可愛い酔っ払いのお帰りです





 久しぶりに入った日中の仕事の疲れを体が癒そうと深い眠りについていた真夜中。突然玄関から女の叫び声がした。そのことにビクリと驚きながら目を覚ますと、玄関から聞こえる声は呂律の回らない大声で「ぴんぽおーんぴんぽんぴんぽんぴんぽおおおーん」などと言っている。なんのお化けだ、と最初びびっていたがすぐに聞き覚えのある声だと気付き、それが「ピンポーン」とインターホンの真似をしているんだと理解した俺は面倒くさいが仕方なく布団から抜け出して玄関へと向かった。
 こんな時間に何このテンション。しかも女の子が一人で歩くんじゃねえっつの。彼女想いの銀さんは心配で心配で眠気も吹っ飛んだっつの。うんそう、決してお化けと勘違いして怖くて目が覚めたわけじゃないからね、心配で目が覚めたの。
 そして俺が玄関の戸を開けるまで延々と「ぴんぽおーん」は続いた。

「ぴんぽおーんぴんぽんぴんぽんぴんぽおーん坂田さあーん坂田金時さあーん!ん?あれ?金ちゃん?なんか違う?いや合ってるか、坂田金た」
「オイィ!今なんて言おうとしたァ!」

 女の子がそんなこと言っちゃダメでしょォォォォオオ!
 ガラリと開けた戸の先にはトロリとした目に蒸気した頬の彼女が驚いたように目を見開いていた。その目はすぐに微笑みに変わり、そして怒りに変わった。

「金ちゃあん!何度もぴんぽんしてるのに出てくるの遅いー!」
「お前ぴんぽん押してんじゃなくて言ってただけだろ!しかも今何時だと思ってんだよ、もう寝てたっつの!つうかこんな時間に危」
「寝てた…?女連れ込んで…?」
「は?なンでそーなる、普通に寝て」
「普通に…?女連れ込むのが日常…?」
「ちょ、なにその被害妄想ゥ!ったく、お前酔って」
「酔わせて連れ込むの!?」

 顔を見てすぐに酔っているのだと気付き、そんな状態でこんな時間にふらふらしていただなんて危ねぇな、と本当に心配している俺をよそに、彼女はワケの分からないことを言って怒っていた。俺の言葉を途中で遮り、被害妄想をして目に涙まで浮かべている。
 まったく酔っ払いは…まともに相手に出来ねーな。

「はいはい連想ゲームですかァ。とりあえず入れ、こんな時間に騒いでたらご近所メーワクだろ」
「女連れ込んでるから私が来たのが迷惑!?」
「だーもう!やめろその被害妄想連想ゲーム!迷惑じゃねーし女連れ込んだこともねーよ!」
「でも…ぴんぽんしたのにすぐに出てきてくれなかった」
「だから寝」
「ね?」
「…これ言ったらまた会話振り出しに戻るんじゃねぇのか」
「なに?」

 「寝てた」と言えば冒頭の「女連れ込んで…?」に戻るんじゃねーのか。また被害妄想連想ゲームが延々と続くのは勘弁して欲しい。涙目で見上げてくる彼女の瞳を見つめながら被害妄想に走られないような言葉を俺は探した。

「あー、だからな、すぐに出てこなかったのは…お前をじらしてたんだよ」
「じらす?」
「そ。すぐ出て行ったらお前が俺のこと“早く出て来て”って思う時間減るだろ、もっとお前に銀ちゃんはやくーって思ってほしかったの」
「金ちゃん…」
「いや銀だからね、てんつけて。つーかとりあえず入っ」
「ひどいよ!!」
「…はい?」

 相変わらず俺の名前を間違っている彼女に軽く呆れながらも、とりあえずは被害妄想連想ゲームは終わらせたと思い、家に入れようと腕を引けば全力で振り払われうるんでいた瞳からはついに涙が落ちた。
 オイオイ今度は何ですか、銀さん何か悪いこと言っちゃいましたか。

「私、いっつもいっつも、想ってるのは金ちゃんのことだけだよ!?」
「な、なに急に」

 被害妄想連想ゲーム再び、かと思いきや彼女の口から出たのは愛の告白。しかもこんな夜中にさっきまで以上の大声で。一体どんな酔っ払い方してんだよ、と思いつつも俺の頬も彼女と同じでほんのり赤くなっているだろう。

「なのに銀ちゃんのこと想えだなんて、ひどいよ!私は金ちゃんのことだけを想ってるのに!」
「いやだから俺は金ちゃんじゃなくてぎ」
「私、金ちゃんのことこんなに愛してるのにィィィイ〜!銀ちゃんのこと想えだなんてひどいよ、私達の今までの付き合いはなんだったの!?」
「だーーめんどくせー!」

 なんで彼女が泣き叫んでいるのかと思えば、どうやら彼女の中で俺は“金ちゃん”らしく、“銀ちゃん”は他の誰かのようだった。ほんっっとめんどくせー!と思いつつ俺はニヤけながら彼女を思いっきり抱きしめた。顔を胸に押し付けて、これで静かになるだろうと思ったのに、まだ泣き続け俺の背中にしがみつきながら叫んでいた。

「ひっ、ひどいぃぃい〜なんで、めんどくさいとか言うくせに抱きしめてくるの、銀ちゃんのこと想えとか言ったくせに、なんで抱き」
「オメーが可愛いからだろ」
「でも、銀ちゃんを想えって私にっ」
「あーもう、あれだよ、俺の名前実は坂田金銀時っつーんだよ、うっかり銀ちゃんって言っちゃっただけ」

 俺が悪いのゴメンネーと謝れば、彼女は驚いたように顔を上げた。頬も目も真っ赤で、涙はボロボロと溢れ俺の甚平まで濡れている。こんな時間に、ワケの分かんねー酔っ払い方して、ほんっっとめんどくせーなと思いつつも俺の頬はやっぱり緩んでしまう。
 これでようやっと大人しくなるかと思ったのにも関わらず、開いた彼女の口が発した言葉は───

「えっ!?金ちゃんの名前って坂田金た」
「オイィィィィイ!」






20091020
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