それでもそれでもあなたが一番





「ねぇ銀ちゃんってさ…なんでさっちゃんになびかないの?」
「ハァ?さっちゃんてあの変態眼鏡女か」
「そう、スタイル抜群の美女さっちゃん」
「なに、お前俺の彼女じゃないの?なんで俺に言い寄ってる女褒めてんの?」
「だってさっちゃん可愛いじゃん、スタイルもいいし。銀ちゃんが嫌がってる意味分かんないんだもん」
「嫌だよ俺はあんな暴走ドM女は」
「なんで?銀ちゃんSなんでしょ?」
「色々あんだよ、SとMにもォ」
「ふーん、じゃあ月詠さんは?」
「なんでそこで月詠だよ」
「銀ちゃんの傍にいるスタイル抜群美女ふたりめ」
「ないないないない、あんな可愛げのねー女は」
「そこが可愛げのあるとこでしょ」
「え、お前ほんと何?なんで彼氏の俺に女進めてきてんの?別れたいの?遠まわしにそう言いたいの?やめて!銀さんそんなの察しないからね!遠まわしに言ったって気付かないから!かと言って直球で言ってくるのもダメだからな、お前のNGワードは“別れ”だからそれ含む言葉言ったら即アウトだから!」
「………何がアウトか分かんないけど」

 ただちょっぴり、銀ちゃんの周りには美人な人とか、私から見て素敵だなって思う女性が多いから悔しくて、嫉妬しちゃって。そんな中でどうして私と付き合ってくれてるんだろうって不安になって、ちょっと意地悪なことを言っちゃっただけ。
 予想外にも嬉しい言葉が返って来たから悔しさも嫉妬心も不安も、全部全部どっかいっちゃったけど。

「まあでも確かに、あいつらスタイルは良いよな。月詠の胸なんか結構良い弾力が…」
「だんりょく?」
「あ、ありそうだなァ、と!」
「違う、今のは絶対違う!なんか思い出してた!何その手つき!」

 私のテンションが一気に下がるのと同時に、何を思い出していたのか軽く宙を彷徨っていた銀ちゃんの手もビシッと下げられた。今のは妄想なんかじゃない、女の勘なんか使わなくたって全然分かる、今のは絶対にリアルな過去を思い出してた!!銀ちゃんもやっぱりスタイル抜群の美女がいいんじゃん!私を喜ばせてくれたさっきの言葉は一体何だったの!?

「いやいやいや違ェって!コレはその、男としてついついしてしまった妄想的な」
「ぜぇーったい違う!信じらんない!触ったことあんの!?」
「マジで違ェから!つうか先にあいつらのこと進めてきたのはお前だろ!」
「浮気しろだなんて意味じゃない!」
「浮気なんてするわけねーだろ!」
「どうだか、この間は吉原にいりびたってたみたいだし、日輪さんとも仲良いみたいだし?全蔵さんがタダ券もらったって言ってたからどうせ銀ちゃんももらってんでしょ、吉原の救世主サマ!」
「かっわいくねェーな!」
「どうもすいませんね、さっちゃんや月詠さんみたいじゃなくって!」

 可愛いくないのなんて、自分が一番良く分かってるのに、それでも銀ちゃんだけは私のこと可愛いって言ってくれて、そう思ってくれてると思ってたのに。やっぱり男は皆美女がいいんだ!…私だって格好良い人好きだけど。だけど浮気なんてしないもん!

「収入なくて家でいっつもダラダラしてて子供みたいにジャンプに夢中で糖尿で天パで白髪でマダオでも私は銀ちゃんが一番なのに!」
「オ…オイィィイ!なんか喜びずらいんですけどォ!」
「うるさいバカ…うぅ男は結局みんな浮気するんだ、沖田くんの言う通りだ」
「総一郎くんんんん何変なこと吹き込んでくれちゃってんの、ていうかやめて、銀さん浮気してないから!しないから!」
「銀ちゃんはドSだから常にメス豚を5匹は飼育してるって言ってたもん」
「ちょ、なにそれ何なの!んなわけねーだろ信じんな!」
「それに比べて俺はピュアな青年だから浮気もしないしメス豚も飼ってないから俺と付き合いやしょう幸せになれやすぜ、って沖田くん言ってたけどこれも沖田くんの言う通」
「やめてェェェェェエ!なワケねーからメス豚飼ってんの絶対あっちだから、あいつの中身真っ黒だから!」

 結局お前も高収入で美少年でサラッサラの亜麻色の髪した男がいいのかァ!なんて私の肩を銀ちゃんは揺すってくるけど、そのセリフそのままそっくり銀ちゃんにお返ししたい。

「つうかなんで総一郎くんの言うこと信じてんの、お前の一番は俺なんでしょ、そしたら俺の言うことを信じろよ」
「…俺の言うことを信じてるからさっきの発言に怒ってるんですけど」
「だァーかァーらァー、そんなに言うんだったら月詠に聞いてみろよ、浮気なんかしてねーから」
「………」

 月詠さんは浮気するような人じゃないだろうし、銀ちゃんだって浮気なんてしないと思うけど…いや、やっぱり可能性が0とは言えないけど。あの手の動きはやっぱりなんか怪しかったけど、私の被害妄想も少し入ってるような気がして私はそれ以上言うことをやめた。銀ちゃんを疑うことも、月詠さんを疑うこともしたくないし、信じてるし。ああでも沖田くんと前に話した時も私そう言って、そういう女に限って騙されるんでさァ、なんて言われたっけ。

「なんだよ、その目は。信じてねぇの?」
「…そうじゃないけど」
「まったく、お前の言うその美女に俺がなびかねー意味が分かんねーのか」
「…分からなくないけど」
「いーや、分かってねェみてーだからちゃんと言ってやる。耳の穴かっぽじってよーく聞けよ」

 銀ちゃんは私と向き合って、珍しく真剣な目で私を見つめた。今度はどんな嬉しい言葉をくれるんだろう。ドキドキしながら私は銀ちゃんの言葉を待った。

「スタイル抜群でもなく美人でもなく料理もそこそこ、Mっ気もそこそこで可愛いげがなくとも俺にとっちゃお前がいブフォォォオ!」
「沖田くんと付き合う!!」

 銀ちゃんの言いたいことは分かるけど!そんな言い方しなくたっていいじゃん!料理だって頑張ってるのに、そこそこって何!?Mっ気そこそこって何!?
 殴り飛ばした銀ちゃんは放置して、私は床を踏み鳴らし玄関へと向かって草履に足を通した。

「…っちょ、アウトっつってんじゃん!」
「“別れ”とは言ってないです!」
「連想させる言葉もアウトなんだよ!」
「…沖田くんは銀ちゃんと違って私のことすっごい褒めてくれたんだから!」

 居間から聞こえる銀ちゃんの声に返事をしながら玄関を開けて、伸びているだろう銀ちゃんに捨て台詞を吐いてから私は乱暴に玄関を閉めた。玄関の閉まる音に、まさか本当に出て行くとは思わなかったらしい銀ちゃんの慌てた声が私の耳に入る。

「総一郎くんのトコなんかに行ったらお前、調教されるっつの!」

 なに調教って…私動物じゃないんですけど、まさか私のことメス豚だとか言いたいわけ?ムカツク!
 銀ちゃんが追っかけてくる前に逃げよう、と万事屋の階段を降り走り出そうと足を踏み出すと、私のすぐ脇に一台のパトカーが止まった。止まったパトカーの窓が開いて見えたのは、あの眩しい笑顔の美少年沖田くんだった。あまりのタイミングの良さに私は運命的なものすら感じてしまいそうになった。

「あれ、旦那と喧嘩でもしたんですかィ?」
「そう」
「俺の言う通り浮気でもしてたんで?それともメス豚飼育?」
「知らない、どっちもなんじゃない」
「てーことは俺に幸せにしてもらいに来たわけで?」

 満面の笑みで私を見つめる沖田くんに返事も忘れて思わずキュンとしていると、手にジャラリと不自然な重さがかかった。経験したことのない重さに冷たさ、何なのかと自分の手を見下ろしてみれば両手に鈍く光る鉄の輪がふたつ。
 …え?どういう…こと?私の両手にはめられていたのは紛れもなく本物の手錠で、わけがわからず沖田くんを見てもそこには相変わらずの天使のような笑顔があるだけだった。え…なに、なんで?

「沖田く」
「しゃがんでワンと言いなせェ」
「…え?ワ、ン?」
「声が小せェ。ご主人様に忠誠を誓うように大きな声でワン、でさァ。それとも猫をご所望で?」

 軽く頭がパニックになって何も考えられない、答えられない私に沖田くんはニタリと笑って、窓から腕を伸ばして自分に近づけるように私の腕を引いた。

「あァそれとも、喋ったらお仕置きの無口プレイでも──
「するかァァァァァアアアア!!!」

 沖田くんの言葉を遮って聞こえたのは銀ちゃんの怒声と、手錠を突き刺すように現れた木刀。私の両手を繋ぐ鎖が音を立てて切れた。

「ちょいと旦那ァ、手錠も安くないんでさァ壊さないでくだせーよ」
「お前こそ人の女の人格壊そうとしてんじゃねェェエ!」
「何言ってんでさァ、旦那も好きでしょそーいうの」
「お前と一緒にすんなァァア!」

 まさか本当に調教されそうになるとは思ってもみなかった。というか今目の前にいる沖田くん、私初めて見るんだけど…え、これが本当の沖田くんなの?信じられない…。
 私は自分の手に光る壊れた手錠と、沖田くんとを交互に見つめた。あんなに可愛い笑顔でなんてこと…

「私やっぱり銀ちゃんが一番だわ」
「それ今言うセリフ!?」





ちゃんちゃん






20091028
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