両手で迎えて





「おじゃましまーす」

 ガラガラと万事屋の玄関を開けたのに誰の返事もない。いつもなら新八くんや神楽ちゃんが出迎えてくれるのに。本当は私が一番出迎えて欲しい人、銀ちゃんが出迎えてくれるなんてことはないから、もしかしたら皆でどこかお出かけしているのかもしれない。にしても、家の鍵をかけて出かけないなんて、なんて無用心。いくら盗まれるものがないにしたって…帰ってきたら注意しなきゃ。

 寒い中ここまで来たのに誰もいない上に、皆でお出かけしているのに乗り遅れた寂しさをまぎらわすために私はドスドスと床を踏み鳴らして部屋へと入った。万年金欠の万事屋がこんな早い時期から暖房を入れているわけもなくて、外よりは暖かいとはいえ部屋の中も冷えていた。勝手に特製ミルクティーでも作って飲んで暖まって、皆が帰ってきたら自慢してやろうか。…なんて、体を温めることを考えていたのに皆のことを考えていたらなんだか寂しくなってしまった。なんで誰もいないの、早く帰って来てよ。私の足は自然と銀ちゃんの寝室へと向かっていた。お布団に入ればきっとすぐに体は温まるし、銀ちゃんの匂いを感じたら少しは寂しさをまぎらわせるかな、なんて思って。ハイそこ、キモいとか言わなーい。恋する乙女は少し大胆なんです、好きな人の香りに包まれたかったりするんです。

「っ、…いるんじゃん」

 布団に飛び込もうと、寝室の襖を開けて目に入ったのはすやすやと眠る銀髪頭。いないものだと思ってたから一瞬驚いたものの、銀ちゃんが一人でこんな時間まで寝ているなんてこと、よくあるものだからすぐに平静に戻ってしまった。今はお昼過ぎなのだけれど、まさか朝も昼も食べずに寝ているのだろうか。私…おじゃましますって大きな声で言ったし、足音だって立てて入ってきたのに。どうして銀ちゃんは気づいてくれなかったの?皆はでかけちゃって一人ぼっちで寂しい想いをしたのに、どうして銀ちゃんは起きてくれなかったの?どうして銀ちゃんは…

 銀ちゃんが悪いことなんて本当はないってこと分かっていたけれど、どうにも私の心が収まらなかった。何かしてやろう、と思いついたのがコレ。私は冷え切った手をすやすやと眠る銀ちゃんの首に当てた。

「ッッッ!?」

 私の予想通り、すやすやと眠っていた銀ちゃんは声にならない悲鳴をあげて目を覚ました。剥ぎ取るように私の手を首から離して、驚いた顔で私のことを見ている。

「ななななっ、なにしてんですかお前はッ!」
「だって…」
「び、ビックリして口から心臓でるところだったぞコノヤロー!」
「遊びに来たのに銀ちゃん起きてくれないんだもん」
「起こし方ってもんがあるでしょォォオ!」

 もっと優しく、甘く耳元で囁くとかさァ!なんて話す銀ちゃんをシカトして私は顔を反らした。遊びに来ても出迎えてくれないし、気づいてくれない銀ちゃんに私はどうしようもなく寂しくなった。それに重なるように、私の気持ちに気づいてくれない銀ちゃんのことを想うと悲しくなった。気づいて欲しければ自分から伝えれば良い。自分が悪いことは分かっているけど…

「ちょっと聞いてんですかー」
「聞いてるよ。次からは首じゃなくて耳にすれば良いんでしょ」
「違ェっつーの!ったくお前は…そんなに寒ィなら」

 銀さんが暖めてあげましょーか

 そんな言葉が聞こえて驚いていると、掴まれていた手が布団に引き込まれた。それに続くように私の体も。銀ちゃんに包まれて暖かくなっていた手が一気に熱を帯びて、それが全身に伝わるように私の体は一気に熱くなった。もちろん、顔も。

「ちょちょちょちょっ、なにすん」
「何って、寒くて銀さんに暖めて欲しかったんだろ?」
「ち、違」
「あれれー?顔まで真っ赤だけど、暖めすぎちゃった?」
「ちょ、ふざけないでよっ」

 組み敷かれるように銀ちゃんに覆いかぶさられて顔を真っ赤にしないわけがない。寒さなんて一気に吹っ飛んで、今すぐ外に飛び出したいほど。というか今すぐここから逃げ出したい!口から心臓が出そうなのは銀ちゃんじゃなくて私だよ…!ここから逃げ出そうと掴まれた手を振りほどくようにもがくと、新八くんの声が聞こえた。襖に顔を向けるとドサリと買い物袋が落ちた音がした。

「なにやってんですかァァアアア!」
「おいおい新八、ヤボなこと聞くんじゃねぇよ。ナニに決まってんだろ」
「なっ、違うでしょ!助けて新八くん!」

 その後部屋に入ってきた神楽ちゃんに私は無事助けてもらい、銀ちゃんは神楽ちゃんの華麗なる跳び蹴りを食らっていた。せっかく目を覚ましたのにまた少しの間眠ってしまうことになったけれど、私の心臓を抑えるのにはちょうど良い。

 ねぇ銀ちゃん、私のこの初心な気持ちに早く気づいてよ。






20081109
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