朝の目覚めはぬくもりと





 夜勤明け、あくびをひとつしながら自室へ足を進めていた。すぐに布団に倒れ眠りたい、と思っていたが通り道にある彼女の部屋の障子に、自然と手が伸びていた。障子をそっと開けてみれば、こちとら眠いのを堪えながらの勤務だったというのに、彼女は憎らしいほどに気持ちよさそうに眠っている。乱暴に畳を踏みしめて近づいても起きる気配なんてない。枕元に座り込めば、ひらりと彼女の前髪が揺れる。それでも彼女が起きる気配はなかった。穏やかに寝息を立てるその姿は、俺の眠気を誘い込む。ぼんやりと彼女の寝顔を眺めた後、俺はそっと腕を持ち上げ、彼女の顔へと伸ばした。そしてその手のひらで──────彼女の口と鼻を覆った。
 穏やかに眠っていた彼女の眉間に皺が寄り、険しい顔になる。そして俺はにやりと口角を上げた。
 彼女は息苦しさの原因を振り払うように、眠りながらも顔を右に、左にと動かすが、それは意味のないことだった。彼女の口元を覆う俺の手は離れやしない。いい加減苦しさがピークに達したのか、彼女は口元にある何かを振り払うように手を動かしながら目を開いた。

「っ、はっ、っはぁ」
「おはよう」

 右口角だけを上げたまま、挨拶をしてやれば彼女は軽くパニックを起こしているようで、自分が何故突然目覚めたのか、何故息が苦しくなったのか、全てを良く把握していないらしい。ただ目を丸め、息を整え、俺の声に反応して顔をこちらに向け、そうして再び眉間に皺を寄せた。

「任務を終えて帰ってきた隊長が挨拶してんのに、無視ですかィ」
「…っお、はようございます」

 お疲れ様です、と途切れた息で紡ぐ彼女は何ともたまらない。もう一度口を塞いでやりたいほどだった。

「っていうか、変な起こし方しないでよ!」

 俺がいることに気付き、自分が何故突然目覚めたのか、何故突然息が苦しくなったのかを把握したらしい彼女は、乱れた髪を耳にかけながら俺を睨んだ。そんな彼女に俺はわざとらしく首をかしげる。

「どこらへんが変なんでィ」
「ぜんぶ!」
「ふうん」

 良い起こし方だったと思うが、彼女が変だと言うなら普通の起こし方をしてやろうか。
 俺は顔を近付けて、再び彼女の唇を塞いだ。驚いて息を呑む彼女の声は耳に心地良く、瞼を閉じれば眠気が体を一気に襲って来た。俺はそのまま倒れるように彼女の布団に横になった。

「そ、総悟」
「寝る」
「え、ここで?」
「俺が寝やすいように隊服脱がしとけよ」
「ちょっ、自分で脱い──────」

 最後まで、彼女の言葉は俺には届かなかった。

 彼女の布団は、彼女の唇のように柔らかくあたたかい。いつか彼女の唇の上で眠れたら、なんてバカなことを考えてしまったのは俺の眠気が限界すぎるせいだろう。






20110320
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