私があなたのお姫様





「ちょっ…と何あれ!?」
「へ?」

 停泊していた夏島のビーチでバカンスを満喫していた私達ルフィ海賊団。ルフィとチョッパーは走り回って珍しい生き物を追っかけていて、ビーチパラソルの下ではナミとロビンがゆったりとサンジの作ったドリンクで喉を潤していた。そこから少し離れたところで私とウソップは砂遊びをしていて、砂集め係と称して無理矢理連れて来たゾロが傍で寝転んでいる。そんな風にゆったりと遊んでいた途中、急に私がナミ達のいた方を見て叫んだのを聞いて、一緒に遊んでいたウソップと寝転んでいたゾロも顔を上げた。

「ななななななんじゃありゃー!?」
「デケぇな」
「なんでロビンをお姫様抱っこしてんのー!?」
「 「 そこかよ!? 」 」

 どこから現れたのか、巨大な怪物がこっちに向かって来ていたのだ。ナミは砂を巻き上げながら私達の横を猛ダッシュで逃げて行ったというのに、一緒にいたはずのサンジとロビンはと言うと…。逃げる気があるのかないのか、悠長に未だ本を読むロビンをお姫様抱っこするサンジがこちらに走って来ていた。
 そう、私が気になるのは怪物なんかよりも、コッチ! コ ッ チ な の ! サンジったらいつもいつもいつも!ナミとロビンにペコペコでれでれしちゃって!私だってお姫様抱っこしてもらったことないのに!!それなら私だって…!
意気込んだ私はゾロの背後に回り、両肩に手を乗せた。

「逃げるよ!」
「別に逃げなくてもルフィが倒す気満々だぜ?」
「ななななななに言ってるゾロ!とりあえず安全な場所に逃げた方がいいに決まってるだろ!?」
「安全かどうかなんてどうでもいいの!」
「どうでもいいのかよ!?」
「いいから、ゾロおんぶ!!」
「…なにがしてぇんだ」
「サンジの前を走って!サンジに見えるように!!」

 いきなり背中に飛び乗った私をゾロは軽く受け止めて、呆れたように溜息をついた。ウソップはいつの間にかもう逃げていて、ナミのすぐ後ろを走っている。さすがウソップ、と関心しつつ後ろを振り返ってみればロビンをお姫様抱っこしたサンジも私達のすぐ近くまで来ていた。その後ろでルフィは怪物と遊ぶ、もとい倒す気満々。
 私は右手で前を指差し、大声で叫んだ。

「行っけゾロォ〜!!」
「俺を ま き こ む な!」
「だって!サンジがヤキモチ焼く相手って言えばもっぱらゾロなんだもん」
「で、お前は毎回あの女共にヤキモチ焼いてると」
「まさか?」
「じゃあコレはなんだよ」
「私が走っても足遅くて逃げ切れないから!」

 なんて、ルフィが倒してるし、そもそも怪物から逃げる気なんてないんだけど。いざとなればゾロがいるし。歩いているに近いスピードで走るゾロの背中に揺られながら、サンジもこれでヤキモチ焼いてくれてるかなぁ、なんて考えながら再び後ろを振り向いた。
 するとそこには怖い顔をして、ものすごいスピードで走ってくるサンジの姿が。もう腕にはロビンを抱えていなくて、ただひたすらにこっちに向かって走ってきている。 も の す ご い 形 相 で 。

「っえ!?ロビンは!?」
「あ?」
「は、速く!スピードアップ!ゾロもっと速く!!」
「はぁ?なんだよ…つうかナミ達戻ってってるぞ」
「怪物より怖いの追ってきたの!」
「ハァ?」

 ナミもウソップも走るのを止めて、再び私達を通り過ぎて元いた場所へと戻っていた。ルフィが怪物を仕留めたらしい。それでも、もとから怪物のことを気にしていなかった私にとってはそんなこと関係ない。ものすごい形相したサンジっていう怪物が追ってきてるんだもん、さっきよりも余計に走らなくちゃいけないの!
 私の言うことの意味がわからないのか、ゾロもちらりと後ろを振り返った。先ほど私が見たのと同じもの、怖い顔をしているサンジを見てゾロは「うおっ」と声を漏らした。それほどサンジは怖い顔をして走っているのだ。私はただ私の気持ちをサンジに分からせてやろうと、ちょーっとヤキモチ焼かせたかっただけなのに…なんであんなに怒ってるの!?そもそもサンジの腕の中にいたはずのロビンはどこへ、と探せばナミと笑いながらこっちを見ていた。絶対また面白がってる…。

「ゴラァ!クソマリモ!を降ろせ!!」
「降ろさないで!逃げて逃げて!!」
「だ〜ッ、俺を巻き込むな!」
「ダメダメダメ!あの顔してるときのサンジはマジだから!マジ怖いんだってばー!」
「怒らせたのはお前だろ!?」
「でも最初に悪いのはサンジだもん!」

 追われたらつい逃げてしまうという人間の本能なのかはたまた海賊の本能なのか、ゾロは文句を言いながらも私をおぶったままサンジに捕まらないようにと走る速度を速めた。
 さっきいた場所からだいぶ離れナミ達が小さくポツンと見え始めた頃、ゾロのことだし、あんまり遠くに来ても迷子になっちゃうんじゃ…と少し不安になってきた私は意を決し、ゾロに逆走を命じた。

「バカかお前!そんなことしたら捕まるだろ!」
「でも迷子になるのは嫌だもん!」
「………」
「ね?嫌でしょ?」
「……ならねぇ!」
「はい今自分でもなるって思ったー!間があったー!」
「クソ!…もう知るか!」
「へ!?ちょ、ゾロ………っ裏切り者ーーーッ!!」

 首に回していた手をいきなり掴まれたと思えばそのままグイッと前に引っ張られて、私は小さい子が高い高いされるようにゾロと向き合った。するとゾロはにやりと笑って私を後ろへ、つまりサンジの方へと思い切り投げた。裏切ったこともだけど、なにより投げるってどーゆーことよ!?なんて思いつつも、ゾロのコントロールは良いようで、私は後数秒でサンジの腕の中へ落ちる方向で落下していた。落下する中、サンジの顔を見ているとさっきの怖い顔はどこへやら、少し心配したような、それでも怒っているような顔をしていて、どうやらサンジも私と同じ考えのようでゾロに怒鳴っていた。

「テメェ!レディを投げるとは…!!」
「ウルセェ!返してやったんだから黙って受け取れ!」

 ゾロは迷子にならないためにか、私達から逃げたかったのか、ナミ達の所へと走って行ってしまった。私は無事サンジにキャッチされ、さっきまで「私だってお姫様抱っこしてもらったことないのに!」と騒いでいたこともアッサリと解決してしまった。

「お帰りなさい、オテンバ姫?」
「タ、タダイマ…変態王子」

 笑顔なのに怖い、そんな笑顔を向けるサンジに私もなんとか負けじと笑顔で返事を返す。

「ん?なに王子だって?」
「…変態」
「誰が?」
「…サンジが」
「誰が変態だ!」
「だらかサンジが!」
「俺のどこが変態だって言うんだよ!」
「どーせさっきだってロビンの体触ってゲヘゲヘしてたんでしょ!」
「ゲ、ゲヘゲヘって…おっさんか俺は!」
「そうなんじゃないですかァ〜」

 お姫様抱っこしてもらいたい、という願望が叶ってツンケンする必要はもうどこにもないのに、どうもこの口は思うように動いてはくれない。サンジがナミやロビンにかまうのはいつものこと。それに対して本気でヤキモチを焼いてるわけじゃないんだけど、こんな態度をとってしまう私は少なからずナミやロビンにヤキモチを焼いているっていうことなのかな。でもサンジがナミ達をかまうのに嫌悪感なんか抱いたことなんてないし、ヤキモチなんかじゃないと思うんだけど…毎回ながらこの気持ちはなんなんだろう?「私にも!」って、友達が持っているおもちゃを自分にも、と欲しがる子どものような…そうじゃないような…。
 なんて考えていると、ニヤニヤしたサンジの顔がすぐ傍に。

「…なにニヤニヤしてんの」
「ん〜?ヤキモチ焼いちゃってかわいいなぁ、と思って」
「ヤキモチなんて焼いてませーん」
「またまた、それで俺にもヤキモチやかせようとしたんだろ?」
「純粋に怪物から逃げてただけだもん」
「ふ〜ん?」

 未だニヤニヤした顔で私を見てくるサンジの瞳。なんなの、全てお見通しですか。

「そういえば、のことお姫様抱っこするの初めてだな」
「……ソウデスネ」
「ははっ、嬉しい?」
「べつにっ」
が言えばいつだってしてやるぜ?」

 本当に、サンジには全てお見通しなのかな。素直になれない私の想うことを、次から次へとサンジの口は紡いでゆく。嬉しい、と素直に言って私もして欲しかった、と言えばこんなに簡単なことはないのに。なのに私の口はうまく動かない。口から出たのは拗ねたような可愛くない声。

「じゃあ日が落ちるまでずーっと抱っこしてて」
「仰せの通りに」

 笑顔を向けるサンジに、私も笑顔が漏れた。大事なトコで素直になれないけれど、サンジが全部お見通しならそれでいいや。私もしてもらいたかったお姫様抱っこも、今こうしてしてもらうことが出来て解決したし。
 それでも素直じゃないのが私の性格みたいで、口から出るのはまたまた可愛くない言葉。

「でもどうせ、ナミやロビンが言ってもずーっと抱っこしてたりするんでしょ」
「しないさ」
「絶対するね」
「だいたいナミさんやロビンちゃんはそんなこと言わないよ」
「もし言ったら、の話」
「言わない」
「だからー、もし言ったら!」
「こんなこと言うのはだけだよ」
「なにそれ…私がわがままって言いたいの?」
「そうじゃないよ、こんなこと俺に言えるのはだけってこと」

 そしてサンジは急に私の耳元に口を寄せて

「彼女の特権だよ、お姫様」

 なんて、最高に甘い声で囁いた。

 ボッと音が出たんじゃないかと思う勢いで私の顔は赤くなる。そんな私を笑うサンジに、顔を見られないようにとサンジの胸元へと顔を埋めた。
 あ、サンジの香りがする…
 なんて、恥ずかしくも甘いムードに酔っていた私をブチ壊すかのように、突然サンジが「っあーいナミさん!」と大声をあげた。何事かと驚いていると突然ナミ達のいる方へと走り出したサンジ。
 えっ、なに、なんなの急に!
 見上げれば目をハートにしているサンジの顔が。ちょっとなにコレ、今のムードは?ていうかナミの声なんて私には聞こえなかったのに、どんな耳してんの!?
 私はするりとサンジの首に手を絡めて──────絞めた。

「ぐ、えっ、ちょ、っ」
「 へ ん た い お う じ !」

 「あら楽しそうね」なんてナミに微笑まれて、自分が笑ってることに気が付く。
 甘いムードはどこに行ったの!?とか、そんな時にどうして遠くにいるナミの声が聞こえるの!?とか、私の目の前でどうして他の女の子に向けて目をハートにしてるの!?とか。思うことはいっぱいあるけど、サンジの首を絞めているけれど。なんだかちっとも怒りは湧き上がってこなくて、くつくつと喉に笑い声だけが上がってくる。
 やっぱりヤキモチなんかじゃないと思うんだけどなあ、だってこんなに楽しいんだもん。私はサンジの首を絞めていた手を緩めてあげて、にっこり笑ってナミに返事をした。

「私の変態王子がナミのご用件をお聞きに参りました」

 私の、サンジだからね?と素直に言葉に出来ないけど、素直に言葉に出来なくたってサンジにはお見通しみたいだから大丈夫。そうでしょ、変態王子サマ?
 
「そんなに言うなら変態王子になってやる!」
「キャー!」

 唇を尖らせて、顔中にキスをしようと迫るサンジに私は笑って悲鳴を上げた。






20091211
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