大人だから大人げなくなるんです





〜ワタシお腹空いたアル」
「えっ、もうそんな時間?」

 お腹と背中がくっついちゃうアルよ〜と自作のメロディーを奏でながら神楽ちゃんが私の腰にへばりついた。今日は久しぶりにお天気が良いから、とあれもこれも洗濯物を張り切っていたら、すっかりお昼の時間になっても気が付かなかったみたいだ。時計を見たら十三時になりそうなくらいの時間。そういえば私もお腹空いたかも。

「ごめんごめん、これ干したらすぐ作るね」
「ふわっふわのオムライスが食べたいヨ」
「オムライス?卵そんなにあったかなぁ」
「オ・ム・ラ・イ・ス・オ・ム・ラ・イ・ス・オ・ム・ラ・イ・ス!」
「はいはいちょっと待ってね〜」

 よいしょ、と最後の洗濯物を竿にかけて腰にひっついて離れない神楽ちゃんを引きずるように居間へと足を運ぶ。ソファにはだらりと足を投げ出してジャンプを読む銀ちゃんの姿が。私は朝っぱらから掃除洗濯と忙しくしてるっていうのに、ここの家主は働きもしないで何をしてるんですかね!

「銀ちゃんお仕事ないの?」
「んーあるある」
「なんもしてないじゃん」
「今してるでしょーが」
「ジャンプ読んでるだけにしか見えないんですけど」
「だからァこれが仕事なんだって。ジャンプの面白さをチェックしているわけよ」
「………」
、こんな空っぽ天パほっといて早くオムライスゥ〜」
「そうだった、オムライスね」
「オイイイイイ!!空っぽって何だ、頭の中か?天パの中か!?」
「どっちもアル」

 ぎゃあぎゃあと騒ぎ出した二人を置いて台所に行き冷蔵庫を開ける。卵は…と確認すると四つ。神楽ちゃんはふわふわのオムライスが食べたいと言ってたけど…この分じゃ全員分ふわふわには出来そうもない。そういえば今日は新ちゃんはまだ来ていないけど、彼の分のお昼は作らなくても良いのだろうか。でも食べてなかったら可哀想だし…とりあえず作っておこう。1人分多くても神楽ちゃんなら食べちゃうだろうし。そうしていつも通りの四人分のオムライスを作り、後は卵をという所で玄関の戸がガラガラと開いた音がした。

「こんにちはー」
「遅かったアルね新八」
「久しぶりにお天気良いから洗濯物張り切っちゃって」
「オイオイお前は主婦ですかー」
「ジャンプ読んでるぐうたら亭主よりマシですよ!それより、お昼ってもう食べちゃいました?」
「今出来たよ〜」
「あ、さん!僕の分もあります?」
「もちろん。さー食べましょ」

 やっぱり新ちゃんの分も作っておいて良かった。それにしても新ちゃんまでお洗濯張り切っちゃってたとは、もしや世の主婦皆が今日はお洗濯を張り切っていたのでは。私も新ちゃんも主婦ではないけれど。そんなことを考えながらテーブルに出来たてのオムライスを並べて行く。神楽ちゃんは「ふわっふわアル〜」と嬉しそうに笑っている。その笑顔に満足しながら私も席に腰を降ろした。

!ふわっふわアル!」
「うん、神楽ちゃんのためにふわっふわのオムライス頑張ったよ」
「ありがとネ!」
「どういたしまして。じゃあ食べ」
「待て待て待て待て待てェい!」
「……なに?」
「なに?じゃないでしょォ!?なんで神楽だけふわっふわのオムライスで俺らはペラッペラのオムライスなの!!」
「…それもオムライスには変わりないんだけど。ダメオムライスみたいに言わないでよね」
「そーアル。が作ってくれたんだからありがたく食えヨ」
「俺のと交換しなさい!」
「嫌アル!ふわっふわはワタシのネ!」
「銀さんもふわっふわが食べたいんですー!」
「ちょっと銀さん、大人げないですよ」
「ほんとだよもう。卵なかったんだからしょがないでしょ、我慢してよ」

 なんて止めにはいっても言うことを聞くわけがなくて、ふわっふわのオムライスとペラッペラのオムライスの奪い合いが目の前で始まった。いつものこととは言え、本当に大人げがなさすぎる。

「銀ちゃんいい加減にしてよ!」
「ンだよお前、いっつもいっつも神楽ばっかり甘やかしやがって!」
「甘やかすとかじゃなくて、銀ちゃんが我慢するところでしょ、ふつう」
「ふつうって何ですかー詳しく説明してくださーい」
「あのねえ、いい歳してそんな」
「結局お前神楽の方が可愛いだけじゃねーの」
「はあ?」
「銀さんより神楽のが可愛いから神楽ばっかり甘やかすんだろ」
「なにバカなこと」
「じゃあ銀さんと神楽のどっちがお前は可愛いんだよ!」

 ど、どっちが可愛いって…。珍しく真剣な瞳を私に向けると思えば、まさかそんなバカみたいなことを言ってくるとは。冗談で聞いてくるのならまだしも、こんな真剣な瞳で聞いてくるものだから呆れて物も言えない。いい歳した男が十代の少女に可愛さで勝てるとでも思ってるのだろうか。まあ…銀ちゃんはきっとそういうことを言いたいんじゃないんだよね、俺にも愛情はないんですかと、そう言いたいんだよね。でもまさかここで、私が「銀ちゃんの方が可愛いよ」とでも言えと?やめてよこんな子どもがいる前で、バカっぷるみたいなこと言えるわけないでしょ。
 そう考えている私に痺れをきらしたのか銀ちゃんが不機嫌そうに再び私に声をかけた。けれどそれを遮るように戦いの終止符を打つ神楽ちゃんの声が響いた。

「オイどっちが」
「ごちそーさまヨ!」
「「えっ」」
おかわりないアルかー?まだ食べたいアル」
「卵はないけどチキンライスならまだ残って」
「おかわりしてくるアル!」

 スキップで台所に向かう神楽ちゃんとは反対に青い顔をする銀ちゃん。怒りなのか落ち込んでいるのか…両方そうだけど。どうやら私達が言い合っている間に神楽ちゃんはペロリとたいらげてしまったらしい。銀ちゃんにアホなこと言わないですんだし、無事にふわっふわのオムライスは神楽ちゃんの胃袋におさまったし、私としては一件落着なんだけど、銀ちゃんにとってはどうやらそうではないらしい。たかがオムライスなのになあ。

「銀ちゃん、お夕飯に銀ちゃんの好きなもの作ってあげるし、ふわっふわの卵食べたいならオムレツも出してあげるから」
「うっせー」
「そうですよ銀さん、さんもそう言ってますし、せっかく美味しいオムライス作ってもらったのに失礼ですよ」

 何が失礼なのかと言えば。銀ちゃんは完璧拗ねてしまったらしく私にそっぽを向いて不機嫌な顔のままモソモソとオムライスを頬張っているのだ。私は新ちゃんと目を合わせて溜息をつく。まったく、どっちが子どもなんだろう。

「ほらお夕飯大盛りにしてあげるし、後でアイスも買ってきてあげるから」

 なんだか、私が発する言葉はどれも子どもへ向けてるんじゃないかと思うものばかりだ。何を言っても聞かない銀ちゃんに呆れて私も新ちゃんもオムライスを食べ始めた。すると口の周りを赤くしてご飯粒までつけた神楽ちゃんが台所から戻ってきた。

〜もうないアルか?」
「え、足りない?」
「もうちょっと食べたいヨ」
「神楽ちゃんの食欲にはほんと困ったな」

 私は神楽ちゃんを隣に座らせてご飯粒をとってから赤くなった口元を拭いた。スープとかサラダをつけてあげたらまた違ったんだろうけど、冷蔵庫の中空っぽだったからなあ。昨日のお昼に買出しして冷蔵庫に色々入れてあげてから帰ったはずなのに、夜と今朝見ないうちに空っぽになってるだなんて、ここの家の冷蔵庫はどうなってるんですかね。…冷蔵庫ってか神楽ちゃんの胃袋か。私は半分ほど食べたオムライスを神楽ちゃんに渡した。

「じゃあこれ食べてお夕飯までは我慢してね」
「いいアルか!?」
「ダメに決まってんだろ!」
「「「…は?」」」

 私が良いと言っているのに止めに入ったのは何故か銀ちゃんで、止めに入った銀ちゃんを三人で振り返れば何故か彼の口の周りが不自然に赤く染まりご飯粒がついていた。

「ちょっと銀さん、口元ひどいですよ」
「どんな食べ方したらそーなるアルか」
「オメーに言われたかねンだよ!」
「銀ちゃん…」

 まさかそれ、さっきの続きじゃないよね?“俺と神楽のどっちが可愛い”に答えなかった私に、さっき神楽ちゃんにしてあげたようにご飯粒をとって口元を拭いて欲しいとかいうことじゃないよね?ねえ、違うと言って…。普段汚い食べ方をしない銀ちゃんにまさかとは思うけれど、まさかと思わずがなそのまさか以外あり得ないのだろう。けれど私はただハンカチを銀ちゃんへと差し出した。

「口元拭いてね」
「………」
「ケチャップついてるから」
「やっぱお前神楽のが可愛いんだろ!」
「だから、なんでそーなるの!」

 もう、今日の銀ちゃん変!なんでそんな神楽ちゃんにヤキモチ妬くかなあ!そんな、子どものように扱われて、それで嬉しいわけ?全然意味が分からない。

「銀ちゃん今日変だよ」
「べっつにィ、いつも通りですゥ」
「神楽ちゃん、定春の散歩行って来ようか」

 食べかけのオムライスを急いで口にかきこんで、ゴクリと飲み込んだ新ちゃんが神楽ちゃんの腕を引いた。銀ちゃんよりも、新ちゃんの方が断然大人みたい。まだ食べてない、とごねる神楽ちゃんをなだめながら「ご馳走様でした、美味しかったです」と笑う新ちゃんに私は苦笑いを返す。気を使わせちゃってごめんね、と思いながら。バタバタと足音が遠ざかり玄関の音が閉まる音が最後に、万事屋の中はシンと静まり返った。そういえばワイドショーもつけてなかったっけ。銀ちゃん結野アナ好きなのに、珍しい。私は神楽ちゃんが食べていかなかった自分のオムライスを一口口に含んで、テレビのリモコンを掴んだ。テレビの電源をつけると、画面には結野アナが映されて、よく分からない銀ちゃんの機嫌もこれでなおるかと思いきやすぐさま銀ちゃんにリモコンを奪われて、一瞬にして結野アナの姿は消えてしまった。再び真っ黒な画面がテレビに映し出された。
 いい加減、何なんだろうと驚いて銀ちゃんを見やれば拗ねたような、責めているような、そんな目で私を見ていた。相変わらず口元は赤くてご飯粒をつけたまま。なんで、どうしてそんな目をしてるの銀ちゃん。私は先ほど神楽ちゃんの口を拭いてあげたハンカチを再び手にして、銀ちゃんの口元を拭いた。

「私、銀ちゃんにも相当甘いと思うけど」
「……」
「神楽ちゃんだけが可愛いからふわふわにしたわけじゃないよ」

 そんなこと、言わないでも分かってるだろうけど。綺麗になった銀ちゃんの口元を見て、私はハンカチを置いてスプーンを握った。もう一口オムライスを自分の口に放り込んで、もぐもぐと口を動かしながら銀ちゃんを見る。黙ってしまった銀ちゃんが次に発する言葉はなんだろう。
 拗ねるような、責めるような。そんな目をしながら私を見ていた銀ちゃんは、フと視線をそらしてオムライスを再び食べ始めた。

「…俺も話かけたのに」
「え?話かける?」
「オメー忙しいからって聞かなかっただろ」
「え……うん?」
「なのに神楽の話は全部聞きやがってよ!」

 沈黙して拗ねていたと思ったら、今度は怒るんですか。
 突然話しはじめた銀ちゃんの言ったことを私は思い返していた。確かに銀ちゃんの言う通り、朝来てすぐに掃除と洗濯を始めて、話しかけてくる銀ちゃんを「あとで」とあしらって、でも話しかけてくる神楽ちゃんの言葉には全部返事をしていたかも。え、なにまさかそれに拗ねてたの?だって銀ちゃんソファに寝転がって、私が通るたびに話しかけてくるから動いて掃除してる私は立ち止まってられなくて、神楽ちゃんは私にちょこまかついて回って話しかけてくるから返事をしていただけであって…

「そんなことで拗ねてたの?」
「そんなことってなァ!銀さんはガラスハートなんですゥ!」
「赤ちゃんじゃないんだからさあ」
「男はいつまでも赤ちゃんでいたいの、母の愛を感じていたい生き物なの!」
「私銀ちゃんの母じゃないし、母になりたくないし」

 彼女でいたいんですケド、そう言って銀ちゃんを呆れたように見れば、銀ちゃんは唇を尖らせながら一言言って、私に抱きついてきた。

「じゃあ尚更、俺が独り占めしていいはずだろ」

 神楽や新八のかーちゃんじゃなくて、俺の彼女なんだからな。そう言って腕の力を強める銀ちゃんに私は呆れながらも、胸をきゅーんとさせられて、今の銀ちゃんは神楽ちゃんに可愛さで勝ったかも、なんて思ってしまった。






20091231
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