万事屋に来たサンタクロース





 今日はクリスマスイヴだ。
 浮足立った街並みにつられるように、万事屋の中も神楽ちゃんと 少しだけ飾り付けをして、新八くんを含めた四人でいつもより少し豪華な夕食を食べた。テーブルに並べられたのは四人で一緒に買いに行ったローストチキンと、新八くんと一緒に作ったいつもより品数の多いおかず、そして銀ちゃんお手製のブッシュドノエル。神楽ちゃんがどうしても「丸太のケーキが食べたいアル!」と騒ぐものだから、「んなモン作れるわけねーだろ!」と言いつつも優しい銀ちゃんは完璧な”丸太のケーキ”を作り上げたのだ。お店で買うよりも、うんと美味しいケーキだった。万事屋銀ちゃんが私は好きだけど、パティシエ銀ちゃんもいいんじゃないかなぁ、と銀ちゃんの作るケーキを食べる度に実はこっそり思っている。

 楽しい夕食の時間はあっという間に過ぎ、新八くんも 道場に帰り、私と神楽ちゃんはお風呂に入った。お風呂の中で神楽ちゃんは楽しそうにジングルベルを歌い、サンタは何時に来るのかとワクワクしている。普段は大人もたじろぐようなことを言う子だけど、やっぱり普通に子供なんだなぁと思う。そんな神楽ちゃんを見ていると、数時間後のことを考えて私もワクワクしてきてしまった。

「銀ちゃん、お風呂あいたよ」
「んー」
「ジャンプ読みながら寝ないでよ」
「んー」
「神楽ちゃんもそのまま押入れ入っちゃだめ」

 お風呂から上がれば、ソファの上で仰向けになりジャンプを顔にかけて寝ている銀ちゃんがいた。顔からジャンプを取っても、寝返りをうつだけで起きてくれない。そんな銀ちゃんの体を揺すっているうちに、今度 は神楽ちゃんまでも眠そうな顔をして、まだ髪が濡れたままなのに自分の寝室である押入れで寝転んでいた。はしゃいで疲れてしまったのだろう、サンタが来るまで起きて見張ってるって張り切ってたのに。

「銀ちゃん!お風呂!」

 ひとまず銀ちゃんの頬にビンタをひとつして、腕を引いて無理矢理お風呂場へと歩かせた。

「だーッ、もっと可愛げのある起し方しろよ」
「それじゃ起きないでしょ!ほら、プレゼントあるんだからお風呂で目覚まして来て!」

 小さな声で耳打ちすれば、銀ちゃんはやれやれという顔をして服を脱ぎ始めた。銀ちゃんがお風呂に入ろうとしてくれているのを見て、私はドライヤーを持って居間へと戻った。

「神楽ちゃん、髪濡れたままだ と風邪引いちゃうよ」
「平気ネ」
「だめ。乾かしてあげるから起きて」

今度は神楽ちゃんの腕を引いてソファに座らせて、ゆらゆらと揺れる頭を支えながらドライヤーをあてて、乾いた所で櫛を通せば神楽ちゃんは眠気が限界だと言うように唸った。

「はい、出来たよ」
「眠いアル」
「うん、もうお布団行っていいよ」
「サンタ……捕まえるネ」
「起きてたらサンタさん来ないからね」

 この子なら、本当にサンタさんを捕まえてしまいそうで怖い。
 苦笑いをしながらも立ちあがらせて押入れへと連れて行けば、素直に布団に横になってくれてホッとした。

「私いい子アルか?」
「うん」
「寝てたら本当にサンタ来る?」
「来るよ。ちゃんと寝てた らね」
「ん……」

 ちゃんと寝てたら、なんて念を押さなくても、瞼を閉じながら話す神楽ちゃんは今にも眠ってしまいそうだった。

「おやすみなさい」
「……おやすみ」

 頭をそっと撫でて、押入れの戸を閉める。そっと後ろに下がって、私は足音をたてないようにお風呂場へと向かった。


「銀ちゃん!神楽ちゃん寝たよ!」
「んー」
「ちょっと、早くお風呂上がってね、寝ないでよ!」

 ドア越しに声をかけてみても、返ってくるのは気怠い声。浴槽の中で寝てるんじゃないかと心配になる。ドアを開けてみれば、案の定銀ちゃんは浴槽に深く沈んで、しっかりと瞼を下ろしていた。

「ちょっと銀ちゃん、起きてる?」
「起きてるっつー の。お前も一緒に入る?」
「入らない。もー、寝てないで早く上がって来てよ」
「んな焦んなくてもアイツ寝たばっかなんだから大丈夫だろ。眠り浅いうちに行って起きたら困るだろーが」
「そうだけど……」

 どうやらはしゃいでいたのは神楽ちゃんだけではなく、私もだったらしい。神楽ちゃんにクリスマスプレゼントを渡すのが楽しみで、朝起きた時に驚いて喜んで欲しくて、早く枕元に置いてあげたかったのだ。でも、銀ちゃんの言う方が正論だ。

「じゃーゆっくり入ってていいよ。私居間でテレビ見てる」
「いや、もう上がる」
「え?」
「どっかの誰かさんが俺が早く風呂上がんなくて寂しいみたいだしィ?」
「そ、んなこと言ってないし!」
「照れんなって、俺に もドライヤーしてね」
「神楽ちゃん起きちゃうからドライヤーなんてダメだよ、銀ちゃんは自然乾燥で良いでしょ」
「アイツがそんくらいの音で起きるわけねーだろ」

 ニヤニヤとしながら浴槽から立ちあがる銀ちゃんを見て、私は浴室のドアを閉めた。

 結局、お風呂上がりに苺牛乳を飲む銀ちゃんの髪にドライヤーをあてて、私達の寝る仕度が整ったのは深夜一時を過ぎた頃だった。本物のサンタクロースが何時にプレゼントを配りまわっているのかは知らないけれど、そろそろ良い時間だと思う。
 私達は用意したプレゼントを持って、神楽ちゃんが眠る押入れの前に立った。

「ねえ、ほんとに靴下いっぱいの酢昆布でいいの?」
「これがいいって書いてあっただろ」
「 そうだけどさぁ」
「いいんだよ。ていうかお前の持ってんの何それ」
「ほんとに酢昆布だけって色気なさすぎるでしょ」
「事実色気なんてねーんだからいいんだよ」
「でも用意する側として微妙な気持ちだったから、新しいパジャマ買ったの」
「神楽ちゃんには甘いんでちゅね〜ほんとォ〜」
「キモイ声出さないでよ、神楽ちゃん起きるでしょ」
「キモイ声で起きるって何!?デカイ声じゃなくて!?」
「はいはい、静かにね」

 神楽ちゃんの欲しいものを探るべく、事前に大きな靴下を用意して、そこに欲しい物を書いた紙を入れておくとサンタさんがプレゼントしてくれるよ、と言ったのだけれど……なんと紙に書かれていたのは“すこんぶ”の四文字だったのだ。まさかクリスマ スプレゼントにまで酢昆布を欲しがるだなんて思ってもいなかったから、張り切っていた私は少し残念に思ってしまった。だから、勝手に可愛いパジャマを用意してしまったというわけだった。
 しっかりと眠っている神楽ちゃんの枕元にプレゼントを置いて、銀ちゃんが押入れの戸を閉めたのを見て私は堪え切れずに口角が上がった。
 朝起きたら、神楽ちゃん喜んでくれるかな。

「私達ももう寝ようか」

 小声で話しかけ、銀ちゃんの背中を押して寝室へと向かう。
 にやけながら布団にもぐりこむ私を見て、銀ちゃんは呆れたように笑った。

「なんでプレゼントあげたお前が嬉しそうなんだよ」
「神楽ちゃんビックリしてくれるかなぁ、って思って」
「自分は欲しくないん ですかァ」
「私はサンタさんからはいらないかなぁ」
「じゃあ誰から欲しいの」
「んー?秘密」

 分かってるくせに、と思いながら銀ちゃんの胸に顔を埋めて、私は瞼を閉じた。
 このぬくもりがあるだけで、本当は十分に幸せだよ。


 神楽ちゃんじゃないにせよ、私もいつもよりははしゃいでしまっていたのか、すんなりと眠りに落ちた。だから次に瞼を持ち上げたのは、朝が訪れたその時だった。





 朝日が瞼を刺激して、鳥のさえずりが耳に届く。目を開ければ、すぐ目の前には銀ちゃんの寝顔.体を少し折り曲げるようにしている彼の腕は私の腰に回っていた。規則正しい寝息を聞いていると心があたたかくなる。数秒見つめて、朝ご飯の用意をしようと私は体を起こした。
 静かだけど、神楽ちゃんまだ寝てるのかな。

────────ジャラ

 ん?……じゃら?
 聞きなれない音と右手に感じる重みを不思議に思い、視線を手へと下ろせばそこには信じられないものがあった。

「え、ええええええええ!?」

 なにこれ!?なんでコレ!?なんで手錠ゥゥゥウウウ!?
 私の右手には鈍く光る銀色の手錠がはめられていた。いつからこの状態だったのか、人肌であたたまり冷たさはなかったけれど、この独特の重みは今まで感じたことがない。しかもその手錠のもう片方は、銀ちゃんの左腕にはめられていた。
 なにしてんのこの人!!どう考えたらこれがプレゼントになるのよ!
 私は怒りに任せて銀ちゃんの頭を左手で殴った。

「痛ッ…!?」
「なんでこれがプレゼントなの!?」

 寝ている銀ちゃんの目の前にかざすように右手を近付ければ、銀ちゃんは目を丸くした。

「え、なにこれ。こういうプレイがしたいの?」
「それは銀ちゃんでしょ!」
「いや俺は全然嫌いじゃないけど、つうかむしろ好きだけど」
「だからってこんなことしないでよ!はずして!」

 朝起きたら、なんて私もちょっぴり期待して眠ったというのに、手錠なんてあんまりだ。

「え?なに?つうか状況が把握出来ねーんだけど」
「だから寝惚けてないでこらはずしてってば」
「俺が?」
「当たり前でしょ、銀ちゃんがつけたんだから」
「俺が?」
「だからそうだってば!」
「俺じゃねぇよ」
「は?」
「これやったの俺じゃねぇって言ってんの。鍵持ってねぇし」
「寝惚けてんの?」
「起きてますゥ!」
「はずせないの?」
「はずせない」
「え……ほんとに?」
「銀ちゃんウソつかなーい」
「ええええええええ!?」

 朝から二度目の叫び。銀ちゃん達と一緒にいたら叫びたくなるようなことばっかりだけど、まさかクリスマスの朝に喜びじゃない叫び声を上げるとは思わなかった。銀ちゃんのふざけたイタズラだと思ったのに、一体誰がこんなことしたんだろう。もし本物のサンタさんだとしたら、悪趣味にもほどがある。

「コレ本物だな」
「銀ちゃんじゃなかったら誰がこんな────────」
「喜んでくれたアルか!?」
「「(お前か─────!!)」」

 襖を開け、スキップをしながら布団にダイヴしてきた神楽ちゃんを見て、声を出さずとも私と銀ちゃんの心の声はきっとハモっていただろう。
 くるん、と輝く瞳で見つめられて私は言葉が詰まる。

「これ……神楽ちゃんがやったの?」
「そーアル!私からのクリスマスプレゼント!」
「お前こんなもんどっから持ってきたんだよ」
「ゴリラから奪って来たネ」
「鍵は?」
「知らない」
「えっ、鍵ないの!?」
「そんなん必要ないアル」
「必要だよ、鍵なかったらずっとこのままだよ?なんでこんなことしたの?」
「だって、銀ちゃんとずーっと一緒にいたいなぁって言ってたから、私が叶えてあげたネ」
「か、神楽ちゃん……!」

 確かに、そんなことをいつだかポロッと言っちゃったけど!それを覚えていて私のためにこうして神楽ちゃんなりに考えての手錠なのは嬉しいけど、銀ちゃんの前では言わないで欲しい…!じわりと、私の体が汗ばんできている。
 案の定、銀ちゃんからは視線を感じる。目を向けてみればニヤニヤと厭らしい目で私を見ていた。

「なに、そんな可愛いこと言ってくれちゃってたの?」
「い、言ってません」
「言ってたアル!」
「神楽ちゃん……!」

 恥ずかしくて顔を背ければ、神楽ちゃんが悲しそうな目をして私に詰め寄った。

「嬉しくなかったアルか?私は新しいパジャマ嬉しかったネ。だから私からもプレゼントあげたくて」
「え、いやパジャマは」
「サンタがあんなオシャレで可愛いもの寄越すわけないネ。酢昆布用意するのが精一杯ヨ」
「…………」

 なんと答えていいのやら。喜んでくれたようだけれど、パジャマが私からのプレゼントだということはバレているらしい。それでも、酢昆布はサンタさんからのプレゼントだと思ってくれているから一応は成功なの、かな。

「私からもプレゼントしたくて起きてすぐゴリラ捕まえに行ったけど……嬉しくなかったアルか?」
「う……嬉しいよ」
「良かった!」

 うるうるとした瞳で見つめられて、例えとんでもないプレゼントだったとしてもその裏にある気持ちを知ってしまえば“嬉しい”以外の言葉が出てくるわけがない。
 手錠のせいでただでさえ右手が動かせないというのに、神楽ちゃんに抱き着かれてしまって私の体は完全に動けなくなってしまった。
 可愛い、嬉しいけど!

「ニヤニヤしないでよ!」
「照れんなって〜。銀さんもそのお願いちゃんと叶えてやっから」

 そう言って、ニヤけた顔のまま私の右頬に唇を押し付けた銀ちゃんを見て、マネをするように神楽ちゃんも私の左頬に唇を押し付けた。

 両頬にやわらかなぬくもりと、右手にある馴れない重み。
 私の口から漏れたのは、これ以上ない桃色の溜め息だった。






20121225
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