重ねて重ねて愛の輪唱





 銀ちゃんは面白い。いつも、新八くんや神楽ちゃんとのやりとりや銀ちゃんのボケとツッコミに私は笑ってばかりいるけれど、またひとつ面白いところを見つけてしまった。それは声を出して笑うようないつもの面白さじゃなくて、胸がきゅんとなる面白さだ。

「ねぇ銀ちゃん」
「んー」
「今日のご飯何食べたい?」
「んー」
「私のこと大好き?」
「んー」
「土方さんと浮気してくるね」
「んー」

 ひどい、ひどすぎる。ジャンプを読んでいる時の銀ちゃんはいつもこうだ。前は私が何を言っても「うん」しか返してくれなくて、今みたいに私が色々言ってることに全部「うん」と肯定するものだから「私のこと嫌いでしょ」とか「土方さんと結婚してもいい?」とか「月詠さんと浮気した?」とかバカみたいなことを聞いていた私が大泣きしてバカみたいな喧嘩をしてから、銀ちゃんは否定にも肯定にもならない「んー」と言うようになったのだ。今思えば適当な返事しかしていない銀ちゃんにふざけて質問していたくせに本気になって泣いた自分もバカだと思うし、それに懲りずに未だに適当な銀ちゃんもバカだ。でも私は大バカではないので、今はこんな適当な返事に泣いたりなんかしない。

「待て、お前今“土方”とか言った?」
「ううん、言ってない」
「あ、そ」

 バッと顔を上げた銀ちゃんに、私は笑顔で返す。ならいいけど、と何事もなかったかのようにジャンプに視線を戻す銀ちゃんは相変わらずだ。
 でもひとつ、私は銀ちゃんの面白いところを見つけたから、ジャンプに夢中な銀ちゃんを見て泣いたりしないどころか笑顔を返すことが出来る。
 ソファに横になって、肩肘を立てながら片手でジャンプをめくる銀ちゃんに私は近づいた。床に座って、私がジャンプを覗き込んでみても銀ちゃんは無反応だ。でも絶対に、銀ちゃんが反応してくれる一言がある。

「ねぇ銀ちゃん」
「んー」
「ちゅう、して」

 そう言うと、銀ちゃんは顔を上げて私の唇に軽く自分の唇を重ねた。そして何も言わずに、またジャンプの世界へと戻って行った。
 私は声に出して笑いそうになるのを堪えて、もう一度口を開いた。

「ねー銀ちゃん」
「んー」
「ちゅうしてよー」

 今度は、さっきよりもぴったりと合わさる唇に小さく笑い声が漏れた。私が何を言っても「んー」としか返してくれないのに、何故か「ちゅうして」という言葉だけはその通りにしてくれるのだ。銀ちゃんってば、面白いでしょう?
 私は立ち上がって、台所に向かった。冷蔵庫を開けて麦茶をコップに注いで、また銀ちゃんの前に座る。麦茶を飲みながら銀ちゃんを眺めてみても、銀ちゃんは私の方を見ることも、気にするそぶりすらない。だけど、

「銀ちゃん、ちゅうして」
「んー」

 そうして、銀ちゃんの唇が重なる。離れたと思えば、再び重ねられた唇に私は嬉しくなる。そして、面白くなる。

「ねぇねぇ銀ちゃん、ちゅうー」

 銀ちゃんがジャンプを一ページ、二ページとめくればすぐに私は声をかける。そんな私に懲りずに、銀ちゃんはしっかりと唇を重ねてくれる。返事はおざなりなのに、ちゅうだけはしっかりとしてくれる。

「ねぇ銀ちゃん」
「はいはい」

 私は名前を呼んだだけなのに。近づいてきた銀ちゃんの顔に口元が緩んでしまう。ジャンプを読んでいるのを邪魔されて不機嫌、なんて顔をしてる銀ちゃんの口元だってゆるく笑ってること、私には分かってるんだよ。

 バサリ、と床に落ちたジャンプに「私の勝ち」だなんて優越感を感じてる私はやっぱりバカなのかもしれない。

(適当でもおざなりでも、銀ちゃんが必ず返事をしてくれていたことに気付けない私はやっぱりバカね)






20120221
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