見破られた罠





 男の子は好きな女の子をいじめたくなっちゃうって言うけど、私もその気持ちが良く分かる。もしかして、私は男の子なんだろうか。ううん、そんなはずはない。だって身も心も女の子だし。きっと、好きな人と何でもいいから一緒にいたいっていう、そういう恋する気持ちは男の子も女の子も同じなんだと思う。

「やーまーざーきィ!テメ、待てコラァ!」

 土方さんの怒鳴る声と、騒がしい足音がこちらに近付いてきていた。
 また、退ちゃんが何かやらかしたのだろうか。何もしていなくても怒鳴られることもしょっちゅうだしなぁ。今日はどうしたんだろう。
 そんなことを考えながら、私は最後の洗濯物の白いタオルを畳んだ。よし、終わり。そう思ったのに、畳んだばかりのタオルが宙に浮いた。顔を上げれば総悟が悪い顔をして立っていた。

「ここ通りやすぜ、山崎」

 というわけで、私と総悟は二人でタオルのはしっこを持って、廊下の角に隠れてゴールテープならぬ足ひっかけタオルを構えた。
 こんなの、すぐに気付くんじゃないのかな。いや、意外と逃げるのに夢中でひっかかっちゃうかな?なんて、わくわくしながら私は総悟と待った。
 するとすぐに退ちゃんはこっちに走って来て、見事に足をタオルにひっかけた。目の前で顔から突っ込むように倒れた退ちゃんに、総悟とハイタッチをして、私は呻く退ちゃんに近寄った。

「やーい、ひっかかったー」
「うぅ、ひどい」
「まだまだ修行が足りぬぞ」

 からかって頭にチョップを入れれば、恨めしそうな退ちゃんの顔が上がった。それにへらりと笑って返せば、後ろで土方さんの大きな声がした。

「総悟ォォオ!何してんだ!足取れるだろうがァァァアア!」
「え?あんた足切断してでも逃げようとしてやせんでした?」
「誰の話してんの!?それ緑頭の剣豪の話ィィィイ!」

 騒ぐ声に二人で顔を向ければ、先ほどタオルがあった場所に今はピンとはったピアノ線が張られていた。総悟、いつの間にやったんだ。

「……退ちゃん、タオルで良かったね」
「ほんと」

 足首から下がスパン、ととれた所を想像して背筋が寒くなってしまった。
 そのまま土方さんは逃げた総悟を追って行ってしまった。

「総悟のおかげで助かったね」
「はぁ…、今のうちに行くよ」

 溜息をついて、退ちゃんは身体を起した。
 そして私はすかさず立ち上がろうとする退ちゃんのズボンの裾を、こっそりと掴んだ。すると思惑通り、退ちゃんは足を取られ膝を崩して両手を床につけた。だって、ふたりきりなのに、そんなに早く行こうとしなくてもいいじゃん。
 やっぱり恨めしげに私を見る退ちゃんに笑顔を返せば、またひとつ溜息が返って来る。

「あのねぇ、俺の仕事、何か分かってる?」

 予想外の質問に、私は思わず首をかしげた。そんなこと、聞かれなくても当然知ってるんだけどな。

「監察でしょ」
「その仕事内容は?」
「張り込みとかして情報収集したり、名前の通り観察するお仕事、だよね」
「そう。だから小さな行動ひとつから企みまで探ることも安易なんだよ」
「……うん?」

 なんだろう、これはお仕事自慢なんだろうか。退ちゃんがそんなことするようには見えないんだけどな。
 お互い座ったままで目を合わせていれば、退ちゃんは笑った。総悟が悪いことを考えている時の笑いに似てる、意地悪な顔をして笑う退ちゃんに、私の心臓が不自然に跳ねた。そんな風に笑う退ちゃんを、初めて見たのだ。

「分かってないね」

 そう言って、退ちゃんは私の顔に手を伸ばして、親指で私の唇をなぞった。触れられた部分から電気が走ったような痺れが、全身に広がる。

「気持ち、全部バレバレだよってこと」

 それだけ言って、さっと立ち上がり消えた退ちゃんに、私は触れられた唇を抑えて固まった。






20120424
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