三時のおやつは順番に





 ぐうきゅるるる、と可愛らしいが大きな腹の音が聞こえた。音の出どころである、向かいのソファに座る彼女を見れば、誤魔化したいのか耳をほんのり赤く染めながらも雑誌に視線を向けたままだった。

「おい」
「……」
「腹鳴ったろ」

 ジャンプを閉じながら彼女に問えば、恥ずかしそうに「べつに」と呟いた。おいおい、どこぞのエリカ様ですか。随分とまぁ、ふてぶてしさが足りねェが。
 まったく、たかが腹鳴っただけで可愛らしい反応をしてくれるじゃねーか。

「さっき昼飯食ったよな」
「お、腹が空いてるわけじゃなくて腸が動いただけだもん」
「あ、そ。じゃあ俺腹減ったからパンケーキ作るけどお前はいらないんだな」
「え!」
「腸が動いたんなら厠こもってこい」
「ちが…」

 ひらひらと手を振り台所に消える俺に声をかけてくる彼女だったけれど、聞こえないふりをして台所へと入ればそれ以上何かを言ってくることはなかった。
 まあ、意地悪をしたくなったって仕方ねーだろ。俺だけの特権ってことで。

 こんがりとキツネ色に焼けたパンケーキを皿に盛り、生クリームとキャラメルソースを乗せて居間に戻れば、こちらの様子を伺っていたのであろう彼女と一瞬目が合うが、彼女はパッと雑誌へと視線を戻してしまった。
 お腹空いた、とただ素直に言えばいいものを、そんな態度をとるから意地悪をしたくなるんだろーが。
 俺は先ほどとは違い、彼女の隣に腰を下ろし皿をテーブルに置いた。
 ちらり、と。
 彼女の視線がパンケーキに移るのを見て俺は笑った。雑誌を一生懸命に見るふりをしている彼女の名を呼んでやれば、彼女はわざとらしくゆっくりと顔を上げる。そんな彼女に、俺はパンケーキをひときれフォークで刺し、口元へと運んでやった。

「ほら、腹減ったんだろ?」

 すると彼女は、一瞬戸惑った後に「うん」と答えた。俺はにんまりと笑い、彼女が口を開く前にパンケーキを唇に押し付けてやった。くぐもった声を漏らす彼女に、さっとフォークを離し、顔を近づける。
 生クリームを付けた彼女の唇をべろりと舐めれば、たまらなく甘かった。

「なァ、俺も腹減ってんだけど」

 目の前にパンケーキがある彼女と、目の前に唇を濡らした彼女がいる俺と、
 先に三時のおやつにありつけるのは──────どっちだ?






20110323
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