おひさまがみつけたふたり







 日のあたる縁側で、ひとりの女の子が気持ち良さそうに目を細めて寝転がっていました。そのまま昼寝を始めるのかと思いきや、彼女はごろり、ごろりと転がり始めました。ごろり、ごろり、ごろりと転がったかと思えばぴたりと止まり、再び反対向きにごろり、ごろり、ごろりと行ったり来たりしながら転がっていました。
 そこに通りがかったのが、真選組局長の近藤勲、彼女の恋人でした。ごろり、ごろりと転がる彼女に近藤は軽く首をかしげながら近寄って行きます。

「なにをしてるんだ?」
「あ、近藤さん。近藤さんも一緒にする?」
「ストレッチか何かか?」
「ううん、ただごろごろしてるだけ。なんか分かんないけど楽しいよ」

 転がるのを止め、寝転がったまま見上げてくる彼女の隣に近藤も寝転がってみました。なにがどう“楽しい”のか分かりませんでしたが、実際に自分もやってみれば分かる、と思ったのでした。そして彼女と一緒に二人でごろり、ごろりと転がり始めました。

「ごろごろ〜ごろごろ〜」
「ごろごろ〜」
「ね、なんか楽しいでしょ」
「おう、なんか分からんが楽しいな」

 そして二人でごろごろごろごろとスピードを上げて転がってみたり、ごろりごろりとゆっくり転がってみたり、他愛もない話をしながら二人は転がることを楽しんでいました。するとそこに、真選組副長の土方十四郎が通りかかりました。土方ははじめ、遠くから見るに縁側で二人が昼寝をしているのだと思っていました。報告書を書かねばならん、と言っていたはずの近藤が何故縁側で寝ているのだと呆れましたが、近付いてみるにつれて二人がごろりごろりと転がっていることに気付き、眉間に皺を寄せました。

「おい、何やってる」
「あ、土方さん」
「お、トシ。お前も一緒にやる?」

 寝転がったまま見上げてくる二人に、土方の額に青筋が立ちました。
 ────────何を一緒にやるっつーんだよ。そもそも今は公務時間で、報告書を書かきゃなんねぇって言ってたのはどうした。そして何よりも、だ。真選組の局長ともあろう者が、隊服いっぱいに埃をつけて何やってんだ。
 黒いから余計目立つのか、よほど転がっていたのか。近藤の黒い隊服には呆れるほどに埃がついていました。けれど本人がそんなことを気にする様子は一切ありません。無言で青筋を立てる土方に、二人は実際に見せてあげようと再び転がり始めました。それを見た土方からぷちり、と何かが切れる音が聞こえたものの、二人は青筋にすら気付いていなかったので気付く様子もなく土方の怒声という名の雷が落ちて初めて気付くのでした。

「転がるのを止めろ!!」
「「っ!!」」

 怒鳴られたことにより、ビクリと体を震わせ二人は転がるのを止めました。恐くて動けずにいる二人に土方は正座しろ、と低い声で告げ二人は素早く背筋を伸ばして正座をしました。よく見れば近藤だけでなく女中の彼女にも埃がついてるのを見て、土方はほとほと呆れてしまいました。

「何やってたんだよ、ア?雑巾ごっこか?」
「いえ…ごろごろです」
「ごろごろだァ?隊服を埃まみれにして、それで報告書が書けるのか近藤さんよォ」
「いえ…ごろごろです」
「一緒になって埃まみれになりやがって、掃除するのが女中の仕事じゃねーのか」
「いえ…ごろごろです」
「だいたいが局長が転がって埃集めてるたァ、隊士に示しつかねーだろうがよ」
「いえ…ごろごろです」
「ごろごろごろごろうっせーなテメーはゴリラだろーがァァアア!!」
「ええ!?」
「おお、じゃあゴリゴ」
「ア゛ァ゛?」

 ギロリ、と睨まれてしまえば彼女はそれ以上何も言うことが出来ず、土下座をするように顔を伏せてしまいました。その隣で近藤はゴリラと言われたことが不満だったのか「今ゴリラ関係なくない!?ゴリラ関係なくない!?」とすがるように土方に抗議していましたが、土方のひと睨みで彼女と同じように土下座するように顔を伏せました。

「局長の仕事は何だ?」
「これから報告書を書くことです!」
「女中の仕事は何だ?」
「隊服の埃をはらい、埃ひとつ落ちてないように掃除をすることです!」

 どすの利いた声で土方に問われ、二人は敬礼して土方に返事をしました。そして近藤は慌てて立ち上がり隊服の上着とスラックスを脱ぎ、上着を自分で、スラックスを彼女がバサバサとはらい埃を落としました。その姿を見て土方は溜息と共に煙草の紫煙を長く吐き出しました。結局のところ、埃をはらおうがパンツ姿でいては隊士達への示しなんてものはあったものじゃないからです。
 ────────だいたい、ごろごろって何だよ。




 それから一週間。あの二人が縁側でごろごろしている所を土方は見かけることがありませんでした。よしよし、真面目に仕事をしているのだなと土方が思った頃、再び縁側で寝転がる二人を発見したのでした。
 廊下の先に見えるのは、確かに寝転がった二人の姿。けれど前回とは違いました。どう違うのかと言うと、前回は二人それぞれ寝転がりごろごろと転がっていたのですが、今はうつ伏せに寝ている近藤の上に彼女が乗り、彼女もまたうつ伏せに寝ているのでした。土方からは調度二人の足しか見えず、二人の顔を伺い見ることは出来ません。今度は一体二人で何をしているのだ、と呆れながら土方は二人に近付いていきました。

「オイ、今度は何してやがる」
「お、来たなトシ」
「今日はちゃんと掃除もしましたし、タオルもひいたので埃はついてないですよ!」
「そしてごろごろもしてないぞ!」

 どうだ、と言わんばかりに自信満々で答える二人に、土方は怒る気も失せたのでした。






20100804
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