江戸はクーラーが必需品





 俺は原付を飛ばして炎天下の中、ジャンプを買いに行った。そのついでにと彼女の家へと足を運んだのだが彼女は家におらず、俺はまたギラギラと光る太陽の下、万事屋へと原付を走らせていた。ここ一週間ほど彼女の顔を見ていない。あいつは一体何をしているんだろうか。旅行に行くなんてことも聞いちゃいねーし、まさかこの暑さで倒れてるわけじゃねーよな?なんて、毎日のように俺の所に来ていた彼女がフと来なくなったことに寂しさや不安を感じていた。ジャンプ買うついで、なんてーのは口実でしかない。(日本男児はシャイなんですよコノヤロー)ちょうど信号でバイクを止めた時、そんな思いが頂点に達し、やはりもう一度引き返して彼女の家に行こうと俺は決意した。しかしその瞬間、俺の彼女が楽しそうに笑う声が俺の耳に響いた。この暑さで幻覚ならぬ幻聴か?なんて考えつつも辺りを見渡してみたが路上には彼女の姿はない。けれどまた、笑う声が聞こえた。あいつの声だ、間違いねぇ。聞こえた方を辿り、顔を向けて見るとそこにはパトカーを運転している総悟くんがいた。そしてその隣には楽しそうに笑う俺の彼女。…え、俺の彼女?なにこれ幻覚?

「あはは!総悟くん土方さんにそんなことまでしたの!?」
「こんなん全然序の口でさァ」

 って幻覚じゃねェェェエ!!

「オイィィィィィィ!?そこで何してんのォォォオ!?」
「アレ、旦那じゃねーですかィ。この炎天下の中、原付なんてご苦労なこって」
「いやほんと原付は暑くて…って違うでしょォォオ!?隣に座ってるの誰!?」
「誰って…嫌ですねぇ旦那、この暑さで自分の彼女を忘れちまったんですかィ?」
「えぇー!?銀ちゃんひどいよ!」
「ひどいのはお前だァァア!ここんとこ来ねーと思ったら総悟くんと浮気!?」
「え、浮気?違うよーなんでそんな」
「じゃあなんで一週間も来てなかったんだよ!」
「だって銀ちゃんとこクーラーないから暑くて」
「暑くて!?」
「うん、そう暑くて」
「いやなにサラッと答えてくれちゃってんの!?暑くて!?」
「暑くて」

 さも当然かのように頷きながら「暑くて」と言う彼女の顔を見て俺は眩暈がした。暑さのせいか?いやいやいやいやいや違うだろ!!

「旦那もクーラーくらい買わないと熱中症で死にやすよ。多いんでさァ、そーゆー年寄り」
「これ白髪じゃないからね!?ていうか暑くてってなんだそれは!お前…ちょ、降りろ!」
「ええ!?嫌だよ、車の中クーラー効いてて涼しいし」
「ふっざけんな、“暑くて”が理由で浮気だなんて俺は許さねーぞ!」
「だから、浮気じゃない…って、銀ちゃん!?」

 総悟くん越しに大声を出し彼女に怒鳴れば頭がフラリとした。やべ、メットかぶってねーからマジで熱中症か。白くなる視界の中、車を降りて来た彼女の姿が見えた。遠のく音の中で車のクラクションが盛大に響いて、俺のことを呼んでくれているであろうあいつの声が聞こえない。そのまま俺は意識を飛ばした。

「ぎ、銀ちゃん!しっかりして!」
「あーあー旦那、マジで熱中症ですかィ」
「ちょ、総悟くん余裕かましてないで車に乗せるの手伝ってよ!信号変わっちゃったから後ろの車うるさいし!」
「あんなんバズーカで一発…」
「また土方さんに怒られるってばー!!早く銀ちゃん車に乗せて、私原付よかすから!」
「しょーがねーですねィ…よっと」
「総悟くん、急いでスモールカメラまで行って!」
「アレ、旦那を先に万事屋まで運ばなくていいんですかィ?」
「銀ちゃんち蒸し風呂なんだもん!車の中の方が涼しいよ」
「年々暑くなるっつーのによく生きてこれやしたね」
「本当だよ、扇風機だけなんて…。クーラー買うために真選組でバイトさせてもらったっていうのに浮気だなんて」
「俺はかまいやせんが?」
「え、マジでか。私も総悟くんなら…」
「ちょっとォォォォォオオオオオ!?」
「あ、銀ちゃん起きた」
「なんでィ旦那、空気読んでくだせぇよ、KYですぜ」
「KYはお前だァァアアア!これ銀さんお相手のお話なんですけどっ!彼氏は銀さんですよね!?」

 クーラーがないってだけで彼女をとられてたまるか!ていうかクーラーがないってだけで何この話の展開!?






20080819
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