アイツの気持ち





 女って生き物は、ほんと分からねェ。

 山崎と見廻りを終えて屯所に戻ってみれば、玄関で水撒きをしているアイツと、土方のヤローがいた。近付く土方に気付いたアイツは水を撒くのを止め、笑顔を向けた。ご苦労様です、とでも言っているのだろうか、会話は聞こえないものの二人で何か話ているのが見える。アイツがニコニコしているのはいつものことなのに、どうしてか土方に向ける笑顔は違うように見えるのは俺の気のせいなのだろうか。どす黒いものが胸の辺りでぐるぐると周り、吐き気がする。

「山崎ィ」
「はい?」
「アイツの好きな奴」
「あぁ、分かりやすいですよね」

 俺が全部を言い終える前に山崎は笑いながらアイツを見て答えた。分かりやすい、ね。じゃあなんだ、アイツは土方のヤローが好きだってかィ?ふざけんな、なんでよりによってあのヤローなんだ。
 何か言葉を交わし屯所に入った土方を見送ったアイツが振り返り、今度は俺達に手を降った。にこにこと、笑顔を向けて。

「総悟!退くんもおかえり!」
「ただいま。水まきご苦労様」
「いえいえ、こちらこそ見回りお疲れ様です。それよりねっ、総悟!」

 嬉しそうにしてアイツは俺の腕を引いた。こんな風に俺に笑う顔は特別で、俺にだけだと思っていた俺はバカだったのだろうか。俺に向ける笑顔は違う、そう感じるのに土方に向ける笑顔もまた違うものに見えるのは何でだ。自意識過剰?土方への劣等感?それとも真実?アイツの特別はどれなんだよ…。
 分かりやすいなんて抜かす山崎に問い詰めたかったが、そんな格好悪いことは出来なかった。イライラとする俺に気付かずにアイツは笑顔で話しかけてくる。

「この間テレビで見たおせんべい覚えてる?」
「あー…なんかあったな」
「原田さんが出張先で買ってきてくれたの!だから今から一緒におやつに食べよう、ねっ退くんも!」
「あ、俺は遠慮しとくよ」
「え、どうして?すっごい有名なとこのなんだよ」
「ちょっと報告書たまっててさ。沖田隊長と二人で食べておいでよ」
「そっかァ、じゃあ後で差し入れに持ってくね。総悟行こっ」

 たかがせんべい、何がそんなに嬉しいんだか。そんな風に思っても、急かすように手を引かれて満更でもない俺は大馬鹿だ。いつか俺は、俺に向ける笑顔と土方に向ける笑顔のどちらが特別か気付くことが出来るんだろうか。気付けたとして、俺は笑ってんのか泣いてんのか。泣いてるなんざまっぴらご免だ。

 一度俺の手を引いたなら、二度と離せないってこと思い知らせてやりまさァ。






20090630
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