君の愛を知ってるよ





「痛゛ったたたたた!」
「おーブスが余計ブスに。あんまり公害まきちらしてっとしょっぴくぞ」
「総悟がやったんでしょ…!」

 綺麗に結われていた私の頭をぐしゃぐしゃに掻き乱して、それから総悟は近藤さんと任務に行った。その背中に「いってらっしゃい」と声をかけても、返ってくるのは憎たらしい笑みだけだ。もっと普通に、見送れないものなのか。かんざしに絡まった髪をほどきながら、私は総悟の背中が見えなくなるまで見送った。

「あーもうとれない、退ちゃんやって」
「うわぁ、すごいね」
「ねぇ、これって愛情表現だと思う?」

 膝の上に落ちている抜けた髪の毛を拾いながら、私は退ちゃんに訊ねた。力強く掻き乱して行った総悟とは違う、そっと柔らかく触れる退ちゃんの手を感じながら。

「まぁ、愛情表現は人それぞれだから。なんたってあの人ドSだし」
「でも彼女にブスって言う?公害とまで言われたんだけど」
「ふふ、まぁ俺は沖田隊長の気持ち分かるけど」
「ちょっと、私がブスだって?公害だと思ってんの?」

 振り返って胸倉を掴めば、退ちゃんは顔を左右に振った。確かに、女であるのにもかかわらず総悟のあの可愛いさには敵いそうもないけど。それにしたって失礼すぎるでしょ。

「ほ、ほら男って不器用だから!」
「不器用だと彼女をしょっぴきたくなるわけ」
「だからさ…ほら、かんざしほどかなくていいの?」

 ふん、と鼻を鳴らして私は前を向いた。
 分かってる、これが総悟なりの愛情表現なんだってこと。素直じゃないし、ガキだし、ドSだし。分かってるけど、もうちょっと恋人らしい愛情表現をくれたっていいじゃない。近藤さんに向ける素直さのひと掴みくらい、私に向けてくれたっていいじゃない。仮にも、私は沖田総悟の恋人なんだから。

「しょうがないなぁ、じゃあひとつだけいいこと教えてあげる」
「え?」
「俺のためにも、自分のためにも、バレないようにやってよ」

 そうして退ちゃんは、私に“総悟の素直な愛情表現”をひとつ教えてくれた。




 退ちゃんが教えてくれた”総悟の素直な愛情表現”を確かめるべく、私は深夜一時を過ぎたというのに布団の中で瞼と閉じたまま起きていた。こんな時間に、眠りに入る環境抜群な暗い部屋とあたたかい布団と閉じられた瞼の中、私は眠るのを我慢していた。
 総悟はいつになったら帰ってくるんだろう、流石にもう寝てしまいそうだ。
 でも、確かめたいの。分かりやすい、総悟の愛を。

 ────カタン
 限界が近づいて眠りかけていた頃、障子が動いた小さな音がした。誰かが入ってくる、畳のすれる音がする。
 “バレたら教えた俺も怒られるし、もうしてもらえなくなるかもしれないから慎重にね”そう言って教えてくれた退ちゃんの言葉を思い出すけれど、眠りに片足を入れた状態の私は、周りの状況をなんとか感じられる意識を保っている程度で、はたから見れば完璧眠っているように見えるだろう。眠らないようにと気をはっていたせいで、ようやく現れた総悟に気が緩んでしまって今にも眠りに落ちてしまいそうだった。

 ふわり、と。頬に温かなぬくもりを感じる。いつもはもっと乱暴に、感じ慣れたそのぬくもり。総悟だ、と瞼を閉じていても分かる。意識が眠りに引きこまれていても、分かる。
 そのまま、そのぬくもりは私の頬を額を頭を、優しく包んだ。
 そしてもっともっとあたたかな、やわらかな、ぬくもりが私の唇に触れた。

 あたたかさに、気持ちよさに、私は眠りへと優しく押されてしまった。





 ぱちり、と開いた瞳に眩しい朝日が沁みた。勢い良く起き上がって障子を見てみても、しっかりと閉じられている。部屋には誰もいない。
 私は頭を抱えてうずくまった。

「あー…失敗したァ。夢だったのか現実だったのか分かんない」

 昨日、退ちゃんが教えてくれた“総悟の素直な愛情表現”。
”沖田隊長、自分が帰って来た時にキミが先に寝てて「おかえり」って言ってもらえないと、必ず部屋に行くんだよね。そこで沖田隊長が何をしてるかは、自分で確かめてみるといいよ”
 私の「おかえり」を、総悟が待っていてくれているだけでも嬉しいのに、退ちゃんが教えてくれたのはそれだけではなかった。
 寝ないように待っていたのに、結局まどろんでいて私は夢を見たのか、それとも総悟の本物のぬくもりだったのか、分からない。でも確かに、ぬくもりを感じた気がするんだけどなぁ。

「どっちだろ」

 頬に触れてみても、証拠が残っているわけがない。そうは思っても、まだぬくもりが残っているような気がして私は両頬を撫でた。

「……ん?」

 カサリ、と頬に何かがついている。爪ではがして見てみると、それは小さなドクロのシールだった。

「そ、総悟ォォォォオオオ!!」

 私は障子を乱暴に開けて、走った。小さなそのシールを、手鏡の裏に貼りつけてから。
 夢だけど、夢じゃなかった!なんて、となりのペドロみたいなセリフを心の中で唱えながら、にやけるのを抑えるのに必死だった。総悟を見つけたら、「おはよう」の前に「おかえり」って言わなきゃ。

 頬に貼られたシールがハートじゃなくてドクロだったことを怒るのは、一番最後にとっておいてあげる。





20120221
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