真夜中のラブコール





 真夜中に鳴り出した携帯。その着信音に起こされて私は目が覚めた。こんな時間に誰だろうと思いディスプレイを見ると土方さんからだった。寝ぼけた頭のまま私は携帯を耳に当てた。

『フッざけんなよ!!』
「っ!?」
『今すぐに来い!五秒以内だ!』
「っえ」

 突然大音量で響く土方さんの怒声に私の頭は一気に覚醒した。そして言葉を一言も声を発せられないまま電話は切られた。

「…え?なに」

 あまりの突然のことに驚くしかない。“フッざけんなよ”って、私、土方さんに何かしたっけ。思い出してみても何も思いつかない。少し焦りながらも何かあったかと思い出しているうちに、土方さんの最後に言った言葉が頭をよぎった。“今すぐに来い!五秒以内だ!”

「五秒!?」

 えっ、五秒ってなに!?五分じゃなくて五秒!?いくら同じ屯所内にいるって言ったって、五秒なんて無理、とか言ってる暇もないし!私は慌てて起き上がって部屋を出た。何もした記憶がないけれど、あれだけ怒鳴るってことは私何かしでかしちゃったんだ。どうしよう、私が怒鳴られることはまだしも何か取り返しのつかないことをしてしまっていたら。

「すみません!」

 ノックする余裕もなく私は土方さんの私室の障子を開けた。五秒は無理だったけど、多分五分はぎりぎりたっていないかと…そう思いながら土方さんを見れば、驚いたような顔をして私を見ていた。

「なんだお前」
「あのっ、私何かしましたでしょうか!」
「寝ぼけてんのか?」
「え?」
「ひでぇ寝癖だな」
「えっ」

 そう言えば慌てて起き上がってここまで来たんだった。バッと頭に手を当てながら、ふと視界に入った浴衣の裾。よくよく見てみると浴衣は肌蹴、ひどい格好をしている。私の髪がどうなってるかは鏡を見なければ分からないけれど、浴衣がどうなってるのかは見て分かる。なんで土方さん髪の毛よりこっちを先に注意してくれないの…!?それほど私の髪の毛、すごいことになってるってこと!?それでも私は髪なんかよりも先に浴衣をなおした。当然でしょ、だってこんな肌蹴た格好で土方さんの前に立ってるなんて恥ずかしすぎる…!でも、こんな格好していても土方さんに注意すらされないなんて、土方さんにとって私はなんとも思わないような存在だっていうことなのかな…なんて悲しくなりながらも、自分がここにいる意味を私は思いだした。

「寝ぼけてねぇでさっさと部屋戻れよ」
「え!?」

 それだけ告げ、土方さんは机へと向き直ってしまった。

「あの電話なんだったんですか!?」
「ハ?なんだ電話って夢ン中の話か」
「違いますよ!それで私起きたのにっ」
「…なに?」

 くるりとまたこちらを振り返って私を見る土方さんは怪訝そうな顔をしていた。私がしたいくらいです。慌てて飛び起きたっていうのに、一体どういうこと?

「電話ってどういうことだ」
「私が聞きたいんですけど…土方さんが五秒以内に来いって言ったじゃないですか」
「……」

 難しそうな顔をしてから、土方さんは何か気付いたのか怒りの形相で携帯をいじりだした。そして携帯の画面を私に見せてきた。

「これは総悟の番号じゃねぇのか」
「…私のですけど」
「総悟ォォォオオオオ!!!!」

 叫んだまま、土方さんは部屋を走って出て行ってしまった。ポツンとひとり残された私。

「なん…なんなの!?」

 土方さんの携帯の画面に映されていたのは総悟くんの名前。けれどその下に表示されていたのは私の携帯の番号だった。総悟くんがイタズラしたのか、土方さんが総悟くんへとかけた電話が私にかかってしまったんだろう。
 それにしてもなんなの!?私、好きな人の前に起きたての姿を晒すことになった上に寝癖がすごいらしいし、肌蹴てたのに注意もされないで、何も言わずに置き去り!?なんか私に謝るでもないけどフォローのひとついれてから総悟くんの所に行ったって…フォロ方どこ行ったのよ!
 怒ってみたり、悲しくなってみたり、怒ってみたり、ひとり呆然と立ち尽くしていると誰かの気配がした。振り向く前に声がかけられ、それが退くんだと気付いた。

「あれ、どうしたの?こんな時間に」
「退く…」
「ぷっ、すごい寝癖だね」

 プチリ、と私の中で何かが切れた音がした。気が付いた時には護身用にと近藤さんが教えてくれた右蹴りが退くんの足に命中していた。

「痛っ!?」
「土方さんのバカー!」
「なのになんで俺!?」

 私の恋はまだまだ、まだまだのようです。足を抱えながら涙目になる退くんを見て、私の方が泣きたいと思った。
 
 もういいっ、用がないなら私寝ますからね!






20090529
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