵っていうか悪魔にすら感じる気配に私の肌は栗立った。そんな悪魔の顔を見たくなくて、余計に頭を上げられなくなってしまった。欠伸をしながらずるずる私を引きずるように襟首を掴んだまま、総悟はだらだらと歩き続けている。どこに向かうのかと思えば、日当たりの良い縁側でぴたりと総悟の足が止まった。がっしりと掴まれていた襟首はいとも簡単に離され、私が顔を上げる前に、顔を下げたままの私の視界に寝転がった総悟が映った。下げたままの首がいい加減痛むのだけれど、目の前に総悟が寝転がっているとあれば、まだ顔を上げることが出来ない。

「あれ、総悟くん…作戦会議は?」
「ここが一番日当たりが調度良いんでさァ」
「昼寝にはね。でも…作戦会議は?」
「ここならうるせェ土方もいねーし、ゆっくり出来る」
「昼寝ならね。…でも作戦会議だとバレバレの場所だよね!?」

 こんなオープンスペースで、見つからないわけがない。本当に、何を考えているのだろうか。溜息をつきたい気持ちを抑えて、とうとう首の痛みに耐えられなくなった私は顔を上げて首をさすった。

「でも昼寝にだってバレバレの場所でしょ、いつものことだけど」
「土方さんなら見廻りに行ったからしばらくは帰って来ねぇから安心しなせェ」
「え、そうなの」
「そう」
「なんだ、ならいいんだけど」
「さっきだってがアホなこと言わなきゃ土方さんにバレずにいれたのに、あやうく俺まで見廻りに連れてかれちまうとこだったじゃねーか」
「…先にアホなこと言ったのはどっちよ」

 そもそも、総悟がもっとまともな“副長の座を降ろせ”作戦を日頃からしていればいいものを、ただの反抗期まがいのことしかしてないのが悪い。まったくもって参考になんかならなかった。ふざけたアイマスクまでしっかりと装着して、完全に寝る体勢になった総悟を見下ろして私は溜息をつく。

「もう、総悟ぜんっぜん協力してくれるつもりないでしょ」
「あるある」
「ないよ!ていうか本当に土方さんから副長の座を奪う気あるの?」
「あるある」
「ない!いっつも爆破か反抗期みたいなことしてるだけで、本気を感じられないもん」
「あるある」
「……なにが」
「あるある」
「私の話聞いてないでしょ!」
「あるある」
「………総悟は本当は土方さんに気が」

 あるある、と言わせようと思ったのに、聞こえたのは「あるある」ではなく、チャキ、という刀を鞘から抜きかけた音。私の話を聞かないであるある連呼してたと思ったのに、しっかり聞いた上でのあるあるだったなんて!私は慌てて後ろに飛びのいて総悟を睨んだ。こんな脅し方は卑怯すぎる!

「総悟が協力してくれないなら自分で考えます!」
「協力するって言ってるじゃねーですかィ」
「まったくそんな気が感じられない」
「これだからせっかちは困りまさァ」

 せっかち。私はせっかちなのだろうか?確かに、打倒土方を掲げている総悟でさえ、未だに土方さんを副長の座から降ろすどころか少しも傾けることすら出来ていない。総悟の行動がただの爆破と反抗期だとしても、だ。それなのに今朝方思いついた私が、そんなに簡単に土方さんを副長の座から降ろすことなんて出来ないのかもしれない。だとしたら、その作戦を考えることすら容易なことではないんだ。なのに私ったら、総悟が協力してくれるって言った途端に作戦会議だなんて…
 …いやいや、せっかちじゃないよね?私別に今すぐ副長の座から降ろす方法教えろとか言えとか言ってるわけじゃなくて、総悟の「協力する」と言ったくせに寝転んで問いかけも適当にあしらう姿勢について文句を言っているんであって、決してせっかちなわけじゃないよね?

「今考えてっから」
「そうですか」
「あり、信じてねー声」
「シンジテルシンジテル」
「すげえの考えてやっから期待してなせェ」
「じゃあ夕食の準備しながら期待してるね」

 考える素振りなんて微塵も感じられない、むしろこれから寝る気しか感じられない総悟に溜息をつきたいのを堪えて、私は総悟に背を向けた。溜息ばかりついて幸せを逃してられないのだ。少しでも作戦がうまくいくように運気をためておかなきゃ。
 総悟の協力は結局あてにならないから、地道に考えて行くことにしよう。一人より二人、と思って総悟に協力を頼んだけど、やっぱり総悟はこうだよね…。それにしても一番隊隊長の総悟ですら未だに成功し得ないことだから、女中の私では何年かかることやら。いやいや違う、力で降ろそうとしても無理なんだ、私は力じゃなくて頭で土方さんを副長の座から降ろそう。あーでも土方さんってうちの参謀だからな。頭でも無理かな私。
 そうして色々と考えながら台所まで歩く途中に通った自室の障子がボロボロだったことは、見なかったことにした。…後で退ちゃんの部屋の障子をもらってくればいいよね。

 結局総悟は夕食の時も特に何も言ってこず、ただ食べてその後「いい加減今日中にひとつぐらい仕事しろ」と土方さんに引きずられるようにして見廻りに出て行ってしまった。私はというと、夕食の準備中も色々と考えてはみたものの、何も良い案は浮かんではこなかった。一番てっとり早いのは全ての権限を握る近藤さんに言う、ということだろうけれど、まさか近藤さんに「土方さんを副長やめさせて」なんて言えるわけがない。そんなこと言って、何言ってるんだこいつ、なんて近藤さんに思われるのは絶対に嫌。やっぱり、そう簡単に浮かぶものじゃないんだなあ。食後のお茶を隊士に配りながら道のりの険しさを私は改めて感じていた。

「ごちそーさま。今日も美味しかったよ」
「あ、退ちゃん」
「ん?」
「退ちゃんの部屋の障子ちょうだい」
「は?障子?」
「くれないと明日からご飯なしだから」
「え、なんで!?障子!?」

 わけが分からないと騒ぐ退ちゃんを引きずって、私は部屋へと戻って現状を見せた。優しい退ちゃんなら、障子くれるよね?本当なら総悟の障子を奪ってやりたいけど。そうしたら後が恐いのだ。

 寝る支度を整えて、部屋の電気を消して布団に入る。無事はめられた退ちゃんの部屋の障子を見つめてから私は目を閉じた。結局総悟は見廻りに行ったきり帰ってこないし、私は良い案も思いつかないし。地道に行こう、とは思ったものの初日から何も進展しなさすぎては気分が落ちてしまう。むしろ進むどころか土方さんに宣戦布告まがいの態度をとってしまって、私の気持ち的には後退もいいところだ。でも夕食時の土方さん割と普通だったし、私がああいう態度とっても総悟で慣れてるのか特に何も思わなかったのかな。なんかちょっぴり苦い顔されたけど。まあいいや、今日も美味しい美味しいって言いながら、近藤さんが私のご飯食べてくれたし。それだけで、今日はもう十分。近藤さんの笑顔が見られたら私は幸せなのです。おやすみなさい。






「ッッ!?」

 顔に突然の衝撃を感じて眠りから意識を取り戻した私は、突然のことに驚きすぎて軽くパニックに陥った。何事、敵襲!?慌てて体を起こそうとするにも関わらず、体が重くて起き上がれない。なにこれ、どういうこと!?どういうこと!?
 しかし目を開けて、しっかりと目の前の状況を見据えて一転。なんとも言えない状況に再び目を閉じた。なにこれ、どういうこと?どういうこと?

「人が一生懸命作戦考えてやってる間に、なに気持ち良さそうに寝てやんでィ」

 私の体が起き上がれなかったのは、腹部に総悟がまたがっていたから。突然顔に感じた衝撃は、おそらく総悟が私のおでこにチョップをかましたからなんだろう。チョップした構えのまま、総悟が私を見下ろしていたのだ。あー…なにこれ、どういうこと?どういうこと?冷めていく思考とは反対に、心臓はドキドキとうるさいまま。再び目を閉じた私が、再び眠りに入ったと思ったのか総悟のチョップが私の眉間にビシビシと突き刺さった。

「おぉーい起きろー」
「起きてる、起きました起こされました」

 目を開けて総悟の手を止めると、総悟は不服そうな顔で私を見下ろした。寝てる私に嫌がらせしたかっただけでしょ、チョップしたかっただけでしょ。一生懸命作戦考えてやっただなんて、どの口が言うんだろうと思いながら私は総悟を睨んだ。そもそも、作戦会議しようと言ったのに先に寝だしたのは貴方でしょう。

「素晴らしい作戦内容を知りたかったら俺に夜食」
「今戻ったの?」
のために作戦考えてたせいでさァ」
「ありがとう、とりあえず避けてくれないと起きれない」

 不服そうに総悟が避けた後、私は起き上がって枕元にある時計を見た。時刻は深夜三時。深夜まで勤務本当にお疲れ様と思うけれど…夜が明けるのも近い時刻に正直体は重かった。立ち上がって部屋を出れば、私の背中にチョップし続ける総悟に押されるようにして私は台所へ向かった。

「どんなもの食べたいの?」
「伸び気味のカップラーメン」
「……」

 それ、自分でお湯沸かして食べられるよね。私起こす必要ないよね?そう心の中で大声で叫んでも、決して口には出さずに私は静かにやかんを火にかけた。これで作戦考えててくれなかったら許さないんだから…!三分待つカップラーメンを五分待って、ずるずると目の前で麺をすする総悟を見ながら私は大きな欠伸をした。

「土方さんはもう寝たみてぇでさァ」
「そう…私も寝たいよ」
「いいや、朝まで起きててもらわねーと」
「…え?私の使命はカップ麺作るのだけだよね?」
の使命は土方暗殺でしょーに」
「暗殺じゃなくて副長の座奪還だから」
「ああ、そうでしたねィ。ヤられるよりヤりたい派だったの忘れてやした」
「忘れといていいから!違うって言ってんでしょ!」
「まあ落ち着きなせェ。その使命のために朝まで起きてるんでさァ」
「朝まで作戦会議ってこと?」
「会議なんて必要なし。作戦はもう俺が完璧に考えたんでねィ」
「…どんなの?」
「題して“ヤられる前にヤる大作戦”!」
「だから字が違う!」

 それに殺りたくないって言ってるでしょ!いくらなんでも殺したいほど憎いわけじゃないの!考えたとか言うわりに結局これか…と肩を落とす私を無視して、総悟は作戦内容を話し始めた。こんなんじゃもう寝てもいいよね、と思いながら半分眠る頭で総悟の話を聞いていた私は、全部を話し終えて自信満々に笑う総悟を見て眉間に皺を寄せた。少し眠気も飛ぶ程度の成功確立は感じられるような内容だったのだ。

「でもそれ、うまくいく?私なんかがやって?」
だから成功率が上がるんでさァ」
「えー…そうかな」
「もしダメだとしても、なんかやってみねーと土方さんにとってのに対する弱みが見つからねぇと思いやすがねィ」
「……」
「何かしらやってみることでポイントが掴めると思うんでさァ。泣き落としがいーとか力ずくがいーとか色仕掛けがいーとか色仕掛けがいーとか色仕掛けがいーとか」
「最後三回言ってるけど」
「大事なことなんでねィ」

 結局最後はアホみたいなことを言ってるけれど、最初のアホみたいな作戦タイトルからは想像出来ないような、やってみる価値はありそうな内容だった。それになんだかいつもより総悟の話し方が真面目な気がする。考えてることも。確かに、何かしら土方さんの弱点を見つけないと攻めてはいけないだろう。そういう意味で、とりあえず総悟の言う作戦を実行してみる価値はある、と私は思った。

「じゃあそれ、やってみようかな」
「頑張ってくだせェ、俺の願いも込められてるんで。じゃ」
「えっ、ちょっとちょっと」

 決意した私を前に簡単に立ち上がって背を向ける総悟を私は慌てて引きとめた。え、あれ?私今やってみようかなって言ったよね?なのに放置?協力は?

「なんでィ」
「一緒に朝まで起きててくれるんじゃないの?」
「俺は任務帰りで眠てーんでさァ。もうクッタクタ」
「昼間さんざん寝てたじゃん!」
「それはそれ、これはこれ」
「えぇ、協力してくれるって言ったのに!」
「だから作戦を考えてやったでしょーに」
「そうだけど…ちゃんと最後までつきあってよう」
「んじゃ作戦開始する前に起こしてくれていーから。オヤスミ」
「えぇー…」

 それ以上はもう何も聞いてくれる気はないのか、総悟はすたすたと食堂を後にしてしまった。私の抗議の声だけが虚しく食堂に響く。作戦考えてくれて嬉しいけど、成功率も割りと高そうだけど、結局総悟はこうか…。

 作戦開始まで、後二時間。






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