一、富士 二、鷹 三、茄子





 べちん、と突然おでこに衝撃が走った。正直、衝撃が走ったのがおでこなのか何なのか分からないくらい私は驚いて目を開けた。目の前には総悟の顔がくっついてしまいそうなほど近くにあり、私は更に驚くはめになった。

「な、ななな」
「起きなせェ」
「ちか、近い近い!起きてる!」

 ぐいぐいと顔を近付けてくる総悟から私は顔を背けた。更に自分の顔を隠すように両手で顔を覆った。
 寝起きの顔をそんな近くで見られたら恥ずかしいってば…!
 色んな意味でドキドキしていると顔を隠していた手を急にぐいっと引っ張られ、私の上半身が起き上がった。

「えっ」
「風呂に入りやしょう」
「えぇ!?」
「背中流してくだせェ」
「え、ちょっ」

 朝からいきなり何!?
 さっきからどれだけ私を驚かせれば気が済むんだろう、と思う暇もなく、気づけば私はお風呂場の脱衣所にいた。

「え、なんで私ここに…」
「俺の背中を流すためでさァ」
「待っ、脱が」

 何故か脱衣所に二人きり。私に背中を向けて浴衣を脱ぎ始めた総悟に私は慌てた。
 本当に二人で入る気な──────えぇ!?

「総悟それどうしたの!?」
「ん?」
「背中の富士山!」

 脱ぎだした総悟に恥ずかしさを感じていたのに、私は驚きのあまり脱ぎかけていた総悟の浴衣を私が脱がせ、背中をまじまじと見てしまった。
 だって、総悟の背中に富士山の入れ墨がある…!
 総悟の裸なんてじっくり見たことなんてないけど、それでも鍛錬の時なんかにたまに見る背中にはこんなものが入ってはいなかったはずだった。
 いつのまにこんな…しかも何で富士山!?

「遠山の金さんに憧れてたんでさァ」
「金さん!?でも金さん…って、桜じゃ」
「どっちでもいーんでィ」

 入れ墨なのに?一生消えないのに?どっちでも良いの…?
 総悟の背中にある立派な富士山を見ながら私は口をぽかんと開けていた。するとガラガラと脱衣所の扉が開く音がした。二人でこんなところにいて誤解されたら困る、と慌てて扉を見れば、誤解なんてどうでも良いほどの衝撃的な光景が私の前に現れた。
 そこにいたのは、茶色い全身タイツを着てイカツイ鳥の人形を頭に乗せた土方さん。

「…………」
「土方さんも背中流してもらいに来たんですかィ?」
「お、いいな」

 なんかもう言葉も出ないうえに、“流してもらいに”って、まさか私にじゃないよね?しかも“お、いいな”ってどういうこと?なんで土方さん何のツッコミもなしに総悟の話に乗ってんの?私が二人の背中を流すの?…本当に?
 おかしすぎるでしょ、二人とも!
 そんなことよりも総悟の隣で全身タイツを脱ぎだした土方さんに私は声をかけた。目の前で脱がれて恥ずかしい、とかはもういい、それよりも気になって仕方がないことがあるのだ。

「土方さん」
「あ?お前も早く脱げよ」
「っ!」

 土方さんにそんな言葉を言われて、顔を赤くせずにいられる人なんているんだろうか…!いやらしいと言われようとも、私はうっかりいやらしい状況を想像して顔を赤くしてしまった。例えイカツイ鳥の人形を頭に乗せて、全身タイツを脱ぎかけているという奇妙な姿だとしても。それでも、その言葉の威力は大きかった。
 …でもやっぱり奇妙な格好は奇妙な格好。私は赤い顔のまま、もごもごと口を動かした。

「その格好、なんなんですか」
「鷹だろーが」
「………たか?」

 あたりまえだろ、とでも言いたげに“鷹だ”と言われても、私には意味が分からなかった。なんで?この状況……まさかトッシーじゃないよね?土方さんだよね?なんで土方さんが平然とこんな格好してるんだろう。しかも、朝から。これが土方さんの寝間着なのかな…いやまさかだよね、こんなの一度だって見たことがない。
 そもそもなんで一緒にお風呂に入れだの、背中流せだのって私言われてるんだろう。今まで一回も一緒にお風呂に入ったことも背中流したこともないんだけど…私突然男に見えてるとかじゃないよね、ちゃんと女の私だよね、なんてバカなことを考えながら確認するように自分の体を見下ろしてみても、私の体はいつもと変わりはなかった。

「ほら、入るぞ」
「えっ…ちょっ」

 自分の体をチェックしていると急に腕を引かれ、顔を上げれば腰にタオルを巻いただけの土方さんが私の腕を掴みながら背を向けていた。そのまま、浴場のドアの方へ私を引っ張って行く。
 ちょっと勘弁してよ…!ほんとに入るの!?私が背中流すの!?
 顔を背けながら引っ張られないように足を踏ん張ってみても、私の力なんてないかのようにするすると浴場のドアまで私の体は引っ張られてしまった。

「裸でつっ立ってたら風邪ひいちまいやすから、早く入りましょーや」

 掴まれていない方の手をひょいと掴まれて顔を上げれば、裸の総悟が私の視界に入った。
  な に こ の 状 況 !
 最早どこに顔を向けていいのか分からず、私の顔は前を向いて硬直したままボッと音が出たかのように真っ赤になった。
 なにこれ、どういう状況なの?おいしいの?私おいしい状況?
 パニックを起こしながら混乱している間に、土方さんが浴場のドアに手をかけてしまった。
 私は服を着てるし“一緒にお風呂”じゃなくて背中を流すくらいなら別に良い?二人は真っ裸じゃなくて腰にタオルを巻いてるから問題ない?むしろ私おいしい状況?もっと二人の体を凝視すべき?
 ………………いや、

「無理無理むり!こんな二人おかしいし、恥ずかしすぎる!」

 そう私は叫んで、抵抗するようにしゃがみこんだ。部屋に戻らせてください、仕事させてください!そう続けて叫んだのにも関わらず、私の意志とは反対に簡単に浴場のドアはガラガラと音をたてて開かれてしまった。もわん、と湯気が浴場から溢れ出してくる。すると頭上で、近藤さんの声がした。「あれ、お前等も朝風呂?」なんて声が聞こえて、私は反射的に顔を上げた。

「い、やあああああああああああああああああああああああ!!」

 そこが浴場だということも忘れ、しかもしゃがんでいたせいでうっかり顔を上げた私の視界に広がったのは近藤さんの局部だった。土方さんや総悟と違い、タオルなんて巻いていない近藤さんの局部は、局部には──────なすびがついていた。




* * *





「という初夢を見たの」

 私は近藤さん、その向かいに土方さん、近藤さんの隣に座る総悟にお雑煮を出しながら私の見た初夢の話をした。

「なんで俺が全身タイツなんだよ」
「えぇ、俺なんてなすびだよ!?しかもアソコがなすびだよ!?」
「土方さんは…ホラあれなんて言いやしたっけ、一番小せェウィンナー」
「ポークビッツのこと?」
「そうそれ、ポークビッツですぜ」
「おい何の話だ」

 ポークビッツって…小指?土方さん小指なの?なんて冗談を考えて笑いを堪えながら土方さんを見やれば、思考がバレていたのか思いっきり睨まれてしまった。慌てて私は話しを元に戻す。

「ていうか、すごくない? 一、富士 二、鷹 三、なすび だよ!」
「おぉ、確かに!めでたい夢を見たなぁ、良い年になりそうだ!」
「事実は 俺、富士 土方、ポークビッツ 近藤さん、将軍 でさァ」
「だからテメーは何の話をしてやがる!!」

 良かったなァ、と笑う近藤さんに、土方さんをバカにしながら「いただきます」も言わずにお雑煮に口をつける総悟と、そんな総悟に青筋を立てる土方さん。新しい年を迎えても何も変わらないその光景に、私は微笑んだ。

 こんな光景が三百六十五日続く、そんな良い年でありますように。






20110101
 今年もCHUQNをどうぞよろしくお願い致します!
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