さっちゃんと恋Banana! 〜“する”と“される”は紙一重〜





「あなたの好きなゴリラ、またお妙さんにストーキングしてたわよ。あいつのストーキングの仕方はあまいのよ、バレバレなのよ!もっと私を見習いなさいって言っておいて!」

 道でばったり会ったさっちゃんに挨拶もなく突然そう捲くし立てられ、私は目を丸くした。
 さっちゃんから話された“事実”はいつものことのはずなのに、やっぱりいつものように胸が少し痛んで、私はさっちゃんに苦笑いを返した。私がそんなことすんなり言えれば苦労はないのに。

「やだよ、そしたら近藤さんますますお妙ちゃんのことを見つめ続けて、夢中になっちゃうじゃん」
「…まぁ、そうなるかもしれないわね」
「だったらバレバレの方がいいよ」

 そしたら妙ちゃんに撃退されて、妙ちゃんを見つめる時間が減るでしょう?
 でも、もしかしたら撃退されることも近藤さんの喜びの一部だとしたら、バレバレじゃない方がいいのかもしれないけど。まあ、どっちにしろ私には嬉しくない。

「近藤さんに会ったってことは、さっちゃん道場行ってたの?万事屋じゃなくて?」
「だって銀さんがァ!あの忌々しい女の所に行くんだもの!」
「忌々しいって…」

 あんまりにも感情をストレートに表現するさっちゃんに私は笑ってしまった。
 私もこれくらい積極的にいかないと、近藤さんは私の気持ちに少しも気づかないどころか、いつまでたっても“ただの知り合い”的なポジションからランクアップできないかもしれない。さっちゃんを見てると私の積極性なんてマイナス方向なんじゃないかって思えてくる。

「私も少しさっちゃんを見習おうかなァ」
「そうよ!あなたが私を見習えば良いのよ!私を見習って、ゴリラをストーキングしなさい!」
「え!?なんで私が…ストーキングとかじゃなくて!恋愛に対する前向きな姿勢を」
「だからストーキングよ!」

 …だからストーキングとかじゃなくて!
 そもそもストーキングは犯罪なの!本日二度目の苦笑いを向けるも、さっちゃんはストーキングの心得なるものを私に力説して気にもとめない。私が見習いたいのはストーキングのことじゃないの。積極的な、前向きな、その姿勢!

「そして愛する人と呼吸をピタリと合わせることで空気すらも揺らさずに完璧なストーキ」
「私は近藤さんをストーキングしても楽しくないの!」
「……そうなの?変わった人ね」

 延々と続きそうなさっちゃんの話を私は少し大きな声を出して遮った。「変わった人ね」と言うさっちゃんの方が、変わった人だと思うけど…私はあえて黙っておいた。また延々とストーキングに対する熱意を述べられても困る。

「ストーキングするよりされたい派なの?」
「え?………まァ、どっちかと言えばね」

 さっちゃんの脳内にはストーキング“する”か“しない”かの二択しかないんだろうか。私は普通に恋愛したいだけなんだけど…でも、ストーキングするよりは、少しでも近藤さんが私のこと見てくれたらなあって思うから、どちらかと言えばされたいと答えておいた。
 さっちゃんは少し考えた様子で、そしてまた真剣な顔で私に向き直った。

「ストーキングは“してる”と“されてる”の紙一重よ」
「…はい?」
「どちらも“同じ時間”を共有しているという点では同じなのよ。そうなれば自分がストーキングしてるのかされてるのか分からなくなるわ!」
「いやいやいや、分かるでしょ!」
「ストーキングしながらストーキングされてると思えば、されてることになるわよ!」
「ならないってば!」
「やァだ銀さん!それって私のこと、銀さんがストーキングしてるってこと?私のこといつでも見つめてるってことォォォオ!?」
「だから…」

 違うだろ、とは言えずに私は遠くを見た。さっちゃん、好きだけど…この暴走はどうにも手に負えない。体をくねらせ暴走するさっちゃんがおさまるのを私はただただ待つしかなかった。こうなっちゃったら何を言っても耳に入れてくれないんだもん。
 気が済んだのか、ようやく落ち着きを取り戻したさっちゃんは私にビシッと指をさした。

「いい!?ストーキングは高度な愛情表現だからあなたにはまだ出来ないかもしれないけど、それにしても積極性が足りないわ!」

 いつの間にか私の師匠かのように、声を上げるさっちゃんに私は思わず頷いた。ストーキングが高度な愛情表現なのかは別として、私が積極性に欠けるという部分では自分でも納得がいくからだ。

「とりあえず、私が道場にストーキングする時はあなたも来なさい」
「え!?いいよ、遠慮します!」
「なに言ってるのよ、積極性が足りないって言ってるでしょ!?」
「でも!ほら、さっちゃんのストーキングの邪魔になっちゃうから」
「道場の時はいいわよ、どうせあのゴリラに毎回邪魔されるんだから」
「でも…そうじゃなくて」
「いいから、来なさい!積極性が足りないって言ってんでしょ!」
「で──」
「“でも”禁止!」
「…は、はい」

 無理矢理返事をさせられて、頷くように頭をぐいと下に向かされた。顔を上げた時にはもうさっちゃんの姿はどこにもなくって、私は唖然と辺りを見回す。仕事に行ったのか、銀ちゃんのストーキングに戻ったのか…。

 どうしよう、私ストーカーの仲間入りはしたくないんだけど。






20091221
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