いやらしいだなんて言う奴がいやらしい





 ドラッグストアで見つけた、イチゴ牛乳の入浴剤。それをお土産にと万事屋へ足を運べば、新八くんも神楽ちゃんも貞春もいなくて、私からのお土産をニヤニヤと嬉しそうに受け取る銀ちゃんがソファに座っているだけだった。

 浴室に銀ちゃんの鼻歌が響く。お湯の色はイチゴ牛乳そのもの、ピンク色した乳白色。イチゴ牛乳の香りがこれでもかというほど湯気と共に室内に充満していた。たった一袋の粉は、これでもかと言うほど忠実に、それ以上にイチゴ牛乳を再現していた。本当に、イチゴ牛乳を温めた中に浸かっているみたい。
 狭い浴槽の中で、向かい合うように膝を抱えながら座る私の目の前で銀ちゃんはにこにこしている。

「い〜い湯っだなァ♪」
「こんな真昼間からお風呂って…」

 銀ちゃんはイチゴ牛乳大好きだから、喜んでくれるだろうなあとは思ったし、喜ぶ銀ちゃんの顔が見たくて買ったのも事実だけど。だけどまさかこんな真昼間から、しかも一緒にお風呂に入ることになるとは思わなくて、夜に渡せば良かったかと少し後悔した。
 
「いーだろ、せっかくお前が買って来てくれたんだから」
「ほんとにほんとーに新八くんと神楽ちゃん帰ってこないんでしょーね」
「大丈夫だっつの。ん〜イイニオイ」
「ちょっ、飲まないでよ!?」

 お風呂のお湯を手に汲んで顔を近づける銀ちゃんの頭を叩けば、その勢いで銀ちゃんの顔は浴槽にパチャンとダイヴした。

「ん゛ば、ばっかやろ…鼻に入っただろーがァァァア!」
「ご、ごめん」

 飲まないように、と注意したつもりだったのに、逆に飲ませちゃった。鼻を赤くして、痛そうに涙目になる銀ちゃんに私は笑った。

「イチゴ牛乳の味した?」
「しねーよ!いくらイチゴ牛乳の匂いがプンプンしててもお湯なのは分かってんだよ!」
「だって銀ちゃんホントに飲みそうだったから」
「そう言うお前が飲ませてくれたよね」
「私は止めてあげたの」
「どの口がそれを言うか!」
「ちょっ」

 向かい合わせにいた銀ちゃんが突然私を抱き寄せた。イチゴ牛乳色のお湯が揺れて浴槽から少し溢れる。引き寄せる腕に抵抗するように、私は銀ちゃんの胸を押した。
 充満するイチゴ牛乳の香りの中に、銀ちゃんのオトコの香りがしたのだ。

「ちょっ、と、お風呂入るだけでしょっ」
「うんー?」
「まだ昼間だから!」
「この間もそんなようなこと聞いたケド、その後どうなったっけなァ」
「あのね…新八くんと神楽ちゃんもう帰ってくるんだからね!」
「こねーって、道場でお妙と遊んでんだろ」
「あーもう、ホラ髪洗ってあげるから上がって?」
「え、言われる前から銀さんもう上がってるけど」
「は?何が?」
「ナニが」

 にやりと口角を上げる銀ちゃんに「エロオヤジ」と心の中で悪態をつきながら呆れていると、あったかいお湯につかっているはずなのに、ガラガラと玄関の開く音が聞こえて一瞬にして私の背中が冷えた。

「ただいまアルよー!」
「あれ、二人ともいないんですかー?寝てるのかな」

 玄関から聞こえてくる新八くんと神楽ちゃんの声。私が来たときには新八くんも神楽ちゃんもいなかったから、私が来てることは知らないはずなのに…玄関にある草履でバレたんだ。
 あと1時間は帰って来ないと思ってたのに、とんだ計算違いだった。だからこんな時間から一緒にお風呂入るのよそうって言ったのに、神楽ちゃんが寝てからにしようって言ったのに!(それはそれで銀ちゃんのエロオヤジ度が増すだけなのは分かってたけど)

「オイオイ帰ってくんの早すぎだろアイツら」
「銀ちゃんが夕方まで帰ってこないって言ったんだよ!」
「大丈夫だーって、新八が気ィきかせて神楽つれて出かけるから」

 焦ってとりあえず浴槽から出ようとする私の腰に回した腕の力を強めて、銀ちゃんは何ともなげに、むしろ少しご機嫌なままそう言った。こんな状況になってもまだイチゴ牛乳の香りにご満悦のようだ。私はマダオじゃないからこんな状況困るのに!だって、もし新八くんが気きかせて神楽ちゃんと出かけてくれたとしても、それって新八くんには二人でお風呂入ってるのバレるってことだよね!いつも新八くんに「ほんっと教育に良くない人ですね!」って言われてる銀ちゃんと私まで同類になっちゃう、教育に良くない大人になんてなりたくない…!
 お願いだから新八くん気付かないで!そのままお買い物にでも行って…!

「寝るって…なにイヤラシイ妄想してるアルか」
「なっ…別にいやらしい妄想なんてしてないよ!寝るって、普通に昼寝の話ですゥ!」
「あ〜これだからチェリーボーイは困るねぇ、オトコとオンナが寝るって言ったら昼も夜も関係ないネ」
「チェリーボーイ関係ねーだろ!つうかいやらしい妄想してんのはどっちだよ!」

 うう、神楽ちゃんが確実に銀ちゃんに汚染されてる。私は睨むようにして銀ちゃんを見た。銀ちゃんは鼻の穴を広げながらイチゴ牛乳の香りを堪能しつつ、私の腰を撫でている。ほんとこのエロオヤジはいい加減にしろ!状況が分からんのか!
 私は銀ちゃんの手をつねって、新八くんと神楽ちゃんに聞こえないようにと小さな声を出した。

「ぎ・ん・ちゃ・ん!私このまま上がるから、銀ちゃんは脱衣所の窓から外でてパチンコ行ってました〜って装って帰って来て」
「ハァ?なンでそんなことしなきゃなんねーんだよ!それに風呂入ったばっかだろ、まだ体洗いっこもしてないもォん」
「もォん、じゃないから!神楽ちゃんも新八くんも帰って来てんの!」
「だーもう、分かったよ、いやらしーことはしねーから」

 そう言いながら銀ちゃんの手は腰から、するりと私の体をなぞって上がり胸に触れる。男は体と心が別の生き物だなんて言うけど、お前は体と心だけじゃなくて口まで別の生き物かァァアアア!ていうか体と心が一緒で口だけ別の生き物?いやもうそんなアホなこと考えてる場合じゃないし!
 私は額に筋が立つのを感じながら、銀ちゃんの後頭部にそっと手を添えて思い切り浴槽に押し込んだ。ガボガボと溺れる銀ちゃんの手が緩んだと同時に、銀ちゃんの頭に掴まるようにして私は浴槽から体を上げた。ゲホゲホと咳き込む銀ちゃんを背中に感じながら私は風呂場のドアに手を乗せる。出て行こうとすると、再び銀ちゃんの腕が私の腰に巻きついた。

「ゲホッ、こ、殺す気かァァァアアアアア!」
「イチゴ牛乳飲ませてあげただけです!」

 ドアから上半身を乗り出す私、浴槽に浸かりながら上半身乗り出して私の腰にしがみつく銀ちゃん。なんともマヌケな光景だったけれど、そんなこと気にしていられなかった。早くしないと新八くんも神楽ちゃんも私達を探しにここまで来ちゃう。

「銀ちゃんはパチンコ行ってて私ひとりでお風呂入ってたってことにするから、二人連れて買い物に行くまで出てこないでよ!?」
「つうか風呂ぐらい二人で入ったってイイだろーが!何がいやらしーんだよ!」
「実際いやらしーことしようとしてたでしょ!」
「コイビトどーしなんだから問題ねェだろ!」
「そういうこと言ってんじゃなくて!教育的に良くな…………

 ドアから上半身を乗り出す私、浴槽に浸かりながら上半身乗り出して私の腰にしがみつく銀ちゃん。
 そんな状態のまま、新八くんと神楽ちゃんに聞こえないようにと小声で話していたはずなのも忘れ、大声で言い合いしていた私達の耳に予想もしないガラガラ、というドアの引く音がした。
 私は固まりながらも音のした方、ドアへ顔を向ければそこには顔を真っ赤にした新八くんの姿。その後ろからは神楽ちゃんがひょっこり顔を出してニヤニヤしている。

「ほーら言った通りネ、昼も夜も関係ないアル」
「銀ちゃんのバカァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアア!!!」






20091217
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