君の瞳に鯉してる





 バタバタと外の階段を上がる足音が部屋に響いたと思ったら勢い良く万屋屋のドアが開かれた。散歩しに行ってた神楽と定春が帰って来たのかと思えば、息を切らして部屋までやってきたのは夕飯の買出しに出てただった。

「どうしたんですか?そんなに息切らして」
「こ、っここっここ、こっ」
「オイオイ落ち着きなさいチャン」

 ソファに寝転がってジャンプを読んでいたのを止め体を起こすと、部屋の入り口にはニワトリの真似のごとく声を出すが立っていた。頬は赤く蒸気し、瞳はなにやら潤んでいる。何事かと、とりあえず落ち着かせようとソファから腰を上げ近づこうとした瞬間はペタリとしゃがみ込んだ。そして一言。

「恋、したかも」
「………ハ?鯉?」
「いや恋ですよ銀さん!恋!」
「こい?ハ?恋?誰が?が?恋?恋ィィィィィイイイイイイイイイイ!?」
「ちょっ、落ち着いてください銀さん、声デカイ!!」
「落ち着いていられますかコノヤロー!どこのどいつだにそんなふしだらな…!」

 というか、どこのどいつだ俺との邪魔をする奴はァァァァァァアアアアア!!銀さんがどれだけを好きでどれだけを振り向かせるのに時間をかけていると思ってんのォォォオオオオ!いや、決して脈なしとか手こずってるとかじゃないよ?慎重に、こう時間をかけて大切に、…なのにどこのどいつだァァァァアアアア!!

それは恋じゃないよ!恋じゃない!!」
「えぇっ、でもなんかドキド」
「風邪!昨日あれだけ俺にもわけてって言ったのに一人でアイス食べちゃうから!風邪です!」
「でも1個しか食べてないし」
「それでもには多すぎたの!今度からは俺にもちゃんとアーンって食べさせること!」
「………はァい」
「いやなんかそれおかしいだろ!!ていうかさん、恋したってどういうことなんです?」

 黙 れ よ 新 八 コ ノ ヤ ロ ー ! ! 今俺が風邪だって言ってんだから「恋」とか言うんじゃねぇよ!恋じゃなくて風邪なんだよこの症状はッ!でもそのふざけたヤローを俺は始末しなきゃなんねーからとりあえず話だけは聞いておくか。誰だ俺のにちょっかいかけやがった奴は!!思い出したのかまた頬を染めるの顔を見てその相手にイラッとしながらも俺は大人しくの話を聞いた。でもそれは恋じゃないですからね!断じて!!

「えっと…お買い物終わって歩いてたら変な人に絡まれちゃって、土方さんが助けてくれたの」
「ほうほう土方さ…多串くんんんんん!?」
「え、じゃあさんが恋に落ちたのって、土方さん!?」
「う、うん」
「新八ィィイイイ!変な聞き方すんじゃねェ!恋じゃないって言ってんでしょォォォオオ!?」
「すっ、すいません!」
「お礼を言ったら別に構いやしねぇよ、って言って…なんかクールっていうか、ワイルドっていうか」
「クール!?ワイルド!?あんなの無口なムッツリスケベなだけ!!惑わされないでチャァアアン!」
「その後見廻りのついでだからって万屋屋まで送ってくれたの」
「送った!?ちょ、もう一人で外出禁止!!」
「えっ!?ど、どうして」
「危ないからですゥ!外には狼がウヨウヨしてるってこと分かったでしょ!」
「でも、たまたまだよ。それに土方さんが助けてく」
「絶対禁止!そいつも狼だからね!?ていうかそいつが一番危ない狼!!」
「土方さんは助けてくれたんだよ!」
「違う違うゥ!は赤頭巾ちゃんの話を知らないんですか!」
「知ってるけど、なんでそこで赤頭巾ちゃんが」
「とにかく!風邪引いてるんだから寝なさい!銀さんが看病してあげますから!」
「でも…なんか銀ちゃん変だよォ!」

 変なのはです!!あんなムッツリスケベに恋だなんて、恋だなんて…!断じて銀さんは信じない認めない許さないィィィィィィイイイ!肩を掴みながら説得していた俺からするりと抜けて、は「アイス溶けちゃう!」と慌てて買い物袋を持って台所へと行ってしまった。とりあえずは気をそらせたようだけれど、もし本当に多串くんへの想いが恋だったらどうしよう…勘違いであって欲しい、いや勘違いにする他ない!を他の奴にやるなんざまっぴらご免だ!とにかく今後一切多串くんとは会わせないようにして、沖田くんと協力して大串くん抹殺。そして早いとこ俺の彼女になってもらわないと…!なんて今後の作戦を練っている俺の肩にポンと手が乗った。顔を上げれば新八の呆れたような哀れむような顔。オイオイなんですかその目は!

「銀さんがダラダラしてるからですよ」
「いつ俺がダラダラしてるってんだよ」
「いつもですよ。それに比べてちゃんと仕事してる土方さんがさんの目に格好良く見えるのも当然です」
「俺からダラダラ溢れてるのはへの愛だけだっつーの!」

 いやしかし困った。への気持ちは毎日溢れんばかりにアピールしているつもりだが、いかんせんはニブいのかいまいち反応が返ってこない。うかつに失敗なんかしてみろ、今の関係が崩れるのも怖い俺は一歩を踏み出せずにいる、がいい加減潮時か。いやいやでも…

「今すぐ告れってわけじゃなくて、たまにはビシッときめてみたらどうですかってことですよ」
「ビシッと、ねぇ……って!なんでお前にンなこと言われなきゃなんねーんだよ!!」
「新ちゃーん!ちょっと来てー!」
「あ、はーい!」

 に呼ばれ台所に向かった新八を見て、やれやれと溜息をついた。ビシッと…ねぇ。新八にまで言われるんじゃダメだな俺も。にしてもビシッとって、どーしましょうかねー。



「お好み焼きの粉ってまだあったと思ったんだけど、見つからないのー」
「あ、それならここですよ。はい、どうぞ」
「あ、そこにあったんだ。せっかく材料買ってきたのに粉なかったらどうしようかと思っちゃった」
さん」
「ん?」
「本当に土方さんに恋したんですか?」
「…うーん、本当言うとね。なんか助けてくれた時の目がちょっとだけ銀ちゃんに似てて」
「え、銀さんに?」
「うん。それでちょっとドキドキしちゃったってのが正解かも。銀ちゃんいっつもダラダラしてるからさァ」
「それって…さんが恋したのって銀さ」
ォォォオオオ!!!ちょっといらっしゃい!!!」
「また何騒いでるんだろー、あたし風邪じゃないのに」




 パタパタと台所からやってくるをソファへとうながし、肩をがっちりと掴んで俺はの瞳を見つめた。

「ど、どしたの銀ちゃん。あたしほんと風邪じゃな」
「銀さんは!!」
「へ?な、なに」
「銀さんは専属の真選組です!!」
「………あたし専属?」
「そう!あいつらは江戸の平和を守ってるかもしれないけど、銀さんはの平和を守」
「えぇー!?そんなのやだっ!」
「や、やだっ!?」
「あたし何も悪いことしてないのに、常に銀ちゃんが見張ってるってことでしょ?」
「え?見張る?いや、だからそうじゃなくて平和を守」
「取り締まられるようなことしてないのにィー!!」
「ちが、俺はお前の平和を…!」
「新ちゃーん!あたし悪いことなんてしてないって銀ちゃんに言ってよォー!!」
「…新ちゃーん!銀さんの想いをちゃんに言ってよォー!!」

「……ハァ。もうこのままでいいんじゃないですか」

 っざけんな!このままで良いワケがないでしょォ!そりゃ今の生活はとっても楽しいけれど、今後いつが恋しただなんだって言い始めたら銀さん心臓もちませんよ!あーもう、どうしたらは………とりあえず多串くんは明日始末しに行くとして、

「今日は銀さんがご飯を作ってあげます!世界一のお好み焼き待ってろ!」
「えっ…行っちゃった。銀ちゃんどしたの?あたし風邪でもないし、悪いこともしてないのに」
「…さ」
「でも銀ちゃんのご飯美味しいから大好き。楽しみだねー新ちゃん」

(そう言って笑うさんの笑顔はいつもの笑顔とは違って、銀さんも早くそれに気づけばいいのにと僕は思った。)






20080725
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