Found out mine!





 サンジの腰に腕を回して、胸に顔を押し付けるようにして私は抱きついた。ゆっくりと、たっぷり息を吸い込む。タバコの香りがする。もう一度、ゆっくりと、たっぷり私は息を吸い込んだ。タバコの香りの中から、サンジの香りがした。私はこうして、タバコの香りの中からサンジの香りを探すのが大好きなのだ。最早タバコの香りなのか、サンジの香りなのかわからないような香りの中から、サンジだけの香りを探すの。今日は二回目でサンジの香りを見つけられた。とっても上出来。前は十回目でようやく見つけたこともあるくらい。

「またかいお嬢さん」
「うん、今日は上出来」
「もう俺が見つかった?」
「うん、二回目で見つけた」
「そりゃ上出来だな」

 ゆるりと頭を撫でられて顔を上げれば、サンジはいつものように呆れたような、でもどこか嬉しそうな、そんな笑顔を私に向けていた。私は上機嫌で、サンジに笑顔を向ける。いつもは四回か、三回目で見つけることが多いのだ。

「サンジがタバコ吸いすぎるから、なかなか一回で見つけられないんだよ」
「そんなに俺はタバコ臭いのかよ」
「うん」
「うんって…」

 心外だと言わんばかりに眉をひそめて、サンジは自分の腕の匂いを嗅いだ。身だしなみに気をつけるサンジだから、私の言葉は本当に心外だったんだろう。身だしなみに気をつけるけど、料理の香りを妨げるからとサンジは香水をつけない。その前にタバコはどうなのって話だけど。だからサンジの身体からは、さっきまで仕込みしていた料理の香りちょっぴりと、たくさんのタバコの香りとその中に隠れているサンジの香りがするのだ。

「あんまり臭くねェタバコ選んでるつもりだったけど、これ臭いか?」
「ううん、好きだよ」
「どっちだよ」

 今度は私の頭にチョップが降って来た。私は全然痛くないチョップに促されるように首を下げて、もう一度サンジの胸に顔を押し付けて息を吸い込んだ。うん、タバコの香りばっかり。だけど全然臭くはないよ。そんなこと気をつけてるなんて知らなかったけど、サンジが気をつけてる通り、サンジの吸ってるタバコはタバコ特有の臭みがない。だからかな?タバコの香りは嫌いだけど、サンジのタバコの香りは好き。それともサンジのだから、かな?

「そんなこと気をつけるくらいならタバコ吸うのやめればいいのに。身体にも悪いんだから」
「お?俺のこと心配?」
「でもタバコ吸うのやめちゃダメね」
「おいおい、だからどっちなんだ」

 私はもう一度顔を擦り付けて、思い切り息を吸う。タバコの香りの中に、見つけたサンジの香り。

「だって、サンジの香りを知ってるのは私だけでしょ」

 みんなみんな、サンジのタバコの香りに惑わされて本当のサンジの香りを知らない。サンジの香りを知ってるのは、見つけられるのは私だけでいいんだから。

「早く一回で見つけられるようにならないかなァ」
「じゃあ俺はもっとタバコを吸わねーと」
「なんで?いいよそれ以上吸わなくて!やっと二回で見つけられるようになったのに」

 今のままで十分なのに。私以外のみんなはサンジの香りを知らないし、私はサンジの香りを二回で見つけられるようになってるし、これがベストなのに。どうしてもっと見つけられなくなっちゃうような、意地悪をしようとするかな。それに今以上に吸うなんて、本当に身体に悪いよ。拗ねた顔でサンジを見上げれば、いたずらを思いついた子どものような、口角を上げて私を見下ろすサンジの笑顔。

「一回で見つけられちゃ、すぐにが俺に抱きつくのやめちまうだろ?」

 またゆるりと頭を撫でられた。みんなみんな、サンジのメロリンな紳士姿に惑わされて、本当のサンジを知らない。本当のサンジはちょっぴり意地悪なんだよ。だけど全部、ぜーんぶそれは私に向けられた優しさなの。優しい意地悪をするサンジを、誰も知らないでしょ?だって、そんなサンジを知ってるのは私だけでいいんだから。

「いっぱい吸ったって、私は一回で見つけられるようになるんだから」
「じゃあのせいで俺は肺がんだな」
「うちには名医がいるじゃん」
「診療受けながら吸い続けろって?」
「ふふ」
「オイ、笑い事か」

 そして私はもう一度、サンジの胸に顔を埋めて大きく息を吸った。ばかだねぇサンジ。一回で見つけられるようになったからって、私がサンジの香りを身体いっぱいに吸い込むことを、一回で満足するとでも思ってるの?
 それを告げようと顔を上げれば、サンジの背中越しにナミの声が聞こえた。コーヒーが飲みたいらしい。サンジは首をぐりっと後ろへ向けて「今すぐ〜!」と可愛らしい声を出している。私はサンジの腰に巻いていた腕を解いて、一歩後ろへ下がった。

「じゃあ私はカフェオレね」
「一緒にキッチンに来ないのか?」
「うん、お日様の香りのするところで待ってるから持って来て」
「お日様の香り?芝生甲板で日向ぼっこでも?」
「うーん、甲板じゃなくてトレーニングルームかもしれない」
「は?それがなんでお日様の香りのするところなんだよ」
「だってお日様の香りするんだもん。じゃあそこにいるから」

 私はぴらぴらと手を振ってサンジに背を向けた。さっき芝生甲板で寝てるのを見たから、多分そこにいると思うけど。そう思いながら私は甲板へと足を向ける。そこに行けばお日様の香りがするから。今日は雲ひとつないし、いつも以上にお日様の香りがしそう。サンジは私のなぞなぞのような言葉に考えこんでいるのか、その場を動く足音がしなかった。サンジから私が見えなくなるであろう直前、サンジが叫んでドタドタと響く足音が私に届いた。まあ、このくらいの意地悪は私にだって許されるでしょう?私がする意地悪は私に向けた優しさだから、サンジには申し訳ないけど。

「ゾロのことか!!」

 叫びながら走ってくるサンジから逃げるように、私も走った。サンジの声の後ろでナミの声も聞こえる。ほらサンジ、ゾロのところに行っちゃう私を追いかけててナミに怒られてもいいの?きっとサンジのことだから、あの俊足で私のことを捕まえて、キッチンまで連れ込んでからナミにコーヒーを入れようとしてるんだろうけど。私は掴まらないように、うまく隠れるからきっとナミには怒られちゃうよ。私は別に怒ってないんだから、ナミにコーヒー淹れてから私を捕まえに来るのが一番いい選択なのに。だから私を追っかけてないで早くコーヒー淹れに行けばいいのにね?
 なあんて。追いかけて欲しいから言った意地悪だけど。もうちょっとサンジが私を追いかけてくれるのを楽しんで、後はナミに怒られてしょんぼりするサンジを見て楽しむこととしましょうか。


 しまった、私のせいでコーヒーが遅くなったってバレたら、ナミに怒られるのは私か。






20100214
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